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派手じゃない仕事に、なぜか心がほどけた日【今の私にちょうどいいしあわせ】

  • 2026.3.21
ぜんざい
出典:www.photo-ac.com

打ち合わせの帰り道

とある施設のご厚意で、小さな趣味の無料イベント「手帳カフェ」をさせていただくことになった。早速、相棒のMちゃんとふたりで打ち合わせに出向いた。

とてもスムーズに話がまとまり「もうちょっとどこかでおしゃべりでも」と立ち寄ったのは、マンションの1階にある古い喫茶店。

いわゆる流行りの「レトロ喫茶」とは違う「結果的に古くなりました」な野ざらし感が逞しい。

丁寧に磨きあげて……はいないけど、きちんと役目を果たしているカウンターやテーブル。
おしゃれにレイアウト……はされていないけど、長きにわたり人々を見守ってきたであろう微妙にトーンの違う装飾品。

当たりかハズレかで言うと、「ハズレ寄り」な印象で席についた。

「ま、いいか。今日はおしゃべり延長戦のために来たんだし」

よ? 450円?

席につき、メニューを見て驚いた。

「よ? 450円? ぜんざい450円って……」「ケーキセット700円!」

大阪では、小豆をつぶしたりこしたりせず、汁気もそのままのものを「ぜんざい」というけど、おそらく別の場所では「おしるこ」と呼ばれている、あれだ。

私たちは顔を見合わせて「やった!」ではなく「どうしよう」とか「なんでやろ?」という言葉を飲み込んだ。自家焙煎なんとかロースタリーなお店だと、コーヒー1杯しか飲めない値段でケーキまで付いてくるということと、ワンコインでお釣りの来るぜんざいを想像して怯えたのだ。

愛されて30年以上

ランチタイムはとっくに終わっていたけど、店の外には出しっぱなしの黒板があった。
日替わりランチは焼肉で、ご飯は大盛りOKのアナウンス。

地域に愛され常連さんがとことん通う店のようだ。そういえば25年ほど前にこのあたりに住んでいたのだけど、その頃からこの店は確かにあった。

多分SNSはやっていない。きっと食べログにも載っていない。
でも、その日もちゃんとお店は開いていて、ママさんはちょっとキレイでシュッとしていて、明らかにヒョウ柄が似合いそうな浪花マダムだ。

期待を裏切るクォリティ

「はい、おまたせ」

ぜんざいにはお餅が2個も入っていて、白菜のお漬物と塩昆布、熱々のお茶が半月盆にのっている。
ケーキセットのモンブランは、底がメレンゲ、その上に濃厚なクリームとマロンクリームが重なり合い、近頃人気のコンビニスイーツを越えたデパ地下クオリティ。

何かおしゃべりをしようと思ったのだが、圧倒されてモンブランとぜんざいの話だけでしばし盛り上がる。そしてなぜか私たちは「こういう仕事をせんといかんな」と、突然人生を語り始めた。

需要があるのか? 謎の肩書き

そういえば、とMちゃんと私は昔を振り返る。

子育てがひと段落すると(このタイミングは家庭や子どもによってさまざまだが)パート勤めを辞めて突然「資格のようなもの」を取得したママたちが増殖した時期があった。
彼女たちは学校行事や自治会の集まりで、なんとかインストラクターとかアドバイザーという肩書の名刺を配り歩き、セミナーやセッションと呼ばれる会合に地域の人たちを勧誘していた。

セルフカリスマごっこ

今どき風に言うと、そこそこの受講費と引き換えに肩書を手に入れ、紙をアスクルで購入し、Canvaで名刺を作れば今日から誰でもセルフカリスマ。

「なんらかの肩書」を手に入れた、あるママ友は、メイクとファッションを変え、2駅ほど離れた美容皮膚科にも3回通ったとこっそり教えてくれた。
そして、ついに華々しくデビューセミナーを開くことになり、「初回無料」という言葉に釣られて、私も参加した。

周りを見渡すと、全員が○○インストラクター、△△アドバイザーの名刺を持つ「お仲間」という展開。
要するに「先生役と生徒役を順番でぐるぐるやっている」システムのようだった。

誰かの承認を求め、また誰かを承認する。

その終わりのないループの中に身を置くと、ふと『彼女たちは、何者になろうとしているんだろう』と空虚な風が吹いた。

あのセミナー会場にいた私たちが欲しかったのは、たぶん、何かの肩書ではなくて、このぜんざいのような「安心」だったはずなのに。

「いい仕事」ってなんだろう

ところで……いい仕事って、なんだろう。
たくさん稼いでいること? キラキラと目立っていること?

「ほら! お餅がふたつ!」と笑顔を見せるMちゃんとぜんざいの湯気を眺めながら、「あたたかな時間を提供する」「目の前の人を笑顔にする」尊さを実感した。

西の空、マンション群に溶ける夕日に目を細めながら「じゃあ、またね」と手を振る。
私たちにはキラキラした肩書はないけれど、ほっこりした時間を誰かに提供できたらいい。派手じゃなくても、目の前にいる人との確かなふれあいを信じていこうと思う。

みやむらけいこ/ライター

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