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文学フリマの絶望感から新人賞の悩みまで。真田つづる最新作『それでも書きたい有馬くん』で、創作のノウハウと「書く意味」を知る!【書評】

  • 2026.3.27
それでも書きたい有馬くん 真田つづる/白泉社
それでも書きたい有馬くん 真田つづる/白泉社

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「書く」という行為に苦しみはつきものだ。ひとりで黙々と文章を紡ぐ時間は孤独でもある。ときには見たくもない自分の内面を突きつけられ、そうまでしても言葉が出てこない夜もある。それでも、書かずにはいられない。そんな人に読んでほしい本がある。『それでも書きたい有馬くん』(真田つづる/白泉社)だ。

ブラック企業で働く社畜の有馬くんは、本が好きな青年。幼い頃は小説家を夢見ていたが、大人になった今はレールから外れる勇気も持てず、日々をやり過ごしていた。ところがある日、勤め先が突然倒産してしまう。途方に暮れる中、同僚の三崎に誘われ、小説家を目指して上京を決意する。

カレー屋を志す三崎とともに東京でルームシェアを始めた有馬くん。だが、いざ小説を書こうとすると、頭に浮かぶのは「売れる作品」「SNSで話題になる題材」といったことばかり。創作への憧れと現実の間で揺れながら、有馬くんは少しずつ「書くこと」と向き合っていく。

『私のジャンルに「神」がいます』(『同人女の感情』)で同人女性たちの感情を生々しく描き、多くの読者をざわつかせた真田つづる氏。最新作となる本作は、何かを書きたい人、そして今まさに書き続けている人たちを抉る、切れ味抜群の作品だ。

両親が不仲な家庭で育った有馬くんは、学校の宿題がきっかけで小説を書くようになる。仲の悪い両親も、物語の中では仲直りしてハッピーエンド。有馬くんにとって物語は、自分の心を救うために必要だった。つらい現実を前にして、空想の中で自分を生かす。そんな経験に覚えのある人なら、共感必至ではないだろうか。

上京して新人文学賞への応募を決めた有馬くんだったが、自分が書きたいものではなく「賞が取れるもの」ばかりを考えてしまう。そんな彼に三崎が投げかけた「誰に読んでほしいか、どういう気持ちになってほしいかが大事なのでは」というセリフには、思わず目が止まった。今こうして書評を書いている私自身も、毎回「この本を誰に届けたいのか」を考えながら記事を執筆しているから。

「オトナだって、夢が見たい」というキャッチコピーの通り、本作は脱サラしたサラリーマンが夢を追うコメディだ。しかし、夢追いマンガの皮を被った創作地獄物語と呼びたいほど、書くことの苦しさと楽しさ_が詰まっている。

文学フリマに出てみても、誰にも本を手に取ってもらえない惨めさ。賞に落ち続け、勝ち負けにばかりこだわってしまう焦り。誰かに認められるものを書きたいのか、好きなものを好きなように表現したいのか。創作に向き合う人間の心の暗さや揺らぎが容赦なくぶつけられる。読んでいて痛みすら感じるのにページをめくってしまうのは、有馬くんの葛藤や苦悩が、いつかの、今の、自分自身のものと同じだからだろう。

もっとも、本作はただ苦いだけの作品ではない。創作に必要な考え方や、文学フリマでアピールする工夫、文学賞へ応募するときの注意点など、実用的なアドバイスも盛り込まれている。

夢に向かってまっすぐ進む好青年な有馬くんだが、どうやら彼の書く小説には「本当の自分」が隠れているらしい。文章のなかに潜む「自分の影」と、有馬くんは向き合わざるを得なくなる。

作中には、こんな印象的なセリフも登場する。

引用----

「私のことを知りたかったらこの本を読んで。私の名刺みたいなものだから」

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文章とは、その人自身を映すもの。私も「これが私の名刺」といえる本を書きたくなった。

『それでも書きたい有馬くん』第1巻は3月27日発売。この本はすべての「書くことに取り憑かれた人」におくる、真田つづる氏からのエールだろう。読み終えたとき、何かを書かずにはいられなくなっているはずだ。

文=倉本菜生

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