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「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選じんわり温まる「火」のお話~『森のおくから』『あかり』~vol.41

  • 2026.2.27

揺らぐ火、ほどける心

こんにちは、アンヌです。

先日、北海道の東川(ひがしかわ)という極寒の町を訪れました。雪はさらさらで、結晶が裸眼でもはっきりと見えるほど。友人たちと、スノーシューで3メートル近く積もったパウダースノーの森へ入ると、エゾ松やダケカンバが静かに立ち並び、あたりは神聖な空気が漂っていました。

ガイドさんに案内されたのは、垂れ下がる針葉樹の枝の下に自然にできた雪の窪み。かつてアイヌの人々が冬の狩りの際に暖を取り、煮炊きをしていたところだそうです。

火を焚(た)くときには、まず雪の上に燃えにくいナナカマドの木を敷き土台に。そこによく燃える松の木を重ねてゆく。空気の通りを良くするため、数本の薪を支え合うように組むことも大切だそうです。さらにアイヌ文化では、薪の組み方にも「実用」と「観賞用」があると聞き、ふと暖炉の前で過ごした自分の時間が思い出されました。

私が幼少期を過ごした家には暖炉があり、童話を読んでもらったり、マシュマロを焼いたりした和やかな記憶が今も残っています。その後、ヴァカンスのたびに滞在していたフランス・ノルマンディーの家にも暖炉が。「シュミネ」と呼ばれ、子どもが中に立てるくらいの大きなものでした。

滞在中、夕食のメインが骨つきのリブロースに決まると、1時間半ほど前から準備が始まります。小枝と新聞紙を重ね、その上に薪をクロスさせて丁寧に積み、火をつけます。薪をどんどん焚(く)べて炎が大きくなると、次は台所作業。厚さ5センチは優にある牛肉の塊を常温に戻し、塩胡椒をたっぷりまぶします。暖炉の薪がしっかり燃えたところで、火かき棒と薪ばさみを使って崩し、煙の立たない、めらめらとした良い炭火を作るのがコツです。そこへ大きな鉄のグリルをドンと置く。肉がくっつかないよう、十分に熱してから下ごしらえを終えたリブロースをのせます。レア好みでも、表面が少し焦げるくらいがちょうどいい。シュミネの火でなければ生まれない、旨味の凝縮された格別の味になるのです。

夕食が終わると、種火に再び薪を焚べ、勢いよく燃やします。暖炉の前には肘掛け椅子が二つ。グラスに残ったワインを手に一つに腰掛け、もう一つには、あるときは親や妹、あるときは友人、そして夫が座りました。このときの火は、まさに「観賞用の火」です。ゆらめく炎を見ていると不思議と心がほどけ、胸内にある思いまで言葉になる貴重な『間』が生まれるのです。

アイヌの人々は、人間の力が及ばないすべての存在を「カムイ」と呼び、敬ってきたそうです。火もまたそのひとつ。人に温もりと明かりを与え、食料を口にできるものへと変え、健康をもたらしてくれるもの。一方で、「火は人間の訴えや願いを聞き入れ」(*)るとも言われるように、人の心をほぐし、うるおいを与えてくれるような気がしてなりません。寛大であるには、激しく燃え上がるのではなく、揺らぎながらも消えずに在り続けるべきなのかも。極寒の森で出合った火の話と幾度も寄り添ってくれた暖炉の記憶。その温もりを暮らしの中で丁寧に手放して行きたいと思いました。

今回は、寒い日の心まで温めてくれる「火」のお話をご紹介します。

(*)『北海道の歴史と文化と自然ポータルサイト』より

*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『森のおくから むかし、カナダであった ほんとうのはなし』

作/レベッカ・ボンド
訳/もりうちすみこ
( 1,540円/ゴブリン書房)

アントニオは、カナダの深い森の中でホテル業を営む家に生まれ育ちました。彼のお気に入りは仕切りのない大広間。そこには、狩猟や林業を生業とする人々や、炭鉱で働く人たちが宿泊しています。煙や革や汗の匂いが漂うなか、さまざまな言語が飛び交っていつも賑やか。一方、森の奥には多くの動物たちがひっそりと身を潜めて暮らしています。ある日、突然森から煙が!火は瞬く間に燃え広がり……。山火事がもたらした、人間と動物の奇跡の共存。オンタリオ州で実際に起きた出来事をもとにした、胸を打つ一冊です。

『あかり』

文/林木林 絵/岡田千晶
(1,430円/光村教育図書)

蝋燭(ろうそく)が初めて火をつけてもらったのは、うまれたばかりの赤ちゃんを照らした時。優しいオレンジ色の光は、時と共に、家族の大切な時間を照らし、そして女の子の辛い時も寄り添う。女の子が大人になり新しい家族ができると、その時も見守ります。柔らかく揺れる小さな炎。時に頷いたり話しかけたりしているようにも。やがて年月と共に少しずつ蝋燭は小さくなり……。静かな語り口、温もりのある絵に、読み手もまるで大きな愛情に包まれていくような作品です。だれの心にもじんわりと残るでしょう。

*画像・文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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