1. トップ
  2. 恋愛
  3. なぜ日本庭園は「常緑樹」が多いのか? 世界が憧れる日本の庭木文化と美意識

なぜ日本庭園は「常緑樹」が多いのか? 世界が憧れる日本の庭木文化と美意識

  • 2026.2.22

日本庭園の植物は、単に場所を「飾る」ためではありません。なぜ日本庭園には常緑樹が多く使われるのか。その理由は、四季を通じて変わらない「庭の骨格」を保つためです。海外からも羨望のまなざしを集める高度な「剪定」技術や、庭木の王様・マツが放つ存在感など、世界が注目する日本独自の庭木文化と美意識を、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんが紐解きます。

世界が憧れる、日本独自の庭木の文化

栗林公園(香川・高松市)
樹芸で名高い江戸時代の大名庭園、栗林公園(香川・高松市)。長い歳月をかけて形づくられた曲がりくねったマツの樹幹の造形が美しい。

前回までの「日本庭園 超・入門」シリーズの記事では、日本庭園史をたどりながら、池泉庭園や枯山水、露地といった代表的なスタイルを、文化財庭園の実例とともに紹介してきました。

今回は、そこから視点を少し変えて、「植物」に注目します。なぜなら、日本庭園の印象を最終的に決定づけている大きな要素の一つに、日本独自の庭木の文化があります。

日本庭園の植物は「飾る」ためではない

西洋庭園では、ボーダー植栽や刺繍花壇など、色とりどりの花が主役になることがよくあります。一方、日本庭園の植物は、どこか控えめです。満開の花で魅せるよりも、枝の流れや葉の重なり、光と影がつくる表情が風景を形づくるのです。

銀閣寺
銀閣寺庭園(京都)も、常緑の庭木によって主要な景観が構成される。

自然の素材を主に作庭が行われる日本庭園では、常緑樹が多く使われます。それは、四季を通じて庭の骨格を保つためです。そこに落葉樹や下草が加わり、春夏秋冬の移ろいをそっと伝えてくれます。一年中華やかである必要はない。時間の流れを感じられることこそが、日本庭園の魅力なのです。

栗林公園(香川・高松)
マツをはじめとする常緑の庭木が、全体の景観を形づくる。栗林公園(香川・高松市)。

理想的な調和のとれた自然の風景を志向しつつ、あたかも人の手など加わっていないかのように感じさせる景観が良しとされる日本庭園。

少々矛盾を感じるかもしれませんが、計算された手入れによって自然を表現する。その繊細な美意識の上に、日本庭園は成り立っています。植物たちは、その要となる存在です。

「庭木」という、日本独自の文化

修学院離宮庭園(京都)
見事に剪定されたマツの木々が並ぶ景観、修学院離宮庭園(京都)。

そうした伝統的な日本庭園に使われる木々は、長い時間をかけて、庭にふさわしい樹種が選ばれ、育てられ、仕立てられ、「庭木」と呼ばれる特別な存在となりました。

たとえば、マツ、モミジ、ツツジ、サツキ、マキ。

どれも身近な木ですが、日本庭園の中では独自の進化を遂げています。自然に生えている姿をそのまま持ち込むのではなく、定期的な剪定などの手入れによって、理想とされる姿へと導かれてきたのです。

庭木は、言ってみれば人と自然が一緒につくりあげる存在です。年月をかけて木々を形づくり、育てていく。その過程そのものが、日本の庭園文化なのです。

南禅寺の庭(京都)
南禅寺の庭(京都)。モミジをはじめとする落葉樹の紅葉で、庭園は秋の気配に包まれる。Blanscape/Shutterstock.com

剪定が、景観を 作る

詩仙堂庭園(京都)
秋、綺麗に刈り込みされたツツジの緑と、紅葉のモミジの対比。ツツジの季節には、刈り込み部分に白やピンクの花が咲き、モミジは柔らかな緑となって、いずれも季節感をより引き立てる。詩仙堂庭園(京都)。seaonweb/Shutterstock.com

さて、日本庭園を語るうえで欠かせないのが、剪定技術です。

剪定というと「伸びた枝を切る作業」と思われがちですが、日本庭園における剪定は、単なる管理作業ではありません。木々の健康を守り、景観そのものを作る、極めて重要な技術です。

剪定作業
剪定作業中の庭師たち、修学院離宮庭園(京都)。熟練の技術が必要とされる繊細な作業。HanzoPhoto/Shutterstock.com

日本の剪定技術として、典型的なのが「すかし剪定」。枝を一様に刈り込むのではなく、不要な枝を選び、間引き、あえて空間を残します。そうすることで風が通り、病害虫を予防し、光が差し込み、枝ぶりそのものが美しく浮かび上がります。

曼殊院庭園(京都)
マツの木を囲む、玉ものと呼ばれる丸い刈り込みの灌木は、全体で蓬莱思想の亀島を構成する。曼殊院庭園(京都)。

一方で、日本庭園の剪定技術はこれだけではありません。ツツジやサツキなどで見られる「玉もの」と呼ばれる刈り込みも、その一つです。丸く整えられた樹形は、庭にリズムや奥行きを与え、景観のアクセントとして機能します。また「大刈り込み」では、いくつもの木々をまとめて刈り込み、ダイナミックな風景を作り出します。

すかす剪定、刈り込む剪定。そのどちらも、木の性質や庭全体の意図を読み取ったうえで使い分けられています。

修学院離宮庭園(京都)
修学院離宮庭園(京都)の浴龍池を望む景観をつくる、ダイナミックな大刈り込みの例。AaronChenPS2/Shutterstock.com

こうした日本独特の剪定技術は、海外からも羨望のまなざしを集めています。近年では、日本庭園や日本式剪定を学ぶために来日する庭師やランドスケープ関係者も少なくありません。

自然に逆らわず、木々の個性を読み取り、その魅力を最大限に引き出す。この考え方そのものが、日本ならではの美意識なのです。

庭木の王様・松(マツ)

日本庭園を象徴する庭木といえば、やはりマツでしょう。 マツは常緑で、長寿で、格式を感じさせる存在です。古くは神の依代となる神聖な存在とも考えられてきました。そのため、神社仏閣や大名庭園など、重要な庭園には欠かせない樹木とされてきました。

栗林公園(香川・高松市)のクロマツ
庭木の王者はやはりクロマツ。これだけで、日本庭園の雰囲気が完成。栗林公園(香川・高松市)。

ただし、マツは放っておいて美しくなる木ではありません。剪定をしてこそ、本来の姿が現れます。春には、新芽を一本一本摘み取り成長を調整する「みどりつみ」、秋には古くなった葉を落として樹形を整える「もみあげ」という、マツ独特の手入れがあります。いずれも木の状態を見極めながら行う繊細な作業で、熟練の庭師の仕事とされています。また、クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツなど、種類ごとに性質が異なり、庭の役割や景観に応じて仕立て方も変わります。

大変に手間がかかる庭木ではありますが、それゆえに、庭の中に一本マツがあるだけで空間は引き締まり、風景に格が生まれます。「マツがあるだけで日本庭園らしくなる」といわれる理由も、そこにあります。

苔(コケ)がつくる、日本庭園の静けさ

西芳寺庭園(京都)
コケといえば苔寺の通称で世界的に知られる西芳寺庭園(京都)。現在は120種以上のコケが生育しているという。時間の経過、侘び寂びを体現する植物。zzz555zzz/Shutterstock.com

また、日本庭園と聞いて、多くの人が思い浮かべる植物のひとつに、コケがあります。コケは庭木のように目立つ存在ではありませんが、庭全体の雰囲気を大きく左右する重要な要素です。

コケは地表を覆い、土を隠し、庭に静けさと落ち着きをもたらします。光をやわらかく受け止め、雨に濡れることで、いっそう深い表情を見せてくれます。

また、コケがあることで、庭は一気に「時間を重ねた風景」に見えるようになります。

西芳寺庭園(京都)の苔の庭
コケが庭園全体を緑の絨毯のように覆う光景は圧巻。気候によっては生育が難しいことから、コケの美しい庭は羨望の的ともなる。西芳寺庭園(京都)。yuyugreen/Shutterstock.com

常緑樹が庭の骨格を作り、庭木が景観を形づくり、コケがその足元を静かに支える。苔は、日本庭園に欠かせない名脇役なのです。

花は控えめ、だからこそ美しい

日本庭園にも桜やツツジといった花木は使われます。しかし、それらが主役になりすぎることはありません。花は、視線を止め、季節を知らせる存在。咲いていない時間も含めてこそ、庭の美しさが成り立っています。

一斉に咲き誇る華やかさよりも、ふと目に留まる一瞬を尊ぶ。

それが、日本庭園が大切にしてきた植物のあり方です。

銀閣寺庭園のツバキ
冬の終わりにひっそりと庭に彩を添えるツバキの花。苔むした地表に落ちた姿も風情を誘う。銀閣寺庭園(京都)にて。

植物を見る目が変わると、庭園はもっと楽しい

次に日本庭園を訪れるときは、ぜひ植物の「姿」に注目してみてください。枝の流れや重なり、松がどこに置かれているか、苔がどのような空間をつくっているか。それぞれの植物が景観の構成のなかで、どのような役割を担っているのか。そうした点に気づくと、庭園の見え方は、また大きく変わります。

兼六園のマツの雪吊り
兼六園庭園(金沢市)のマツの雪吊り風景。日本海側の重い雪からマツの枝を保護するためのしつらいは、冬の風物詩となった。linegold/Shutterstock.com

日本庭園は、植物とともに生き、育ち続ける風景です。 季節に沿って変化する庭木をはじめ、さまざまな植物の姿に目を向けながら歩いてみると、庭は決して一度きりの景色ではないことに気づくはずです。同じ庭でも、季節や時間が変われば、また違った表情に出会える。その変化を味わいながら庭を歩くことも、日本庭園の大きな楽しみのひとつとなるでしょう。

Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

元記事で読む
の記事をもっとみる