1. トップ
  2. おでかけ
  3. フェラーリ インハウスデザインのパワーの源に迫る

フェラーリ インハウスデザインのパワーの源に迫る

  • 2026.3.31

 

FERRARI DESIGN. CREATIVE JOURNEYS 2010-2025|フェラーリ・デザイン : 創造の旅 2010-2025

イタリアのトリノ自動車博物館(MAUTO)で「フェラーリ・デザイン : 創造の旅 2010-2025」が2026年4月12日まで開催されている。過去15年にどのようなデザイン開発を展開してきたかを知ることができる企画展である。イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ ロレンツォがリポートする。

Text by Akio Lorenzo OYA|Photographs by  Akio Lorenzo OYA/Ferrari

“マラネッロ・デザイン”の15年

MAUTOには2025年秋、カーデザインに焦点を当てた常設コーナーが新設された。今回の企画展は隣接するスペースを用いた第1弾で、チェントロ・スティーレ(スタイリングセンター)フェラーリとフェラーリ博物館(モデナおよびマラネッロ)が協力するかたちで実現した。チーフ・デザインオフィサー(CDO)であるフラヴィオ・マンゾーニのもとで2010年以降に手掛けられた70台以上の中から11台が選ばれ、同時にイメージ&アイディアスケッチや映像も交えることで制作プロセスを提示した。

2026年2月現在の展示モデルと、選択の理由は以下のとおりである。

<限定車/コンセプトカー/フラッグシップモデル>

・FXX‐K (2014年) : ラ・フェラーリをベースにしたサーキット専用エクストリーム仕様。イタリアを代表する工業デザインアウォード「コンパッソ・ドーロ2016」を受賞

Ferrari FXX-K (2014)

・デイトナSP3(2021年) : ヴィンティッジカーに着想を得た限定車ICONAシリーズの第3弾

Ferrari Daytona SP3(2021)

・ヴィジョン・グランツーリスモ(2022年) : フェラーリがヴァーチャル専用に開発した初のコンセプトカーであるとともに、メーカー創立75周年記念作でもあった

Ferrari Vision Gran Turismo(2022)

・F80 (2024年) : スーパーカーに応用された技術的頂点

Ferrari F80 (2024年)

・12チリンドリ(2024年): 伝統と革新の融合

Ferrari 12Cilintrdi (2024)

<マス・プロダクションモデル>

・ラ・フェラーリ(2013年) : ハイブリッド・エンジンを搭載したフェラーリ初のロードゴーイングカー

Ferrari La Ferrari(2013)

・モンツァSP1(2018年) : 歴史的モデルの現代的解釈。コンパッソ・ドーロ2020受賞

Monza SP1(2018)
Monza SP1 Full-scale styling model

・296 GTS(2021年) : ブランド初のV型6気筒エンジンにプラグイン・ハイブリッドの組み合わせ

Ferrari 296GTS (2021)

・プロサングエ(2022年) フロントミッドシップ+ディファレンシャルギア一体ギアボックスによる“スポーツトランスアクスル”アーキテクチャーを採用。コンパッソ・ドーロ2024受賞

Ferrari Purosangue(2022)

・SP38(2018年)

Ferrari SP38(2018)

・P80/C(2019年) 

Ferrari P80/C(2019)

それらに共通するデザイン哲学は「形式美は決して目的そのものにならない」「美しさは常に機能と性能に結びついている」であるとマンツォーニは語る。同時に、今回の企画展は「イノヴェーション全体を支える真のシナジーである、デザイナーとエンジニアの間の日常的な対話を示すことでした」とコメントしている。

成功の秘密

マンツォーニの経歴について紹介しておこう。1965年にサルデーニャ島の都市ヌオロに生まれた彼は、フィレンツェ大学建築学科で工業デザインを専攻した。卒業後の1993年、フィアット・オートに入社。ランチア部門でインテリアの責任者を務めた。その後フォルクスワーゲン グループのスペイン法人セアトに移籍。同社でもインテリアデザインに携わった。

やがて2001年にランチアに呼び戻され、チェントロスティーレの責任者となる。量産車の傍らで手掛けた2003年の新フルヴィア・コンセプトはファンから量産化が強く望まれたが、フィアット・グループの経営危機により計画は凍結されるという憂き目に遭った。後年フィアット、ランチアおよび小型商用車の責任者となるものの、2006年にはふたたびフォルクスワーゲン グループに籍を移して6代目ゴルフなどのデザイン開発に携わる。

そのマンツォーニがフェラーリに迎えられたのは2010年のことだった。与えられた職務は、同ブランド史上初めて創設された社内デザイン部門を率いることだった。

かつて錚々たるデザイナーや外部カロッツェリアの数々が名作を遺してきたフェラーリだけに、マンツォーニが感じたプレッシャーは筆舌に尽くしがたいものであったに違いない。

しかし同時に彼は語る。「チェントロ・スティーレの創設はフェラーリにとって重要な転換点でした。デザインをインハウス化したことで、空力のエクスパートや素材・技術のエンジニアなどとの密接な連携が可能となりました。それはフェラーリの進化にとって不可欠なものとなったのです」

Flavio Manzoni (photo : Ferrari)

近年フェラーリは調査会社が発表する「世界最強のブランド」にたびたび選ばれてきた。その一翼を担っているのがマンツォーニのデザインスタジオといっても過言ではない。彼が成功した背景には、3つの要素があると筆者は考える。

第一は彼のプロフェッショナル人生の出発点だ。インテリアデザインからスタートしたデザイナーに優秀な人物は少なくない。代表例は元ピニンファリーナのデザイン担当副社長ファビオ・フィリッピーニで、ルノー時代はインテリア担当副社長だった。

人間中心の設計は、機能美を極めるうえで基本である。その才能はフェラーリ史上最大の変革である電動パワートレインのパッケージングを、流麗なスタイルにいかに収めるかにも発揮されたことは明らかだ。

第二はランチアの経験である。大統領専用車も手掛ける、イタリアでも最もオーセンティックなブランドを経験したことで、歴史的コンテクストを外さぬ大切さを体得したに違いない。

FerrariF80(2024)

そして第三にフォルクスワーゲンと“2往復”したキャリアだ。イタリアで生まれたルネサンス美術はアルプスを越え、のちに北方の画家たちによって加えられた細密表現が今度はイタリアのアーティストたちに影響を与えた。マンツォーニも外からの目でイタリアンデザインの卓越性を知ったことで、それを存分に引き出すセンスを蓄えたことはたしかだろう。

参考までに今回のフェラーリ・デザイン展、筆者が訪れた日の会場は館内で最も活気を帯びていた。過去数年のMAUTOにおける企画展では、2024年のアイルトン・セナ展に匹敵する人気だった。実際当初は2026年3月初旬に終了予定だったが、1カ月以上会期が延長された。カーデザインの都トリノゆえ、新展示スペースがどう発展してゆくのか、今から楽しみである。

元記事で読む
の記事をもっとみる