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アップサイクル先駆者マリーン・セル。ブランド10周年を目前に「未来に残る服」を語る

  • 2026.4.26
Hearst Owned
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Courtesy of Marine Serre

1991年、フランス・コレーズ生まれ。ラ・カンブル卒業後、「バレンシアガ」でキャリアをスタート。自身の名を冠したブランドを設立した2017年に、「LVMHプライズ」を受賞し注目を集める。アップサイクルを軸とした独自の美学で国際的評価を確立し、クチュールの精密さと革新性を融合したコレクションを展開。2025年、日本初のショップを渋谷パルコにオープン。現代を代表するデザイナーの一人として活躍する。

女性として、女性のために服をつくる視点

マリーン・セルと愛犬のソマ。 Courtesy of Marine Serre

来年でブランド設立10周年を迎えられるとは、自分でも驚きです。振り返ってみると、最初から「デザイナーになろう」と強く決めていたわけではないんです。ただ、美しいものを作りたいという衝動と、すでにこの世界に存在している素材をどう扱うべきかという問いが、自然と今の場所へ導いてくれました。

26歳でブランドを立ち上げてから、自分自身の変化も感じています。何かを大きく変えたというより、自分の中にあったものがより明確になったという感覚です。私は女性デザイナーとして、女性のために服をつくっています。実際に自分で着るからこそわかる感覚がありますし、どこを見せたいか、どうすれば心地よくいられるかを大切にしています。強さと快適さの両立は簡単ではありませんが、とても重要ですよね。私はそれを「ワイルドなフェミニニティ」と呼んでいます。セクシーという言葉だけでは表現できない、もっと自然で、本能的で、自分自身に根ざした美しさ。服はセカンドスキンのように身体に寄り添いながら、その人の存在を引き立てる存在であってほしいと思っています。

ブランドだけではなく、私自身の見なりについても「雰囲気が変わった」って言われることがよくあります。おそらくショートカットのイメージが強いからかもしれませんね。でも実は、数年前から結構髪は長いんですよ、結んでいただけで。気づかなかったでしょ?

「未来へ残る服」を巡るアプローチ

「マリーン セル」2026-27秋冬コレクションより。  Courtesy of Marine Serre
「マリーン セル」2026-27秋冬コレクションより。 Courtesy of Marine Serre

2026-27秋冬コレクションは、これまでの積み重ねでもあり、同時に新しいスタートでもあります。ルーヴル美術館との協働も、私にとってはとても自然な流れでした。何度も足を運ぶ中で、作品がどのように時間を超えて残っていくのかを考えるようになり、ますます「残る服を作りたい」という思いが強くなっていったのです。だからこそ今季はショーという一瞬で終わる形式ではなく、長く残るイメージとして、オフィスでの対面プレゼンテーションとルーヴル美術館でのディナー会という表現を選びました。

そして今季のコレクションには、私がブランド設立当初、もしくはその前から一貫して探究する美学が凝縮されています。シルエットを研ぎ澄まし、女性の身体を軸に建築のように構築すること。例えば、コルセットを軸にした5体のクチュールピースの中には、絵画制作に使われるブラシや絵の具チューブを用いた作品もあります。また、パズルのように無数のピースを組み合わせ、時間をかけて縫い上げたドレスは、壊れてしまいそうな繊細さと彫刻的な強さを併せ持っています。安心してくださいね、コレクションには日常に適したアイテムもたくさんありますから(笑)。トレンチコートがドレスへと変わり、ジャージーが彫刻のように立ち上がり、アップサイクルされた素材が新たな存在として再構築される。すべては今だけでなく、“未来”に残すための試みです。

サステナビリティとファッションの関係

「マリーン セル」2026-27秋冬コレクションより。18枚の白シャツをアップサイクルし、黒のテクニカルジャージーを組み合わせた“フレミッシュ・ペインターズ・ドレス”。 Courtesy of Marine Serre

サステナビリティについてはよく質問されますが、私にとっては特別なテーマというより、ものづくりにおけるごく自然な前提です。自然に囲まれて育ったという環境が影響しているのかもしれませんね。素材を選ぶときも、新しいものを生み出す前に「すでにあるものをどう生かすか」を考えます。それが結果的にアップサイクルになるだけなんです。ただし重要なのは、アップサイクルだから価値があるということではなく、美しい作品として成立しているかどうか。

遠くから見れば完成された素材のように見え、近づくことでその背景が見えてくる。そんな二層構造が面白いと思っています。ファッションは確かに過剰生産という課題を抱えていますが、だからといって創造を止めるべきではありません。むしろ制約の中でこそ、より強く、より新しい美しさが生まれると感じています。サステナビリティはゴールではなく、その上にどんな表現を築けるかが問われているのではないでしょうか。

自然と共にある日常、多文化との出合いが着想源

愛犬のソマと、マリーンが生まれ育てられたコレーズ(フランス中部の地方)での散歩の様子。 Courtesy of Marine Serre

最近、パリ郊外の庭付きの家に引っ越しました。4歳になる愛犬と庭で遊んだり、森の中や川沿いを歩いたり、自然の中で過ごす時間を大切にしています。フランス中部の自然豊かな地域で生まれ育った私にとって、自然は日常の一部として常に感じていたい存在なのです。そうした時間が感覚を整え、新しいアイデアへと導いてくれます。

同時に、旅もとても重要なインスピレーションの源です。アフリカやインドなど、さまざまな場所を訪れてきましたが、日本は特に印象的でした。すべてのものに対する細やかな意識と、ディテールへの徹底したこだわり。器や香り、日常の道具に至るまで、美意識が一貫していることに感動しました。物を作るという行為が、どれほど深い意味を持つのかを改めて考えさせられました。そうした姿勢に触れることで、自分自身のものづくりに対する意識もさらに研ぎ澄まされていきます。そんな洗練された美的感覚を持つ日本に昨年、第一号店をオープンできたことを光栄に感じています。

「自分を信じる」──これまでも、これからも

「マリーン セル」2026-27秋冬コレクションより。シグネチャーである三日月柄のセカンドスキンのルック。 Courtesy of Marine Serre

未来について、明確な計画があるわけではありません。私はどちらかというと、流れに身を委ねて進んでいくタイプです。ただ、自分がどこへ向かっているかという感覚は常に持っています。ブランドがより大きな存在になることは一つの願いですが、それ以上に大切なのは、自分たちが何を信じ、何を創り続けるか、だと思っています。

もし次の世代に伝えたいことがあるとすれば、自分の感覚を信じてほしいということです。周りの声や流行に左右されるのではなく、自分が美しいと感じるものを追い続けること。それは時間がかかるかもしれませんが、必ず形になります。私自身がそうだったように。だからこれからも問い続けていきます。何が残るのか、何を残していくべきなのか。その答えを、私は服というかたちで表現し続けていきます。来年の設立10周年は盛大にお祝いしたいと思っていますが、まだ構想中。楽しみにしていてくださいね!

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「マリーン セル」2026-27秋冬コレクションの全ルックもあわせてチェック!

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