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ドナーから移植した子宮で「赤ちゃん」が誕生、英国初

  • 2026.2.26
Credit: canva

「子宮がないから、ご自身で妊娠して出産するのは無理です」

16歳のとき、そう告げられた女性がいます。英国在住のグレース・ベルさんです。

しかしベルさんは、2025年のクリスマス直前、亡くなったドナーから移植された子宮で男の子を出産し、英国で初めて「死亡ドナーの子宮移植による出産」が実現しました。

生後10週の赤ちゃんの名前はヒューゴちゃん。母親のベルさんは、その誕生を「まさに奇跡」と語ります。

目次

  • なぜ「子宮移植」が必要だったのか
  • 10時間の手術、体外受精、そして「英国初の誕生」へ

なぜ「子宮移植」が必要だったのか

ベルさんは生まれつき妊娠に必要な子宮が未発達、または欠損しているメイヤー・ロキタンスキー・キュスター・ハウザー症候群(MRKH症候群)と診断されていました。

月経はありませんが卵巣は正常で、卵子をつくる力はあります。

しかし正常な子宮がないため、妊娠して赤ちゃんを育む「場所」がありません。

英国では約5000人に1人の女性がMRKH症候群に該当するとされています。

妊娠を望む場合、選択肢は限られます。

「子宮移植が実現するのを待つか、代理出産を検討するか」

ベルさんとパートナーのスティーブ・パウエルさん(英ケント州在住)にとっても、現実的な道はそのどちらかでした。

転機は2024年。亡くなったドナーから子宮提供があり、移植が可能だという連絡が入ります。

ベルさんは「完全に突然のことで、本当に興奮した」と振り返りますが、同時に、その知らせが「誰かの喪失」の上に成り立っている事実も強く意識していました。

ドナー家族が差し出したのは、まさに人生を変える“信じられない贈り物”だったからです。

10時間の手術、体外受精、そして「英国初の誕生」へ

子宮移植手術は2024年6月、オックスフォードのチャーチル病院で実施され、手術時間は10時間に及びました。

その後、ベルさん夫妻はロンドンのリスター不妊治療クリニックで体外受精を受け、数カ月後に胚移植が行われます。

移植された子宮がきちんと機能し、妊娠が成立し、出産まで至る必要があるため、ここからが本当の勝負でした。

そして2025年のクリスマス直前、西ロンドンのクイーン・シャーロット&チェルシー病院でヒューゴちゃんが誕生します。

体重は約3.1キログラムとされ、ベルさんは「朝起きて小さな顔を見たとき、夢から覚めないといけないような気がした。本当に信じられない」と語りました。

今回の成功は、英国で進行中の臨床研究試験の一部です。

死亡ドナーからの子宮移植は計10件が計画され、すでに3件が実施済みですが、赤ちゃんの誕生は今回が初めてです。

重要なのは、赤ちゃんがドナーと遺伝的につながっているわけではない点です。子宮は“赤ちゃんの居場所”を提供しますが、遺伝情報は両親の卵子と精子に由来します。

また、子宮移植には免疫抑制薬が欠かせません。そこで母親が出産を終えた段階で移植子宮は摘出され、ベルさんが強い免疫抑制薬を生涯飲み続ける負担を避ける計画です。

なお子宮提供は、腎臓や心臓など一般的な臓器提供とは扱いが異なり、臓器提供に同意しているケースでも「子宮提供を認めるか」を家族に個別に確認する特別な手続きが必要だとされています。

医療の劇的ない進歩により、「子宮がない」と告げられた若い女性にとって、未来は一気に現実味を帯びてきました。

もちろん、手術の負担、免疫抑制薬、提供の手続き、そして何よりドナー家族の決断が前提にあります。

だからこそ、今回のニュースの核心は「医療技術がすごい」だけではなく、大切な人を失った喪失の痛みの中で誰かの希望を支えた人々がいたという事実です。

ヒューゴちゃんの誕生は、医学の到達点であると同時に、社会が受け止めて育てていく“新しい選択肢”の始まりなのです。

参考文献

Baby boy born to UK mother after womb transplant from dead donor
https://www.theguardian.com/society/2026/feb/24/baby-boy-uk-mother-womb-transplant-dead-donor

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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