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「最後はボレロで引退したい」日本バレエ界の至宝・上野水香(48)が明かす“辞め時”と、進化し続ける“驚異のルーティン”

  • 2026.3.25
上野水香さん。

日本バレエ界の至宝として、今なお輝きを放ち続けるバレリーナの上野水香さん。2023年からは東京バレエ団のゲストプリンシパルとして、48歳を迎えた現在も全幕作品の主役を踊り継ぐ驚異的な現役生活を送られています。

名作『ボレロ』を踊ることを許された数少ない表現者でありながら、その素顔は驚くほど軽やか。「バレエがなくなったら廃人になりそう」と笑う等身大の本音から、年齢を重ねて見えてきた表現の深みまで、お話を伺いました。


踊り続ける原動力は「誰かの“何か”になれること」

上野水香さん。

――2023年からは東京バレエ団のゲストプリンシパルとして活躍されていますが、踊り続ける原動力はどこにあるのでしょうか?

子どもの時から変わらないのですが、私がバレエを踊っていると、周りにいる人たちが幸せそうに笑っていたり、「もっと魅せて」と喜んでくれたりすることです。私が踊ることで、それが誰かの“何か”になれることが原動力となって、今まで踊り続けることができたのだと思います。

――現在も現役で舞台に立たれていることには、どんな感覚がありますか?

舞台に立ち続けること自体は大変ですけれど、踊るレパートリーは20代の頃から『白鳥の湖』といった全幕物など変わっていなくて、変な言い方ですが、「ここでこのくらいで止まって、ここではこれぐらい回って」といった技術的なレベルもその頃と遜色ない状態でやれている気がします。

30代の頃はそれが伸びないことに悩んだこともありました。でも、踊ることを重ねていくうちに、深みや芸術家としての年輪のようなものが養われていく。能力的な差がない状態でやれているなら、それはそれで素晴らしいことなのではないかと、今は素直に思えるようになりました。

45歳を超えて全幕物を踊ると、かつて海外のガラ公演で一緒に踊っていたダンサーたちからも「まだやっているの? すごいね」と言ってもらえるようになりました。20代、30代の時に悩んでいたことが、今は逆に評価されていることに、不思議な感じがしますね。

48歳現役ダンサーの体との向き合い方

上野水香さん。

――日々のルーティンや朝のクラスなどは、ダンサーとしてやはりかかさないのでしょうか。

そうですね。舞台があるときは必ず“クラス”からやらなければいけません。毎日同じ繰り返しで、膝を曲げたり足を上げたりといった基礎の動きなのですが、一晩寝ると体がリセットされてしまうので、毎朝またゼロから。それを飛ばすと怪我のリスクもありますし、いいポジションに体が入らないとか、体が重いとか、いろいろなことが生じてきます。クオリティを保ち、怪我を防ぐためにも絶対に欠かせません。

――体への向き合い方で変わったことはありますか?

以前よりは、疲れを残さないようにすることを頑張るようになりました。昔はリハーサルの後で体がキツくてもそのまま寝ていましたが、今は治療に行くとか、マシンを使ってほぐすとか、ケアすることを大切にしています。痛みが出てからだと治すのに時間がかかるから、そうなる前に疲れを取るようにしています。

日本のバレエ界が持つ「1ミリの差を埋める情熱」

上野水香さん。

――日本のバレエ界についてはどう感じていらっしゃいますか?

私がいる東京バレエ団に関していえば、リハーサルなどを通して作品を突き詰めていく情熱があることに強みがあると思っています。皆、職業ダンサーとして淡々とこなすのではなく、「いい舞台を創りたい。いい舞台ができたら最高で幸せ。その瞬間が欲しい」という一心で日々頑張っています。

アンサンブルは皆、いい舞台にするために、わずか1ミリの差を揃えようと一生懸命なんです。生活が完全に保障されているわけではない厳しい面もありますが、そこまで注げる生真面目さや団結力は日本人の強み。海外のカンパニーにはない、誇るべき良さだと思います。

「廃人になりそう」描いてきたキャリアと理想の幕引き

上野水香さん。

――若い頃に描いていたキャリアと今のご自身は重なっていますか?

自分の将来について具体的に何かを思い描いてはいませんでした。私はいつも、とにかく“日々頑張ろう”みたいなことを積み重ねてきて今の自分があるので、今の自分の年齢でどうなっているのかは、全く考えていませんでした。

ただ、若い頃のたくさんの夢は、ほぼすべて叶っています。だから夢の先に何があるのかを思い描いていたわけではないのですが、端的に自分がやりたいと思った事が実現できていて、いい形になっていると思います。私、願うと叶うんですよ。なぜかは分からないんですが(笑)。

――それほど人生を捧げてきたからこそ、「引退」について考えることはありますか?

バレエだけやってきちゃったから、なくなったら何も残らなそうで怖いです。廃人になりそう(笑)。でも、いつか辞める時は必ず来ます。ダメになったものをいつまでもお客様に見せたくはないですから。その時は、シルヴィ・ギエムさんのように、最後を締めくくるにふさわしい『ボレロ』で引退できたらいいな、とぼんやり考えています。

冠公演「上野水香オン・ステージ」への思い

『ジゼル』より Photo:Koujiro Yoshikawa

――今回、ご自身の名を冠した「上野水香オン・ステージ」が実現したことへの率直な思いをお聞かせください。

「上野水香オン・ステージ」は今回で3シーズン目になります。初めて上演されたのが2023年、次が2024年、そして1年開いて、今年ということで、継続的にやらせていただいています。

最初は東京バレエ団の定年前に何がしたいかと聞かれた時に、「自分の名前を冠したガラ公演をやりたい」と提案したんです。そして作品はやはり『ボレロ』だと言って、その公演が実現しました。お客様がリクエストしてくださることで継続できているので、本当にありがたいです。

――実際にやってみて気づけたことはありますか?

みんなこういう「オン・ステージ」がすごく好きなんだということに気づくことができました。実は、この冠公演は、昔から抱いていた夢の一つでした。若い頃、まだ別のバレエ団にいたときは『ボレロ』がレパートリーになかったので、踊ること自体無理だったんです。

いつかやってみたいという思いで、家で真似をして踊っていたこともありますし、家の近くの会場を借りて、ラジカセで音楽を流して、その舞台で一人で踊ったこともあるんです。それなりに大きな会場だったんですが、客席にいるのは家族だけ。その時の公演名も「上野水香オン・ステージ」でしたし(笑)、『ボレロ』だけでなく、ほかの作品も踊りました。

シルヴィ・ギエムさんにとても憧れていたので、私にとって『ボレロ』はそういうエピソードも実はあるんです。

『ボレロ』より Photo:Koujiro Yoshikawa

――ギエムさんの名前が出ると、やはり『ボレロ』を思い出しますね。

ギエムさんたちのように「オン・ステージ」を全国で上演できるという、同じ道を歩むことができているのは、本当に光栄です。今回の「オン・ステージ」では東京バレエ団と共演できて、ツアーとして各地を巡業できるのは、今までのバレエ団にはなかった特別なものです。夢を見ていた頃の自分に教えてあげたいくらいです。

でも実は、2023年以前は『ボレロ』を自分の名を冠してやるとも思っていなかったですし、全く自信がありませんでした。ですからリクエストをいただいたこともあったのですが、お断りしたことがありました。

ところが、コロナ禍に「ホープ・ジャパン」という活動で各地を回って躍り込んできた『ボレロ』をご覧いただいて、皆さんが元気になってくださるのだと実感でき、自分の『ボレロ』にも力があるかもしれない。もっと大切に踊りたいと思えたんです。その積み重ねがあって、ようやく自信を持って「『ボレロ』で」と、言えるようになりました。

48歳、これから挑戦したい「大人の人間ドラマ」

上野水香さん。

――これからの展望や、新しく挑戦したいことはありますか?

「できなくなるから」ではなく、自分の芸域を広げたいという意味で、もっと「大人の作品」に挑戦したいです。なぜかずっと『白鳥の湖』や『ドン・キホーテ』といった全幕の古典作品が続いているのですが(笑)。

年齢を重ねることで生まれる透明感や品格は大切にしたいですし、今の私だからこそ演じられる人間ドラマがあるはず。それは何歳からでも遅くないと思うので、本格的に向き合っていきたいですね。

オフは徹底して休む。ブレない「心の軸」の作り方

――多忙な日々ですが、プライベートでのリフレッシュ法は?

オフの日はレッスンもしないで、しっかり休みます。リゾート地に行くのが大好きなんです。踊るための準備として、「オフはオフ」として過ごすとはっきり決めています。

――バレエを通じて学んだ、人生で最も大切なことは何でしょうか。

結局、どの世界も人間は一緒なのだと感じます。自分の中に「軸」を持って生きていくことが、どこにいても、誰と接してもブレない自分でいられる秘訣かなと。

最近はドラマやモデルのお仕事もさせていただきますが、そこにいるのは一人のバレエダンサーとしての自分です。作り込みすぎず、自然体でいることの大切さを再発見しました。どんな表現を通しても、自分という軸さえあれば、それがオンリーワンのものになると信じています。

上野水香(うえの・みずか)

東京バレエ団ゲストプリンシパル。鎌倉市出身。5歳よりバレエを始め、1993年ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞。モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーを首席で卒業後、1995年牧阿佐美バレヱ団に入団。2004年にプリンシパルとして東京バレエ団に移籍入団。モーリス・ベジャールに直接指導を受け、『ボレロ』を踊ることを許された数少ないダンサーの一人。古典から現代作品まで幅広いレパートリーで活躍し、世界のトップダンサーとも多数共演。2022年芸術選奨文部科学大臣賞、2023年紫綬褒章受章。2023年より現職。

〈上野水香オン・ステージ〉

■東京公演
3月20日(金祝)17:00 Aプロ
3月21日(土)14:00 Bプロ
3月22日(日)14:00 Aプロ
会場:東京文化会館
■福岡公演
3月25日(水)18:30
会場:福岡市民ホール 大ホール
■大阪公演
3月26日(木)18:30
※各公演地によってプログラムが異なります。
https://www.nbs.or.jp/stages/2026/mizuka-ueno/

衣装クレジット

パンツスーツ/マックスマーラ(参考商品)、ジュエリー「フラワーレース リング」(18K イエローゴールド, ダイヤモンド)2,244,000円/ヴァン クリーフ&アーペル

文=山下シオン
撮影=深野未季
ヘア&メイク=石川ユウキ(Three PEACE)

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