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人気俳優の宿命か、受賞を逃がしたティモシー・シャラメが歩む“ディカプリオの道”

  • 2026.3.19
人気俳優の宿命か、受賞を逃がしたティモシー・シャラメが歩む“ディカプリオの道”
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』 (C) 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で3回目のノミネート

【この俳優に注目】第98回アカデミー賞で『ワン・バトル・アフター・アナザー』が最多6部門を受賞した一方、9部門にノミネートされたティモシー・シャラメ主演の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は無冠という残念な結果に終わった。

・下着にガウン姿なのに、なぜか色気がない──“最低男”演じたティモシー・シャラメ、最年少でゴールデングローブ賞

賞レース前半では本命視されていたシャラメに、3度目の正直があるかと期待は大きかった。ところが2月以降、流れが変わる。英国アカデミー(BAFTA)賞、アカデミー会員と投票者が重複するアクター賞(旧SAG賞)を続けて逃し、後者で劇的な勝利を収めたマイケル・B・ジョーダンは勢いそのままアカデミー賞でも栄冠を手にした。

30歳の若さで3度目のノミネートは名優マーロン・ブランド以来の快挙だが、受賞はまだ一度もない。今回も手ぶらで会場を後にすることとなったシャラメのこれまでの歩みを簡単に振り返ってみる。

フランス語も堪能、幼少期からCMに出演

1995年12月27日、ニューヨークに生まれたシャラメは、父はフランス人で、母は元ブロードウェイのダンサー。母方の祖父は脚本家で叔父はTV監督、姉も俳優であり、幼い頃からアートと演技が日常にあった。毎夏を父の故郷フランスで過ごした彼は英仏バイリンガルで、フランスでのプロモーションを常に流ちょうなフランス語でこなしている。

幼少期からCM出演などを経て、ニューヨーク市立芸術高校(ラガーディア高校)で学びながら俳優として活動し始め、TVドラマ『ホームランド』(2012年)やクリストファー・ノーラン監督『インターステラー』(2014年)でマシュー・マコノーヒーの息子役を演じ、幅広い観客の目に触れる。

『君の名前で僕を呼んで』が転機に

転機は2017年、ルカ・グァダニーノ監督『君の名前で僕を呼んで』。22歳にして第90回アカデミー賞主演男優賞候補となった。

昨年はボブ・ディランの若き日を演じた『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』で主演男優賞、今年は1950年代を舞台に野心旺盛な卓球選手マーティ・マウザーの成長をパワフルに演じた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で2年連続主演男優賞ノミネートを果たした。

人気も実力もありながら、オスカーという栄誉にだけはたどり着けない。そんなシャラメの姿から思い出すのは、レオナルド・ディカプリオだ。2人とも子役からキャリアをスタートさせている点も共通している。

『タイタニック』でノミネートされなかったディカプリオ

ディカプリオは『ギルバート・グレイプ』(1993年)で19歳にして初のアカデミー賞ノミネートを果たし、その後『ロミオ+ジュリエット』を経て、1997年の『タイタニック』で社会現象を巻き起こした。アカデミー賞で史上最多(当時)11部門を受賞した同作だが、ディカプリオは主演男優賞にノミネートすらされなかった一方、ヒロインのケイト・ウィンスレットは主演女優賞にノミネートを果たしている。

ディカプリオはその後も『アビエイター』(2004年)、『ブラッド・ダイヤモンド』(2006年)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)と立て続けにノミネートされながら受賞を逃し続け、ようやく初受賞したのは2016年の『レヴェナント:蘇えりし者』。最初のノミネートから22年、41歳のときだった。

ちなみにオスカー史上、30歳未満で主演男優賞を受賞した男性はエイドリアン・ブロディ(受賞時29歳)のみなのに対し、30歳未満の女性受賞者は30人を超える。一定年齢を超えると女性には良い役が来なくなるというハリウッドの長年の習わしのなせる技でもあるが、若い男性俳優については、実力がある者でも成熟を待ってから報いる傾向があると見てとれる。

ディカプリオの教えを守る

実はディカプリオ主演の『ドント・ルック・アップ』(2021年)で共演も果たしている2人だが、ディカプリオはシャラメに「ハードドラッグもスーパーヒーロー映画も無し」とアドバイスしたと伝えられている。シャラメは2024年に「両方とも守っている」とコメントしており、スーパーヒーロー映画については脚本やキャラクターに納得すれば検討する可能性も述べている。

思慮深い青年が野心を剥き出しに

初めてオスカーにノミネートされた頃、シャラメは「カメラの外で何かを見せるのではなく、作品が語るべきだ」「プライベートは守りたい。演技のために感情を保護することが大事」と語り、静かで思慮深いイメージを保ち続けた。

その印象が変わり始めるのは2024年頃からだ。昨年のSAG賞スピーチでは「偉大さを追い求めています。偉大な存在の1人になりたい」と野心を隠すことなく表明した。

興味深いのは、シャラメが「謙虚で思慮深い」イメージを持っていた時期が『DUNE/砂の惑星』撮影期間とほぼ重なることだ。同作で演じた、内省的で選ばれし者ポール・アトレイデスは自己顕示とはほど遠い人物。対して『マーティ・シュプリーム~』のマーティ・マウザーは、自分の才能を世界に認めさせるため手段を選ばない野心家の卓球ハスラーだ。

折しもSAG賞授賞式は『マーティ・シュプリーム~』の日本ロケを2月に撮り終えたばかりのタイミングだった。撮影後もキャラクターが俳優の中に残ることはあるという。ならば、これはシャラメの本性というよりも、マーティという人格の残像のように思える。あるいはシンプルに、長年抑えてきた野心を解放しただけかもしれない。

賞獲りをめぐって戦略的なスタンスで勝負に出たのは、SNSも駆使するZ世代らしいアプローチだ。しかし多様性が進むアカデミー会員の中にも保守的な考えはまだ根強く、終盤の言動が票を遠ざけた可能性は否定できない。

オスカーだけは縁遠い、名優のたどる軌跡

人気だけではない実力を誰もが認めていながら、なぜかオスカーだけは縁遠い。本人は歯痒いだろうが、ディカプリオ然り、名優のたどる軌跡とはそういうものかもしれない。

偉大な存在になりたいというシャラメ自身の思いと、マーティ・マウザーのキャラクターは見事に重なっている。そして2026年のアカデミー賞の結果は、彼が偉大になるためにはまだ道半ばだと示すものなのかもしれない。(文:冨永由紀/映画ライター)

 

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は公開中。

 

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