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「矛盾をそのまま描いているのが現代的」新たな“ニューヨーク・ロマンス映画”『マテリアリスト 結婚の条件』の魅力をとことん深掘り

  • 2026.5.22

『パスト ライブス/再会』(23)のA24製作×セリーヌ・ソン監督最新作『マテリアリスト 結婚の条件』が5月29日(金)より公開される。5月20日に本作のトークイベント付き試写会がユーロライブで開催され、映画ライターのISOとMCでライターの奥浜レイラが登壇。リアリストでありロマンチストなソン監督の人物像から、前作『パスト ライブス/再会』との共通点、さらには劇中に描かれたマテリアリスト(=物質主義者)による婚活事情まで、バラエティ豊かな話題を語り尽くした。

【写真を見る】ダコタ・ジョンソン演じるルーシーは、恋愛において相手を“資産価値”で判断する

【写真を見る】ダコタ・ジョンソン演じるルーシーは、恋愛において相手を“資産価値”で判断する [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved
【写真を見る】ダコタ・ジョンソン演じるルーシーは、恋愛において相手を“資産価値”で判断する [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved

本作鑑賞直後の高揚感あふれる劇場に登場した2人。ソン監督へのインタビューを経て、メモがびっしりと書かれた紙を持参したISOは、「言葉を選ばずにいえば、変なロマコメ」と本作を評した。

「僕は子どもの頃からロマコメがけっこう好きで、いつもは『超自然現象のないファンタジー』としてニヤニヤしながら観ているんです。でもこの映画は、そういうファンタジー的なロマンスが覆い隠していた『資本主義下のロマンスのエグい部分』を容赦なくえぐっている。ある意味でアンチラブコメ的でありながら、それでもやっぱり『愛ってすてきだよね』という着地点にいく。その矛盾をそのまま描いているのがすごく現代的だし、人間的ですてきだなと思いました」と話す。

これに対して、奥浜も「リアルを通過したうえでのロマンチストなんだなと感じた」と深く同意。さらに劇中の音楽の使い方や演出について、「私は途中で『月9ドラマを観ているのではないか』みたいな気持ちになったりもして(笑)。音楽の使い方も月9っぽい!」と言及すると、ISOも「けっこう古典的で、ロマンチック全開でいってますよね。やってることはエグいのに、その使い分けがおもしろい」と笑顔で応じた。

映画ライターのISOとMC、ライターの奥浜レイラが映画の魅力を語り合った [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved
映画ライターのISOとMC、ライターの奥浜レイラが映画の魅力を語り合った [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved

前作『パスト ライブス/再会』でアカデミー賞作品賞と脚本賞にノミネートされたソン監督の手腕に話題が移ると、ISOは「監督は、シンプルなプロットから非常に複雑な人間の奥行きを出していくのがめちゃくちゃ上手い。前作も『幼馴染との再会』というわかりやすいフォーマットを使いながらも、文化的な軋轢や移民としての選択といった複雑なレイヤーを、物語にテクニカルに落とし込んでいた。今作もその手腕が遺憾なく発揮されていますよね」と解説。

奥浜も「元々あるジャンルを再定義していく試みがすごくおもしろい。それに、移民としてアイデンティティを構築していった、自分自身のルーツを最大限に活かせる場所として、やっぱりA24というスタジオは最適だし、抜群に相性がいいなと、今回の新作を観ても改めて感じました」と、前作からの大ファンだという2人ならではの深掘りトークに。

ここで話題は、ソン監督の夫であり、同じく映画作家として活躍するジャスティン・クリツケスへと及んだ。彼の大ファンでもあるという奥浜から、思わずニヤリとしてしまう“夫婦の共通点”が明かされた。

「ソン監督の前作『パスト ライブス/再会』や本作、夫のクリツケスが手掛けた『チャレンジャーズ』といった代表作を並べてみると、あるおもしろい共通点に気づくんです。それは、どちらも“三角関係”というフォーマットを持って、これまた恋愛のエグみを描いているということ。夫婦そろってこのテーマを、それぞれの切り口でえぐってくるのがたまらない。私はもう、この夫婦推し、箱推しなんです!」と宣言。さらには「この夫婦、今後は一緒にタッグを組んで、なにかやらないのかな」と、今後のクリエイティブな展開への期待を膨ませた。

その後、本作のテーマでもある「現代の婚活・マッチングアプリ」についてトーク。奥浜は「ロマコメの持つ甘い部分、シュガーコーティングされた部分を剥いでいくと、これはエグい話だぞと(笑)。日本的な感覚で言うと、人の年収や身長といった属性を『私はこういう人が好き』ってつぶさに羅列することって、人前であんまりやっちゃいけない行為。絶対言えないじゃないですか」と分析。

貧乏な元カレのジョン役に「キャプテン・アメリカ」でおなじみのクリス・エヴァンス [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved
貧乏な元カレのジョン役に「キャプテン・アメリカ」でおなじみのクリス・エヴァンス [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved

それに対してISOも、「ユニコーン男(独身の大金持ち)とイケメン貧乏人っていうコテコテな王道フォーマットですけど、そのフォーマットだけ見てホイホイ行ったら、『なんでこんなにえぐられたんだ』みたいになっちゃう(笑)」と同調。奥浜も「ロマコメやラブコメってどうしても世間では『バカにされがち』なジャンルだけど、私はすごく好きです。なぜなら、誰かに向き合うということは、同時に嫌でも自分とも向き合わなきゃいけないから。今作も、主人公のルーシーがほかを通して自分自身と向き合っていく。ロマンスってもっと複雑なものなんだよ、というのを教えてくれる作品です」と本作が斬り込んだ一面についても言及。

また、ダコタ・ジョンソン演じる主人公で婚活マッチメーカーのルーシーが結婚の条件を並べるクライアントと面談するシーンのリアルさについては、奥浜が「あそこは嫌でしたね(笑)。48歳の男性、なんですか。『21歳、22歳じゃちょっとね、話が合わないんだよね』と言いながら、30代の女性を提案したら『27か28だね』とか言って」と顔をしかめると、ISOも「レオナルド・ディカプリオみたいでした(笑)」とツッコミを入れ、会場からは大きな笑いが起きた。

裕福な投資家のハリー役に『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』で来日中のペドロ・パスカル [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved
裕福な投資家のハリー役に『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』で来日中のペドロ・パスカル [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved

本作の大きな見どころであるジョンソン、クリス・エヴァンス、ペドロ・パスカルと、マーベル作品でもおなじみの豪華俳優陣が揃った点についても、熱いトークが展開。なかでも、大金持ちのハリーを演じたパスカルについて、2人はその絶妙なキャラクター造形を絶賛。

奥浜が「ハリーのペントハウスは約18億円だそうですけど(笑)、嫌な奴じゃない。これはパスカルの力ですね」と言うと、ISOも「ソンが描く優男って、すごく魅力的」と評し、「鼻につく感じや嫌味っぽさがまったくからないんですよね。もう1人のジョン(エヴァンス)もそうだけど、どっちのことも嫌いになれない映画。監督のインタビューでも、主人公のルーシーが選ぼうとしているのは『どちらの男性か』だけじゃなくて、マテリアリスト(物質主義)かロマンスか、『どちらのニューヨークで生きたいか』ということらしいです。これまでの名作の系譜を継ぐ、新たなニューヨーク・ロマンス映画になっていますよね」と監督の言葉を交えて分析を披露。

さらに、パスカルが、今週末5月22日(金)公開となる主演映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』の宣伝にあわせて現在、来日中であることにも触れ、「ここにふらっときてくれたら!」と思わず声を上げた一幕も。

『マテリアリスト 結婚の条件』は5月29日(金)より公開 [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved
『マテリアリスト 結婚の条件』は5月29日(金)より公開 [c] Adore Rights LLC. All Rights Reserved

また、ソン監督がニューヨークの結婚相談所でマッチメーカーとしてかつて働いていたことに触れ、劇中で何度も繰り返される「ディール(取引)」という言葉について、ISOは監督のインタビューを引用しながら、「監督は『マテリアリストは、人を物質的な価値観の数字で捉えることに慣れているルーシーが、そのなかで神聖なものを学んでいく物語です』と。非合理な決断をしないためのプロである彼女が、誰かが自分の心を差し出してくれた時、それに対する唯一の答えは『イエス』なんだと気づく。いや、言い得て妙というか」と本作の本質をひも解いた。

それに対し、奥浜は「本当、心に刻みたい。タトゥーにして入れたい言葉ですね!」と感服し、「世の中が世知辛くなればなるほど条件で選ばざるを得なくなる、誰かと一緒に生きていかないと難しいっていう社会。でも、ルーシーが言っていた『自分に価値があると思わせてくれる』というのも、やっぱり大事なことだったりもする。そのあたりを別に“悪”として描いていないのが、すごくいいなと思います」と呼応した。

そして、前作『パスト ライブス/再会』との対比として、ISOは「前作が『イニョン(縁)』という言葉で割り切れないものを描いたとしたら、今作は『愛』。現実的な問題に向き合いながらも、言葉では捉えきれないものによって人生は形作られているんだという。ソン監督って、徹底的にシビアな現実を見つめるリアリストでありながら、同時に底なしのピュアさを信じ抜くロマンチストなんですよね。話しててもハキハキしてるんですけど、めちゃくちゃロマンチスト(笑)。そのギャップ、矛盾を矛盾として美しく成立させられるところが、彼女のなによりの魅力だなと改めて思いました」と解説した。

トークの終盤、本作のエンディングを鮮やかに彩る音楽についての話題へ。

ソン監督と同じく韓国にルーツを持つミシェル・ザウナーのソロプロジェクト、「ジャパニーズ・ブレックファスト」の楽曲がもたらすカタルシスについて、2人は深く感じ入っていた様子で、奥浜は「映画の最後にジャパニーズ・ブレックファストの音楽が流れるのが、本当によくて!ミシェル・ザウナーといえば、ベストセラーになったエッセイ『Hマートで泣きながら』の本を書いていたりもしますけれど、彼女の紡ぐ詩が、本当にこの作品に寄り添った内容になっているんです。それまでのエグい展開を通り抜けたあとの私たちの心を、すごく清らかにしてくれるというか、最後を温かく、甘い感じで終わらせてくれます」と笑顔で語ると、ISOは「映像とのシンクロもすばらしいですよね」とラストシーンまで見逃せない魅力が詰まっていることに触れ、イベントは幕を閉じた。

文/山崎伸子

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