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【3月・4月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!春休み注目の映画2選!

  • 2026.3.20

InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。

神でも傍観者でもなく 主観を獲得する少女たち

「それってあなたの感想ですよね」が論破の必殺技とされ、「エビデンスを示してください」の多用を経て、「個人の主観」の苦境が続いている。自分が感じたことを口にするより、誰かに賛同しといたほうがずっと安全。

ところが『アメリと雨の物語』は、「私が感じた」そこから世界って始まるんでしょ、なフランス製アニメだ。原作は神戸で生まれ夙川で幼少期を過ごしたベルギー人、アメリー・ノートンの自伝的小説。他にも三井物産でのO L体験を描く小説など、著作に映画化は多い。

まずはとにかく、色に心躍る映画だ。輪郭線はなく、明るく柔らかいトーンの色だけで人物も背景も描かれる。昭和40年代の日本の暮らしや風景、茶色くしみったれてもいたそれらが、初めての美しさで画面を彩るのだ。その点には、幸運にも日本の観客が最も驚くことができるはず。

アメリが生を受けて、映画が始まる。外交官のパパとピアノを愛好するママの、3人目の子。2歳半まで長いことずっと、摂取して消化して排泄するだけの「チューブ」だったと自分を形容する。だから原作のタイトルは「チューブな形而上学」だ。「形而上学」のほうは、これが「私という存在」について考察する物語だと示す。考察なので、アメリ自身が語るナレーションは子どものくせに理屈っぽい。チューブだった頃を、私は神だったとも言う。無だったし、世界の全部だったし、神だったのだ。

ところがついにある日、「おいしい」を感じて、ビッグバンが起きる。世界が爆誕し、アメリは人間に降格する。2年半の沈黙を破り、泣き、喋り、歩き出す。一口のチョコでついに人生が始まる。我おいしい、ゆえに我あり。「感じる」その地点から、世界が始まる。自分が死んでも世界が続くのは当然だが、私が感じるこの唯一の世界は消失する。私のたくさんの「おいしい」「嬉しい」、主観が私の世界だ。

でも爆誕した世界には、まだ輪郭がない。アメリは、たくさんの「嬉しい」に加え、たくさんの「喪失」を体験していく。例えば、誰かともう会えなくなる。思いがかなわないことだらけ、そして人が社会や歴史の一部分であることも知る。それらがアメリの世界に限界を、輪郭をつくる。全能感は消え、神でないことは明らかになるが、同時に、喪失によって自己が定まり自分が形作られるのだ。

綺麗な色、懐かしくも楽しい子どもの日常を眺めてただけなのに、この映画は、人間を長くやるうち汚れの詰まったただのチューブに戻っていた大人にも、世界と呼応していたはずの人生の起点を思い出させてくれる。

『落下音』には、空恐ろしさが充満している。ドイツ北部の農場で、20世紀初頭から現代まで4つの時代を生きる/生きた少女について、それぞれを被う「いやぁな感じ」が描かれる。

百年の時、複数の語り手、行きつ戻りつする構成、長い上映時間。それらの面倒を選びとって悠々と語られる、おばけの出てこない怪談。監督は長編2作目のマーシャ・シリンスキ、社会に起因する女性の息苦しさを告発する映画が女性監督によって近年続々作られたが、彼女の作品を貫く確信はとりわけ太い。幻想的なのに堂々として、特異だ。

少女たちは絶え間なく抑圧され、欲望はいつも他者の持ち物で、それを暴力的に向けられる対象でしかない。けれど轟音を響かせる恐ろしい何か、死へ誘うかに見えた亡霊の気配が、時を超える少女同士の視線だとわかった時、解放の可能性が訪れる。

自分として確かに存在していること。神だったアメリも、亡霊だった少女も、自分で欲望し自分で感じる作業によってそれを確認するのだ

『アメリと雨の物語』

25年 フランス 77分 監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン 声の出演:永尾柚乃、花澤香菜、早見沙織、森川智之 3/20(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, PuffinPictures, 22D Music

『落下音』

25年 ドイツ 155分 監督・脚本:マーシャ・シリンスキ 出演:ハンナ・ヘクト、レア・ドリンダ、レーナ・ウルゼンドフスキー、レニ・ガイゼラー 4/3(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

© Fabian Gamper - Studio Zentral

文=町山広美

放送作家、コラムニスト。担当番組に「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」など。東京と沖縄で2拠点生活をしている。

イラスト=小迎裕美子

※InRed2026年4月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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この記事を書いた人

InRed編集部

「35歳、ヘルシーに!美しく! 」をテーマにしている雑誌『InRed(インレッド)』編集部。 “大人のお洒落カジュアル”を軸に、ファッションや美容はもちろん、ライフスタイル全般を網羅。公式ウェブサイト『InRed web』ではライフステージの変化の多い世代ならではの、健康、お金・仕事、推し活に関する情報を発信。お洒落で楽しい毎日に役に立つヒントをお届けしています。

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