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主役は解雇、現場はまるで「動物園」…『エクソシスト』原作者が執念で作り上げた“正統派続編”が劇場初公開

  • 2026.4.25
映画『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』場面写真 (C)2026 American Genre Film Archive (C) 1979 The Ninth Configuration Company. All Rights Reserved. width=
映画『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』場面写真 (C)2026 American Genre Film Archive (C) 1979 The Ninth Configuration Company. All Rights Reserved.

筋金入りの映画ファンも思わず唸る、激シブな作品セレクトで度肝を抜く特集上映「新宿ハードコア傑作選」の第2弾が、シネマート新宿で開催中だ。今回もまたコンプライアンス度外視の衝撃作が出揃ったが、特に注目したいのがカルトな評価を集めながら待望の日本劇場初公開となる『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』(1980年)だ。

【写真】伝説のカルト作が劇場初公開 『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』フォトギャラリー

■“信仰の神秘”三部作の一篇

『エクソシスト』(1973年)の原作・製作者である鬼才ウィリアム・ピーター・ブラッティの初監督作で、『エクソシスト』と本作、同じくブラッティが演出を務めた『エクソシスト3』(1990年)とあわせて“信仰の神秘”三部作と称される異色の傑作である。

ヴェトナム戦争末期。アメリカ政府は戦場での苛烈な体験から精神を病んだ軍人たちが「本当に狂っているのか」を確かめるべく、秘密の調査療養所を設けた。そのひとつが山奥の古城に隔離された「第18号施設」。ここに元海兵隊員で精神科医のケーン大佐(ステイシー・キーチ)が赴任する。

患者にズボンを盗まれ、パンツ姿で出迎えたフェル軍医(エド・フランダース)が案内する施設内は風変わりな患者たちばかり。なかでも月ロケット打ち上げ寸前に発狂した宇宙飛行士のカットショウ(スコット・ウィルソン)は反抗的で、肌身離さぬお守りの聖クリストフォロスのメダルをケーンに託し、「神が存在するなら世界にはなぜ悪や苦しみがあるのか」と問う。

ケーンは「生命創造に必須な9番目のアミノ酸配列(これが映画の原題)は、奇跡的な偶然の積み重ね」であり、人間の誕生は神の御業だと答える。そして、無償の自己犠牲は人間の善良さの証明で、それは神の目的によってのみ説明がつくのだと説く。

一方、犬を使った芝居の上演に悪戦苦闘中のリノ中尉(ジェイソン・ミラー)はシェイクスピア演劇から狂気の本質を掘り下げ、ケーン自身が狂っているのではないかと疑う。事実、ケーンは徐々に悪夢と幻覚に苛まれ、“キラー・ケーン”と恐れられた戦地でのおぞましい蛮行の記憶を取り戻す。

施設を脱走したカットショウが、酒場で極悪バイカー集団から地獄の凌辱を受けていると知ったケーンは現場に急行。壮絶な戦いのなかで、遂に封印していた恐るべき“キラーケーン”に覚醒してしまう。

哲学・神学と破壊的なユーモアが入り混じる本作を監督したウィリアム・ピーター・ブラッティは、元々は『暗闇でドッキリ』(1964年)などコメディ映画を得意とした作家。1966年に映画の原作小説『Twinkle, Twinkle, "Killer" Kane (未翻訳)』を出版。自らの監督デビュー作として脚本を準備し、これが芸域を広げようとする大物俳優チャールトン・ヘストンの目に留まるも不発に終わる。

■映画化に漕ぎつけたブラッティの執念

ブラッティは挑発的なヌード劇場を舞台にした喜劇『The Night They Raided Minsky's(ミンスキー劇場がガサ入れを受けた夜)』(1968年・未公開)の新鋭ウィリアム・フリードキンを高く評価して本作の脚本を送り、製作スタジオを探したが、自他共に認める「奇作」ゆえ反応は薄かった。

その後、フリードキン監督と組んだ『エクソシスト』が未曽有の大ヒット。ブラッティは再び本作の映画化を目指して粗削りな原作を改稿。構成を練り直して文体を洗練させ、1978年に『The Ninth Configuration(邦訳題「センター18」)』として再出版する。

同じ頃、ブラッティは自分の手を離れて製作された『エクソシスト2』(1977年)に愕然とする。その理由のひとつは――ブラッティが作品の根幹に据えたキリスト教に基づく概念を大きく逸脱し、悪魔祓いを異教のウィッチ・ドクターと同一視した“愚行”にあったと想像する。ブラッティにとって『エクソシスト』の精神を受け継ぐ正統な「続編」を作ることは、もはや揺るがぬ使命となった。

しかし、大手スタジオは企画をたらい回しにするばかりで埒が明かず、『プリズナーNO.6』(1967~1968年)の有名俳優パトリック・マクグーハンを主演候補にするも、資金が調達できない。仕方なく“狂える”患者たちの過去と背景を明かすエピソードも脚本からごっそり削った。ブラッティはマリブに所有していた家を売却して製作費を捻出。不足分の出資を清涼飲料水でお馴染みの複合企業ペプシコに求めた。同社が出した唯一の条件は、撮影をハンガリーで行うこと。かの地では余剰資金の運用は国内に限られており、撮影隊はブタペストに飛んでリハーサルを始めた(本編にペプシの自販機がチラリと登場するのでお見逃しなく)。

■難航を極めるキャスティング 現場はまるで「動物園」

俳優陣のキャスティングも混乱を極めた。当初の主演はブラッティが敬愛するイギリスの名優ニコル・ウィリアムソン。だが、彼はどうしてもアメリカ海兵隊員には見えず、癇癪持ちゆえにホテルから国際電話をかけようとしてオペレーターとひと悶着起こし、壁から電話を引き抜いてスイートルームの窓ガラスに叩きつけ、主役を解雇された。代打に選ばれたのは『エクソシスト』で悩める若き神父役の候補になったステイシー・キーチ。感情を押し殺したように物静かだが、心の底に制御不能な暴力の悪魔を抱えた主人公のケーンを、キーチはウィリアムソンを念頭に置きながら演じたという。

宇宙飛行士カットショウ役は『ホロコースト/戦争と家族』(1978年)でエミー賞に輝いたマイケル・モリアーティが降板した為、『冷血』(1967年)の一家惨殺犯役でブレイクしたスコット・ウィルソンが務めた。彼が本来、演じるはずだった多重人格者役には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のジョージ・ディセンゾを配役。ディセンゾが元々演じるはずだった軍医のズボンを盗む患者役はブラッティが自演と、遠征ロケゆえの臨機応変な対応が求められた。ちなみに酒場の地獄絵図をタレこむウェイトレス役はブラッティ夫人で元テニス選手のリンダ・トゥエロだ。

共演には『エクソシスト』の神父役でアカデミー賞候補となったジェイソン・ミラー、『エクソシスト3』で神父役を演じたエド・フランダースも出演。さらに、野獣派ネヴィル・ブランドに悪役俳優リチャード・リンチと、超個性的な面々が勢揃い。親友のブラッティに直訴して、わざわざ役を作って貰った『マニアック』(1980年)のジョー・スピネルを含め、濃い顔のおっさん軍団が自由闊達に狂人芝居に耽る姿は、まさにエキセントリック天国。眼福のひとときだ。

脇役で起用された『ニューヨーク1997』(1981年)のトム・アトキンスは「現場はまるで動物園だった」と回想する。役者はクセモノばかり。過去にやらかした者、実力はあるのに仕事探しに苦労する者、怒れる酔っぱらい。隙あらばプラハやモスクワに遊びに出ようと企む猛獣たちを引率するブラッティは、脱走を阻止すべく撮影現場でギリギリまで登板予定を明かさなかった。

とはいえ、主役をクビになったニコル・ウィリアムソンを含め、大半の役者は『エクソシスト3』に再登板している。ブラッティは義理堅いのだ。

■悪魔と神をつなぐ“見えない線”

完成した映画は興行こそ振るわなかったが批評家ウケは良く、ゴールデングローブ賞の作品賞と助演男優賞候補となり、ブラッティは見事、脚本賞を受賞した。再公開時に編集されたものを合わせて、5つ以上のバージョン違いが存在する本作。日本ではビデオで発売されて、知る人ぞ知る傑作となり、特に熱心なファンの間で『エクソシスト』と共通するモチーフが話題になった。

例えば、『エクソシスト』の悪魔憑き少女が小便を垂れながら呟く恐怖の予言―「お前は宇宙で死ぬ」。宇宙飛行士カットショウの錯乱は、まさにその後日談を思わせる。キリスト教の世界観で、神の存在を自問するブラッティにとって、神も悪魔もない「宇宙」の絶対的孤独は発狂レベルで恐ろしいのだろう。

そして、カットショウがケーンに手渡す「聖クリストフォロスのメダル」。『エクソシスト/ディレクターズ・カット版』(2000年)では、このメダルが中東の発掘現場から出土し、母子家庭で育った若い神父の記憶を苦く横切り、悪魔祓いを終えた少女の母親の手元に辿り着く。クリストフォロスはイエスの変わり身である幼子を肩に担ぎ、救世主が担う万人の「罪の重さ」を知った人物で、「旅人」の守護聖人でもある。本作の終盤、カットショウの元に戻ってくるメダルには、深い意味が込められているのだ。

雄弁な悪魔が沈黙する神の存在をあぶり出す『エクソシスト』に対し、本作は人間の善の心から神の存在を探る。正気と狂気の境界が曖昧になる感覚は悪魔憑きのテーマと似ており、引き裂かれた善悪を心に宿すケーンの混乱は『エクソシスト3』が描く不可解な憑依現象にも通じる。本作は混乱した物語のなかに、目の覚めるような真理を突く名台詞を仕込み、“信仰の神秘”三部作の中編として、前後の作品で提示された謎を鮮やかに補完する。

■ブラッティが信じた“救い”のかたち

ブラッティは2006年に息子を19歳の若さで失くし、大きな喪失感を味わった。だが、彼の死後、愛息が好きだった庭の木が真冬に芽を出して翌日には枯れ、壊れた電灯が30秒ほど灯る、不思議な“あの世からサイン”を体験している。この世界がどれほど残酷でも、人知を超えた救済はきっとある。奇跡が舞い降りる本作のラストシーンには、ブラッティの愚直なまでに固い信念が、眩く輝いているのだ。

(文:山崎圭司)

特集上映「新宿ハードコア傑作選2」はシネマート新宿にて開催中。『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』は4月24日~4月30日の1週間限定上映。

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