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猫はそれほど好奇心旺盛ではなかった──実験で猫は「予想どおりの結果」のほうに強く反応すると判明

  • 2026.5.14
猫はそれほど好奇心旺盛ではなかった──実験で猫は「予想どおりの結果」のほうに強く反応すると判明
猫はそれほど好奇心旺盛ではなかった──実験で猫は「予想どおりの結果」のほうに強く反応すると判明 / Credit:Canva

「好奇心は猫を殺す」ということわざがあるくらい、猫は好奇心旺盛な動物として知られています。

しかしイギリスのサセックス大学(UoS)の研究チームが、「おもちゃ」と「箱」を使ってネコに対する認知テストを行ったところ、意外な結果が得られました。

箱で隠されたおもちゃが「予想どおりの場所」に出てきたときと、「予想外の場所」に出てきたときで猫の反応を比べたところ──猫は「予想どおりの」のほうで、おもちゃで遊ぶ確率が高く、箱に近づく行動も多く見られたのです。

これは赤ちゃんや犬で何度も確認されてきた「予想外の出来事に驚いて注目する」というパターンとは大きく異なります。

サセックス大学公式プレスリリースはこの点について、猫は「結局、それほど好奇心旺盛ではなかった(Not So Curious After All)」と表現しています。

いったいなぜ、猫たちは「驚き」よりも「いつもどおり」を好んだのでしょうか?

研究の詳細は2025年7月9日付で学術誌『PLOS One』に掲載されました。

目次

  • 実は猫は「ルーティン」も大切にする生き物
  • 猫は研究者の予想を3回裏切った
  • なぜ猫は「予想通り」に惹かれるのか?

実は猫は「ルーティン」も大切にする生き物

猫は「予想通り」と「予想外」のどちらを好むか?

実は猫は「ルーティン」も大切にする生き物
実は猫は「ルーティン」も大切にする生き物 / いいヒントをもらった/Credit:Canva

猫の行動はきまぐれです。

奮発して買ったキラキラの猫用おもちゃには一瞥もくれないのに、Amazonの段ボール箱にはすぐ飛び込む。

猫じゃらしは3日で飽きるのに、なぜか紐や綿棒だけは半年間の愛用品──そんな経験はないでしょうか。

猫は「好奇心旺盛な動物」だとよく言われます。

新しい匂いを嗅ぎ、未知の隙間に鼻を突っ込み、飼い主がお風呂に入っていればドア越しにじっと覗いてくる。

しかし同時に、猫は恐ろしいほどルーティンを重んじる生き物でもあります。

毎日同じ時間にごはんを催促し、同じ場所で昼寝をし、家具の配置がちょっと変わっただけで何日も不機嫌になる子もいます。

つまり猫には「好奇心」と「ルーティンへの依存」という二面性がある。

ここまでは多くの人がなんとなく知っていることです。

問題は、猫が「予想外」と「予想どおり」のどちらに強く反応するのかということ。

そこで今回、サセックス大学の研究チームは、「対象の永続性」と呼ばれる認知能力を測るテストでこの問いに切り込みました。

難しそうな名前ですが、やっていることはいないいないばあと同じ。

「目の前で布をかぶせられても、その下にはおもちゃがあるはず」と理解する力のことです。

赤ちゃんは生まれてすぐにはこの理解を持っていません。

布をかけられた瞬間、「消えた!」と思って興味を失ってしまう。

けれど成長するにつれ、布をめくって探すようになります。

心理学者のピアジェはこの理解力の発達を6段階に分けました。

最高レベルのステージ6は、いわば手品のタネを見破る力。

「隠す瞬間を見ていなくても、推理して見つけられる」という段階です。

人間の子どもは1歳半〜2歳でここに到達します。

類人猿ではこの段階のクリアが確認されており、犬についても支持的な研究があります。

では猫はどうでしょうか?

これまでの研究では、猫はステージ4〜5(目の前で隠したものを探す)まではクリアできると確認されてきました。

逃げるネズミを追い、家具の裏に消えた獲物の位置を覚えている、あの優秀なハンターのことです。

研究者たちは「最高レベルのステージ6も当然クリアできるだろう」と予想していました。

猫に「手品」を見せてみた

猫に「手品」を見せてみた
猫に「手品」を見せてみた / だ…駄目だ、まだ笑うな…こらえるんだ…/Credit:Canva

研究ではある種の手品が行われました。

設定はシンプルです。

2つの段ボール箱と、猫のお気に入りのおもちゃ。

まずおもちゃを猫の目の前で片方の箱に入れます。

次にA4フォルダーで一瞬だけ猫の視界を遮り、その向こう側で箱を動かす音だけを聞かせます。

フォルダーを外すと──実験者が箱からおもちゃを取り出して置くのは、「予想どおりの箱」の上か、「反対側の箱」の上か。

猫から見れば、どちらも「何かガサガサやっていた」のは同じ。

違うのは結果だけです。

手品師がコインを左手から右手に移して見せるとき、観客が驚くのは「あるはずのところに、ない」「ないはずのところに、ある」というギャップ。

今回の実験で測ろうとしたのも、まさにこのギャップへの反応でした。

赤ちゃんや犬を使った先行研究では、こうした「予想外の結果」を見せられた被験体は、より長く見つめ、より積極的に近づくことがわかっています。

「あれ?なんで?」という驚きが、好奇心のスイッチを押すわけです。

加えて、研究チームはもうひとつ仕掛けを用意しました。

手品をする人間を「飼い主」と「見知らぬ研究者」の2パターンに分けたのです。

猫が「誰がやったか」で反応を変えるかどうかも、同時に調べることにしました。

実験はすべて猫の自宅で行われました。

慣れない場所ではストレスで猫が動かなくなってしまうからです。

参加した18匹の猫たちは、どんな反応を見せたのか。

結果は、研究者たちの予想を見事に裏切ることになります。

それも、3回。

猫は研究者の予想を3回裏切った

猫は研究者の予想を3回裏切った
猫は研究者の予想を3回裏切った / 何がなんだか……わからない……/Credit:Canva

裏切り① 猫は「驚き」ではなく「いつもどおり」を選んだ

これが今回の研究の最大の発見です。

おもちゃが「予想どおりの場所」に出てきたときのほうが、猫は箱に近づき、遊ぶ確率が高く、興味の表れがはっきりしていたのです。

赤ちゃんや犬で確認されてきたパターンとは、真逆の反応でした。

主任研究者のジェマ・フォーマン氏は「猫は予想どおりの出来事と予想外の出来事を区別できていました。しかしその反応の方向は、赤ちゃんや犬で確認されてきたものとは正反対でした」と述べています。

「区別できていなかった」のではなく、「区別したうえで真逆の方向に振れた」。

ここが、この研究のいちばん大事なポイントです。

驚きではなく、予想どおりの展開に強く反応する動物。

それが今回浮かび上がってきた猫の姿でした。

裏切り② 半数以上が見つけられず、その多くが探そうとしなかった

もうひとつ衝撃的だったのは、手品を見せる前の段階──ただ目の前でおもちゃを箱に入れただけの「かくれんぼ」レベルのテストです。

そのいちばん簡単なテストで、18匹中10匹(約56%)がおもちゃを見つけられませんでした。

しかもそのうちの8匹は、探そうとすらしなかった。

つまり全体の約44%が、目の前で見ていたはずのおもちゃに、まったく手を出さなかったのです。

テスト用紙を配られた瞬間に突っ伏して寝る学生のような潔さです。

ただし、これは猫の頭が悪いという話ではありません。

過去の研究では、報酬を食べ物に変えると成功率が大きく上がることがわかっています。

知らない人間が持ってきた謎のぬいぐるみを箱から掘り出すことに、猫がメリットを感じなかった──ただそれだけのこと。

能力の問題というより、やる気の問題が大きかった可能性が高い、と著者たちは見ています。

猫の飼い主なら「わかるわかる」と深くうなずくのではないでしょうか。

裏切り③ 知らない人がいると「行動の使い分け」が起きた

3つめは、人の影響です。

見知らぬ研究者が関わると、猫はおもちゃへの関心を残す一方で、箱への関わりは弱まるという、複雑な反応を示したのです。

おもちゃには興味がある。

でも知らない人間が仕掛けた「装置」には警戒する。

猫らしい選り好みが、データにくっきり表れていました。

共著者のジョーダン・S・ロウ氏はこう説明しています。

「猫は認知的な課題に興味を持っていますが、知らない人がいると行動がより複雑になるのです」

さらに細かく見ていくと、性別・品種・暮らし方でも差が出ていました。

メス猫、雑種猫、完全室内飼いの猫、多頭飼いの家庭の猫は、おもちゃに興味を示す確率が高かったのです。

環境の違いや個体差が、こんなにくっきりデータに表れる動物も珍しいのです。

「猫は他の家畜種よりも、周囲の文脈にずっと敏感なのかもしれない」と論文は指摘しています。

しかし、そもそも、なぜ猫たちは予想通りに強く惹かれるのでしょうか?

なぜ猫は「予想通り」に惹かれるのか?

なぜ猫は「予想通り」に惹かれるのか?
なぜ猫は「予想通り」に惹かれるのか? / 猫って 面っ白!/Credit:Canva

なぜ猫は「予想通り」に惹かれるのか?

ここから先は、今回の論文で提示された仮説や過去の研究成果も含めて紹介します。

ひとつの鍵は、猫の狩りのスタイルにあります。

猫は、犬のように群れで獲物を追い回すタイプのハンターではありません。

どちらかといえば、身を低くして待ち、相手の動きを読み、ここぞという瞬間に飛びかかるタイプです。

こうした狩りでは、獲物が一瞬だけ草むらや家具の裏に消えることがあります。

そのとき大切なのは、「獲物は消えた」のではなく、「見えないだけで、まだそこにいる」と扱う力です。

つまり猫にとって「予測」は、ただの知的な遊びではありません。

それは、獲物がどこから出てくるかを読むための、かなり実用的な能力なのです。

ここから考えると、「予想どおり」の展開に猫が反応したことは、不思議ではありません。

予想どおりの場所に対象が現れると、猫にとって次に「関わりやすい状況」になった可能性があります。

予想どおりの場所からおもちゃが出てくると、猫にとってその対象は「追えるもの」「捕まえに行けるもの」になります。

反対に、予想外の場所から突然出てくると、それは単なる獲物というより、「状況が読みにくいもの」になるのかもしれません。

やや人間っぽく言えば、世界が理解でき、次に自分がどう動けばいいかがはっきりする瞬間です。

つまり「予想通り」は猫にアクションを促す切欠になりえるわけです。

猫は予想通りが好き
猫は予想通りが好き / 待ち伏せ型の狩りをする猫にとって「予想通りの結果」と言うのはこの表情のように思わず狩猟本能を刺激してしまうものなのかもしれません。/Credit:Canva

もちろん、猫が常に予測可能なものだけを好むわけではありません。

過去に行われた別の研究では同じおもちゃを何度も見せると猫の遊びは急速に弱まり、色や感覚的特徴を変えたおもちゃを出すと、再び強い遊びが引き出されることも報告されています。

つまり、猫が好きなのは「完全に退屈な同じこと」ではありません。

むしろ猫が求めているのは「大枠は読めるけれど、細部には少し変化がある状況」なのかもしれません。

これは、上手な猫じゃらしの動かし方にも似ています。

いきなり予測不能な動きばかりをすると、猫は警戒してしまう。

ただ同じ場所を往復するだけでもすぐ飽きる。

「たぶん右に逃げる」と思わせて、少しだけタイミングをずらす。

「そこに隠れている」と思わせて、少しだけ顔を出す。

この「読めるけれど、完全には読めない」というバランスが、猫の狩猟回路をいちばん気持ちよく回すのです。

一方、今回の研究ではいわゆる「動機づけ仮説」が提示されています。

これまでの研究で、おもちゃではなく食べ物のような、より意欲を引き出す報酬が使われた場合や狩猟を模した状況では、猫は隠されたものへの興味(対象の永続性)に関する課題でより高い成績を示しています。

つまり、猫がおもちゃで遊ぶかどうかは「面白そうかどうか」ではなく、その対象が「獲物として追う価値があるか」で決まっている可能性がある、ということ。

これを踏まえると、今回の結果は「やればできるけど、やる理由がない」という状態がみえてきます。

予測が当たった場合は「読みどおりだ。取りに行く価値がある」と判断するものの予想外の場合は「状況がよくわからなし」に加えて、動機の部分では「ぬいぐるみだし、わざわざ動くほどでもない」と判断している可能性があるわけです。

サセックス大学公式プレスリリースがこの点について、猫は「結局、それほど好奇心旺盛ではなかった(Not So Curious After All)」と述べていたのも、猫の行動スイッチが入る条件が、そもそもかなり特殊で、既存の動物の行動パターンに当てはめて測れない、という意味も込められていると考えられます。

もっとも、今回の研究によって「猫が好奇心よりも予測可能を好むことが絶対的に確定した」とまでは言い切れません。

論文のなかで著者たちは「調査されたサンプルが猫を代表するのに理想的でない可能性がある」と述べています。

世界中には様々な種類の猫がいろいろな環境下で生活しており「絶対」と言うにはそれら多様な猫たちにも実験を行わなければなりません。

また「猫が哺乳類のなかで例外的なのかについても、現時点では判断できない」と慎重に書いています。

先にも述べたように猫は「隠されたおもちゃ」が「予想通り」と「予想外」の場所から再出現した時に「予想通り」ほうにに惹かれました。

そういう意味では珍しい習性と言えます。

しかし地球上に存在する哺乳類の中には、猫に似たパターンをみせる種がいるかもしれません。

そのため現時点で猫だけが特別に異常とは言い切れないわけです。

それでも今回の結果が、過去の関連研究と組み合わさることで、「猫という生き物の見方」を一段深めてくれたことは間違いありません。

呼んでも来ない、ご褒美のために芸はしない、知らない人には警戒する。

それらの行動の根っこには、「読めるかどうか」を毎回計算している猫の認知があるのかもしれません。

そしてそれが、猫を猫たらしめている理由そのものなのかもしれません。

参考文献

Not So Curious After All: New study finds cats prefer predictability
https://www.sussex.ac.uk/broadcast/read/68547

元論文

Object permanence in domestic cats (Felis catus) using violation-of-expectancy by owner and stranger
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0312225

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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