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「そんな変更はしていない」何度も最終確認しメールに残した契約→納品翌日に客から飛んできた一点張りに残る葛藤

  • 2026.5.20

念には念を入れて、メールも見積書も全部残したのに

30代になって、法人向けの契約営業を任されるようになった。

担当する企業は十数社、案件は一件ごとに大きな金額が動くので、ミスは絶対に出せない仕事だ。

その日の案件も、最初は標準仕様で提案していたものを、先方の希望で途中から内容を一部入れ替えていた。

お金が動く話なので、口頭の合意の後、必ずメールで文章を送り直す。

「先日のお打ち合わせで承りました変更点について、改めて文面でご確認をお願いします」

先方からの返信は短く、「はい、その内容で進めてください」とだけ書かれていた。

私は念のため、修正後の見積書を印刷して訪問し、応接室で一行ずつ指でなぞりながら説明した。

「ここの仕様、こちらに変更となっております。金額もこのようになっております」

担当の課長は何度も頷いて、サインまではしないものの、「承知しました」と確かに口にした。

同席していたアシスタントの女性も同じように頷いていた。私の手元の議事録には、その日の発言も丁寧に書き残してある。

納品の翌日、電話越しに飛んできた一点バリ

案件は予定通り進み、無事に納品まで終えた。

請求書を出した翌日、先方の課長から電話が入った。

「あの、これ、こちらが頼んだ仕様と違うんですけど」

受話器を握る手のひらが、一気に冷たくなった。

落ち着いて、変更内容のメールも見積書も議事録も全て揃っていることを伝える。

「そんな変更はしていない」

返ってきたのは、たった一文の繰り返しだった。

メールの控えがあると伝えても、見積書の金額を読み上げても、相手は同じ言葉を繰り返すだけだった。

(あの日、私の前で頷いてた人と同じ人なんだろうか)

結果的に、社内のマネージャーまで巻き込んでの長い擦り合わせになった。

最終的にこちらが用意していた証拠が並んで、追加費用は先方持ちという形で着地した。

表向きは、私が勝った話ということになるのかもしれない。

それでも、電話の向こうの「していない」の声が、しばらく頭から離れなかった。あんなに丁寧に確認した時間は、相手にとっては記憶に残らない数十分でしかなかったのか。

次の打ち合わせで誰かと笑い合っているとき、ふと、この人もいつかあの一言を口にするのかもしれないと考えてしまう自分がいる。

書類が勝っても、人を信じる気持ちのほうが先に少しずつ削れていく。

残ったのは、勝ち負けの外側にある、薄い灰色のモヤモヤだった。

次の案件のメールの下書きを開くたびに、確認の文章だけが少しずつ長くなっていく自覚もある。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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