1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 親を亡くした悲しみが消えないあなたへ…【禅僧・枡野俊明さん】が教える「心の中でできること」

親を亡くした悲しみが消えないあなたへ…【禅僧・枡野俊明さん】が教える「心の中でできること」

  • 2026.5.11

親を亡くした悲しみが消えないあなたへ…【禅僧・枡野俊明さん】が教える「心の中でできること」

今回は、7年前に大好きだったお父さまを亡くしてから後悔してばかりという女性からの相談です。禅僧・枡野俊明さんが仏教における死の意味とともにアドバイスします。

「開門福寿多(門を開けば福寿多し)」

自ら門を開くことで福を招き入れようという禅の言葉です。

<今月のテーマ>
大好きだった父が恋しい。親の死を乗り越える方法は

父が亡くなって7年。私は子どものころから父が大好きだったので、今でも父を思うと涙が出ます。もっとこうしてあげたかった、話したかった、聞きたいこと、教えてほしいこと、たくさんあるのに……。考えれば考えるほど悔やんでしまいます。

人間の死は二度ある。生命の死と記憶の死

死とはなんでしょう。多くの人は「生物としての死」をイメージすると思います。心臓が止まり、生命活動が停止することを、私たちは「死」と呼びます。

けれど仏教における死は、それだけではありません。仏教では、人間の死は二度あると言われています。二度目の死とは、残された人たちの心から消えてしまうことです。

私たちは親しい人を失ったあとでも、折に触れてその人を心に思い浮かべます。重大な選択の場面で「もしこの場にあの人がいたら、どんなアドバイスをしてくれただろう」と想像したり、「あの人はこういうことを大切にしていた。自分も見習おう」と思ったりすることはないでしょうか。故人の形見を身につけることで「いつもいっしょだ」と思うこともあります。その人を知らない子や孫に「おじいちゃんはこんな人だった」と話すこともあるかもしれません。

よく「あの人は私たちの心の中に生きている」と言いますが、こういう小さな積み重ねの中に、亡くなった人は生き続けるのです。

宗教というものはまさにその代表と言えるでしょう。仏教は、約2600年前のお釈迦様の言葉を世界中で語り継いでいます。キリスト教は約2000年前のイエス・キリストの言葉を、イスラム教は約1500年前のムハンマドの言葉を現代に継承しています。人が亡くなったとしても、その思いを受け継ぐ人がいる限り、その存在はけっして消えることはありません。

「お父さんだったらどうする?」をよりどころに

感應道交 かんのうどうこう

たとえ他界したとしても
故人に気持ちを伝え、心を交わし
ともに生きていくことは可能です

禅には「感應道交(かんのうどうこう)」という言葉があります。お互いがお互いを信じ合い、すべてを投げ出して真剣に人間関係を保つことの大切さをあらわしています。これは仏様と人間の間で心を交わすことをも意味します。

相談者さんは、他界されたお父さまのことを今も思い続けているのですね。まさに感應道交を続けているのでしょう。つらくなるお気持ちもわかりますが、これから先もお父さまと心の中で会話し続けてください。日々のうれしかったこと、悲しかったこと、今日の出来事をお父さまに伝えることをずっと続けてください。

そして、お父さまの遺志を継ぐためには、どのように考え、どのように行動するのがいいのかを問い続けることが大切です。「お父さんだったらどうする?」「お父さんだったらどう考える?」と自問自答することで、おのずと自分の歩む道が見えてくるはずです。お父さまを失った悲しみが癒えることはないかもしれませんが、お父さまとともに生き続けることで前向きに生きることができるのではないでしょうか。

過去の悔いを糧に、今の自分の行動を変える

相談者さんは「父との時間をもっと大事にすればよかった」と悔いているご様子です。身近な人が亡くなったとき、誰しも思う気持ちです。けれど人間は、完璧ではありません。もしタイムマシンでお父さまの生前に戻れたとしても、悔いなく見送ることはできないでしょう。

だからこそ、過去ではなく現在を見つめてください。できなかったこと、失敗してしまったことをご自身の中でしっかりと受け止めて消化し、今できることに振りかえていくのです。

もしもお母さまがご存命なのであれば、お父さまにしてあげられなかったことをお母さまにしてあげてください。あるいはご高齢の親戚や近所の方でもいいと思います。ご主人やお子さん、ご友人などといい関係を保っていくためのヒントにもなるでしょう。マイナスの経験を悔いるだけでなく、どうプラスに転じていくかを考えることがご自身のためになるはずです。

お父さまがお亡くなりになって7年。今も思い出して恋しく思われるのは、生前のお父さまととてもいいご関係を築いていらしたからなのでしょう。お父さまのそのような姿勢を、相談者さんの今後の生き方にぜひ取り入れてください。それこそが、お父さまが最もお喜びになる生き方なのではないでしょうか。

アドバイスいただいたのは

枡野俊明さん
曹洞宗徳雄山 建功寺住職
1953年神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山 建功寺第18世住職。庭園デザイナー。多摩美術大学名誉教授。「禅の庭」を通して国内外から高く評価され、2006年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に。『悩みを手放す21の方法』(主婦の友社)など著書多数。

元記事で読む
の記事をもっとみる