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「残業したのになぜか手取りが減った」→4月〜6月の働き方が“1年間の手取り”を左右する…知られざる「社会保険料のカラクリ」

  • 2026.3.21
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「頑張って残業したのに、なぜか手取りが少ない…」

給与明細を見て、そんな違和感を抱いたことはありませんか?

実は、その手取り減少の原因は「4月・5月・6月」の働き方にあるかもしれません。この3ヶ月間の給与が、1年間の社会保険料に影響を与える仕組みが存在するのです。

「なぜ4〜6月の残業が手取りを減らすのか?」「手取りを守るためにどう対策すべきなのか?」

人事として数多くの給与計算に関わってきた専門家に、知られざる社会保険料のカラクリを詳しく解説していただきました。

残業したのに手取りが減る?社会保険料の仕組みとは

---「頑張って残業したのに、手取りが増えていない」と感じる人が多いようです。この違和感の背景には、どのような理由があるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所さん:

「給与明細を眺めながら『頑張って残業したのに、なぜか手取りが少ない』と首をかしげた経験がある方は、少なくないと思います。

この違和感の背景には、『標準報酬月額』という社会保険の仕組みがあります。健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の実際の給与に対してそのつど計算されるのではありません。あらかじめ決めた『標準報酬月額』という基準額に、保険料率をかけて算出する仕組みになっています。そして、この基準額を決める材料が、4月・5月・6月の3ヶ月間の給与平均なのです。

事業主は毎年、この3ヶ月間の報酬月額を『算定基礎届』によって届け出ます。厚生労働大臣はその内容をもとに標準報酬月額を決定し直します。これを『定時決定』と呼びます。 こうして決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの12ヶ月間にわたって適用されます。

人事として給与計算に関わってきた経験からいうと、ここが多くの方に見落とされているポイントです。たとえば、4〜6月に毎月3万円の残業代が上乗せされていた場合、その3ヶ月の平均が翌年8月まで続く標準報酬月額に反映されます。残業が終わっても、保険料の計算ベースだけは高いまま据え置かれる状態になるわけです。

なお、支払基礎日数が17日未満の月については、標準報酬月額の計算から除くことになっています。 そのため、欠勤が多かった月は計算対象から外れる場合もあります。

4〜6月だけが特別扱いされるのは制度上の構造であり、その時期に収入が増えれば1年分の保険料が上がる、というカラクリが手取りの減少につながっていると感じています。」

4〜6月の残業がもたらす「手取り減少」の悪循環リスク

---生活費を補うために、あえて残業を増やす人もいると思います。その残業が4〜6月に集中した場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所さん:

「生活が苦しくなってきたとき、『残業を増やして収入を補おう』と考えるのは、ごく自然な発想だと思います。ただ、その残業が4〜6月に集中した場合、思わぬ形で家計を圧迫するリスクがあります。

質問1でお伝えした通り、この時期の給与平均が1年間の社会保険料を決める基礎になります。仮に月20万円の給与に5万円の残業代が加わり、25万円になった場合、その水準が標準報酬月額に反映されます。保険料が上がる分、7月以降の手取りが減り続けることになります。

たとえば、『6月に生活費が足りなくて残業を増やした』という方の話を聞いたことがあります。7〜8月の残業は元に戻ったのに、9月から天引きされる保険料だけは高い水準のまま。結果として秋以降の手取りが逆に苦しくなり、また残業を増やす…という悪循環に入ってしまったケースです。

注意が必要なのは、残業代だけでなく通勤手当や各種手当も報酬に含まれる点です。標準報酬月額には、基本給だけでなく従業員が労働の対価として受け取るほぼすべての支給が含まれます。 ただし、生活給とはいえない臨時的な支給や実費精算は標準報酬月額の対象外です。

また、4〜6月が繁忙期で残業代が多く支払われた場合、年間の月平均と比べて標準報酬月額に2等級以上の差が生じ、かつそれが例年発生すると認められる場合には、年間報酬の平均で算定できる特例制度もあります。ただしこれは会社側が手続きをする必要があるため、自分の判断だけでは動けない点も理解しておきたいところです。

4〜6月の残業増加が即座に手取り減少につながるわけではありませんが、年間を通じた収支という視点を持っておくことが必要だと思っています。」

長期的な手取りを守るために、明日からできること

---業務上の都合などで4〜6月に残業を避けられない場合もあります。私たちが自分の手取りを守るために、どのような対策ができるのでしょうか?

あゆ実社労士事務所さん:

「『じゃあ、4〜6月は残業しないほうがいいのか』と思われた方もいるかもしれません。ただ、業務上の必要性があれば残業を避けることは現実的ではありません。大切なのは、自分の給与と保険料の関係を『把握している状態』にしておくことだと感じています。

最初の一歩として一番取り組みやすいのは、昨年9月前後の給与明細を2枚並べてみることです。8月と10月の明細を比べると、社会保険料の金額が変わっているはずです。その差額に12をかけると、4〜6月の働き方が年間でどれくらいの影響を与えたかをおおよそ把握できます。『なぜ秋から手取りが変わったのか』が初めて腑に落ちる方も少なくないと思います。

次に意識してほしいのが、4〜6月に入る可能性のある収入の整理です。この時期に予定されている残業や休日出勤があるなら、それが自分の標準報酬月額をどの等級に押し上げるかを、給与担当者や社会保険労務士に確認してみる価値はあります。自分から聞いてみたことで『そういう制度があったのか』と驚く方も、人事の立場からは珍しくありません。

また、どうしても収入が必要な場合は、7月以降に残業を集中させる、副業・単発の収入を7〜8月に得るなど、時期を意識した行動の選択肢も視野に入れてみてください。完璧なコントロールはできなくても、『知っているかどうか』で長期的な手取りに差が出てくる可能性があります。

社会保険の仕組みは難しいと感じる方が多いですが、『4〜6月が鍵になる』という一点を覚えておくだけで、日々の働き方に対する意識は変わってくるのではないかと思っています。」

「知っているかどうか」が自分の手取りを守る第一歩

「4〜6月の給与が1年間の社会保険料を決める」という制度は、仕組みを知らなければ見落としてしまいがちなポイントです。しかし、この事実を理解していれば、意図しない「手取り減少の悪循環」を防ぐことができます。

まずは昨年の給与明細を見比べて、社会保険料の変化を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。そのうえで、残業のタイミングを意識したり、担当者に相談したりといった小さな行動の積み重ねが、長期的な家計を守る強力な武器になります。

社会保険料のカラクリを正しく知り、日々の働き方を見直すきっかけにしてみてください。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成・キャリア支援を軸に約10年の実務経験を持つ、社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント。 IT企業の人事として、新卒・若手育成、研修設計、評価・キャリア支援の仕組みづくりに携わる一方、個人では企業や個人に向けたキャリア相談・人事支援を行っている。 これまでに累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1制度設計や面談シートの設計、育成施策の言語化を支援。 近年は生成AIを活用した業務設計・人事業務の効率化にも注力し、「現場で使えること」を前提にしたAI活用の伴走支援を行っている