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現代社会との“対話”から生まれるロンドンの創造性。新進気鋭の若手にも大注目!

  • 2026.4.14
Hearst Owned

揺らぎ、交差し、書き換えられていくアイデンティティ。今季のロンドン・ファッションウィークで感じられたのは、固定された価値やフォルムを疑い、その概念を解体しながら再構築しようとする意志だった。構築とゆがみ、過去と現在、純粋さと逸脱——相反する要素の間に生まれる緊張を引き受けながら、デザイナーたちはそれぞれの方法で身体と衣服の関係を更新していく。

「トーガ」「アーデム」「シモーン ロシャ」、そして新鋭「ペトラ・ファーゲルストロム」。ロンドンという都市の多層性を映し出すように、それぞれのコレクションは異なる時間軸と感性を交差させながら、新たな均衡のあり方を提示した。ショー直後に語ったデザイナーらの言葉を踏まえ、4ブランドのコレクションを読み解く。

トーガ(TOGA)

揺らぎ、不確実で、予測不能な変化の連続。その時代の空気をすくい上げるかのように、今季の「トーガ」が示したのは、しなやかに形を変えながらも芯を失わないという姿勢だった。「布を引き上げ、引き寄せ、握り、圧をかけるというフィジカルなアクションを起点に、服の変容の可能性を探った」と語る古田泰子デザイナー。偶然に生まれたゆがみや“幸福なアクシデント”を積極的に取り込みながら、抵抗と柔軟性のあいだにある緊張関係をデザインへと昇華している。ベースはあくまで構築的なテーラリング。力強いショルダーラインを軸にしつつ、ジャケットやシャツは切り替えやギャザー、意図的な“ずらし”によってプロポーションを再構築し、新鮮さをもたらした。

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さらに、コットンやシルク、ウールといった自然素材に合成繊維を掛け合わせることで、ナチュラルと人工のコントラストを強調。見慣れたはずのアイテムが引っ張られ、圧縮されることで流動的なシルエットへと転じ、そこに緊張感が生まれる。とりわけ印象的だったのは、ニットによる“現代版コルセット”の提案だ。ウエストを包み込むタイトなラインが身体を引き締める一方で、肩や裾に広がる動きのあるフォルムと鮮烈な対比を描く。圧と解放、固定と流動。相反する要素がせめぎ合い、ルック全体に独特のリズムを与えていた。

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ファーのように見立てたフワフワの質感や、ジュエルのブローチからスパンコールの装飾まで、豊かなテクスチャーがコントラストをさらに際立たせる。大胆に背中を開けたドレスや、ドレスにパンツやジーンズを重ねるレイヤリングによって、フォーマルとカジュアルの境界も曖昧に。急速に変化する社会のなかで、服は、そして私たちは固定されたフォルムではあり得ない。引かれ、ゆがめられ、再び整えられる。そのプロセスそのものを肯定するかのように、「トーガ」は、強さとしなやかさを併せ持つ新しい均衡を提示してみせた。

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アーデム(ERDEM)

シーズンごとに歴史上の人物(その多くは女性)に着想を得て、独立したファッションハウスとして21年目に入った「アーデム」。設立20周年という節目に際しアーデム・モラリオグルが想像したのは、これまで探究してきた人物たちによる“架空の対話”。過去の装飾や生地、シルエットを解体し、異なる時代・異なるミューズ同士を交差させる。まるで時間を縫い合わせるかのように。そこには「アーデム」らしいクチュール的アプローチによる緻密な技巧と、その人物への敬愛に満ちた再解釈があった。

launchmetrics.com/spotlight
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例えば、マリア・カラス(2024-25年秋冬)とラドクリフ・ホール(2025年春夏)による“架空の対話”は、クリスタルをちりばめたジャカードのオペラコートに、チェック柄のライニングを忍ばせ、ブラトップを合わせるという大胆なレイヤリングへと結実した。デューク・エリントン(2018年春夏)を象徴するリボンのディテールが随所に配され、生物学者であり植物画家でもあったマリアンヌ・ノース(2015年春夏)を称えるうっそうとした自然のモチーフがドラマチックに重なる。自身の卒業制作に登場したジーンズのルックは、クチュールドレスから引用したトップスと組み合わされ、20年以上の時間を経て新たなルックへ。若き日の実験精神と、成熟したブランドの技術が一つの装いの中で共鳴する。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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アーカイブの黒と白のツイード生地は細かく裂き羽根のように見立てたり、同じカラートーンの過去の刺しゅうサンプルをパッチワークでつなぎ合わせたりして一着のドレスへと再構築。それらは過去を保存する行為ではなく、過去を現在に“解き放つ”行為に近い。「長いキャリアを重ねると、ある種の決まり文句や言語と結びつけられてしまうことがあります。それに窮屈さを感じる人もいれば、そこに閉じ込められたように感じる人もいる。前進するためには、解放が必要なことがあります」と口にしたモラリオグル。過去のミューズたちを呼び寄せ、交差させることで立ち上がったシルエットは、アーカイブの再演ではなく、未来へと向けた創造的な対話の産物。そのまなざしは、さらなる次の20年へと開かれている。

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シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)

「シモーネ ロシャ」の今季の舞台は、ロンドン北部の丘にたたずむヴィクトリア朝建築、アレクサンドラ宮殿。磨かれていない木床と退廃的な壮麗さを背景に、三章構成の物語が紡がれた。第一章は、白馬エンバールが導く常若の国ティル・ナ・ノーグ。オールホワイトのルックで幕を開け、モスや乳白色のパレット、クラシカルなティードレスや構築的なウールスーツが、時を超えた理想の若さを描き出す。ロシャは「手の届かない何かを追い求めている感覚。そこが出発点でした」と語り、ブランドらしい儚くもろくも、どこか芯の強さを宿す無垢(むく)なロマンチシズムで神話の世界へと誘った。

Courtesy of The Row
Courtesy of The Row

第2章では、90年代ダブリンのトラベラー・コミュニティーとポニーの文化へ。写真集『Pony Kids』に写る若者たちのリアルな装いが神話と接続し、「アディダス オリジナルス」との協業へと発展した。象徴的なスリーストライプはロングドレスの肩を走り、トラックジャケットはチュールと重なり、バレエシューズとスニーカーのハイブリッドによる3種類のフットウェアも登場。スポーツウェアはレースやラッフルで再構築され、MA-1やシアリングが幻想を現実へと引き戻す。

Courtesy of The Row
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そして終章は、彼女のシグネチャーであるロゼットリボンが主役。一方で、メタルのグロメットやハーネス風のハードウェア、ダークなシアリングガウンが荒々しさを添える。ショーポニーを思わせるドレスは、長いリボンのロゼットだけで構築されたかのようで、タフタドレスのヒップにはリボン結びを模したポケットがあしらわれた。一方で、メタルのグロメットやハーネス風のハードウェア、ダークなシアリングガウンが荒々しさを添える。甘さと粗さ、夢と日常がせめぎ合いながら、実用的なアウターが全体を引き締める。「手仕事的で職人的なピースもあれば、より認識しやすいシルエットに落とし込んだものもある。純粋さや何かを追い求める姿勢、そしてそれがもしかすると実体のないものかもしれないという現実、その両方を見せたかったんです」と締めくくったロシャ。神話とストリート、幻想と現実を縫い合わせながら、彼女は永遠を“いま”の感覚で更新してみせた。

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ペトラ ファガーストロム(Petra Fagerstrom)

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スウェーデン出身のデザイナー、ペトラ・ファーゲルストロムは、セントラル・セント・マーチンズの2025年MAショーで注目を集め、動きに合わせて見え方が変化するレンチキュラープリーツを武器に頭角を現した新鋭だ。卒業後すぐに主要セレクトショップでの展開が始まり、本年度のLVMHプライズではセミファイナリストにも選出。今季、ロンドン・ファッションウィークにて初の単独プレゼンテーションを開催した。

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会場はポール・スミス財団内のスタジオ上階。スモークが漂う静謐な空間に現れたのは、毛足のあるトリムを配したロング丈のパファーコートを纏ったモデル。そのたたずまいは、フィギュアスケートのリンクサイドに立つコーチのような冷静さと緊張感を帯びていた。本コレクションは、彼女自身の原体験であるフィギュアスケート、とりわけ女性コーチたちの存在に着想を得ている。厳格さと華やかさが同居するその像は、スパンコールドレスに重ねたボンバージャケットや、パファーの内側に仕込まれたウールドレスといった“はざま”の構造として立ち現れる。競技の合間、衣装の上から防寒着を羽織るという逆説的なスタイルが、そのままデザインへと昇華されている。

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進化したレンチキュラープリーツは、身体の動きに応じて表情を変え、静止と運動の境界を曖昧にする。同時に彼女は、スケート界に根強く存在する“純粋さ”や“従順さ”といった女性像の規範にも疑問を投げかける。わずかな違和感をはらんだシルエットや露出が、その均衡を静かに揺さぶる。素材にはリサイクルポリエステルや植物由来のフェイクファーを用い、機能と倫理を両立。だが何より印象的なのは、どこか反逆的な精神を帯びた、服に宿るアティチュードだ。理想の女性像を思い描き、その人物像をなぞるように服を立ち上げていくプロセスを、彼女は「メソッド・デザイン」と呼ぶ。ショーの傍らでモデルたちを見つめる彼女の姿は、その変容がすでに始まっていることを物語っていた。

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