植物たちが生き生きとする春は、新しいガーデンスタイルに挑戦するのにもぴったり。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、今年自宅のプライベートガーデンで力を入れたいと考えているのが、自然風のワイルドガーデンエリアです。小さなワイルドガーデンの始め方アイデアや、ナチュラルな演出ならではのメリット・デメリットを、最近のガーデンエピソードとともにご紹介します。
ソワソワ落ち着かない春のシーズン
春になって、ようやく暖かく過ごしやすい日も増えてきました。桜も満開を迎え、ところによってはもう終わりに近づいている地域もあるでしょうか。春は新しいプロジェクトなども一斉に始まり、毎年ワクワクさせてくれる時期です。いろいろな意味で、挑戦の季節ですね。
残念ながら、私にとって春を無心に楽しむのはなかなか難しいこと。毎年、お花見に行って美しい桜並木を歩いたりするのですが、頭の中のガーデナーとしての意識が「庭仕事を進めずにここでのんびりしていて大丈夫?」と囁くのです! 私が手入れをしている庭は主に、プライベートガーデン、大小2つの市民農園区画の3カ所。それぞれもっとしっかりガーデンプランを練ったり、有機肥料を用意したり、種まきや苗の植え付けの準備をしなければ、と気になってしまいます。
庭仕事の季節
この時期は、さまざまな植物が恐ろしいスピードで伸びはじめ、手入れが間に合わない勢いです。前回小さな菜園区画に手入れに行った際には、日が暮れてからも作業できるようにヘッドライトも持っていったほど。最終的には疲れ切って庭作業をおしまいにしましたが、心情としてはもっと続けたいものでした。
別の日には、ガーデンヘルパーを雇って作業を。若くて働き者の彼との庭仕事は、作業の必要性などのあれこれを議論する必要もなく、丁寧に素早く仕事を進めてくれるので、とても楽しいです。その日は数年前から気になっていた小道のマルチング材をリニューアル。2人がかりでも大変な作業でしたが、雑草が生い茂る季節が来る前にいい仕事ができたと思います。
この記事をお読みのみなさまにも、同じように庭仕事に追われる春の経験がある方がいらっしゃるかもしれませんね。小さなバルコニーや玄関前、ベランダから裏庭、自宅のガーデン、そして小さな空き地や市民農園の1区画まで、庭の大小を問わず起こりうることです。
自宅の庭にワイルドガーデンエリアを!
今年は、自宅のプライベートガーデンを最大限に楽しむことに決め、庭に野趣あふれるワイルドガーデンエリアをつくることにもっと力を入れようと考えています。ワイルドといっても、完全な放任ではなく、半野生と呼ぶべきかもしれません。
自然風の庭をどう定義するかは意見が分かれるところで、人によっては、きっちりと縁に沿って刈り込まれていない芝生の庭はすでに自然風だと思うかもしれません。私にとって、自然はたくさんの顔を持つので、“自然風”を演出する方法もさまざま。今回はそんな自然風の庭づくりをご紹介したいと思います。
まず前提としてお伝えしておきたいのは、私の庭はとても小さいということ。また、ガーデニング全般そうですが、「正しい選択肢」というものは1つだけではないということです。いくつかの解決策を組み合わせてうまくいくことも多いですね。
“自然風”な庭づくり
自然風の庭をつくろうと思い立つには、大抵の場合、なにかきっかけが必要です。例えば新聞に載っていた素敵な記事、ネット上の興味深いサイト、自然の中を行く旅やほかの人との面白いディスカッションなど、そのきっかけはさまざま。そこで本を読んだりお茶を楽しみたくなるような風景を写した1枚の写真だけでも十分です。
先日、いつものガーデンヘルパーに聞いたところ、彼の周囲の同じように若い友人たちの中には、ガーデニングやサステナビリティに興味がある人もいるのだとか。とはいえ、ガーデニングとサステナビリティを細部まで結び付けているというわけではありません。家族が自然の中で一緒に楽しい時間を過ごす時間や、オーガニックな野菜を楽しむためのちょうどいいバランスを保つ方法を探しているのだそうです。
このように自然やオーガニック栽培を楽しめる場所は、小規模でいいので都市や地域に必要ではないでしょうか。最近、近所に市民農園がいくつか出現していますが、これは住宅地の中にある小さな区画をうまく利用できる素敵なアイデア。ほかに一時的に駐車場にするという方法もありますが、どちらにせよこうした区画を望むように活用できる土地の所有者はほんのわずかです。アスファルトで固められてしまうことなく、このまま長く緑の場所として残ってくれたらなと思っています。
ただし一般に広く活用されている市民農園は、制約が多く、ワイルドガーデンをつくりたい場合には向かない場合がほとんど。自然風の庭は、住宅地の中では野原のような素晴らしい場所にもなれば、心無い人々にゴミ捨て場のようにされて荒れた空き地になってしまうこともありますので、それは仕方のないことかもしれません。
実際、ワイルドガーデンというのは、なかなか勇気のいるチョイスです。
綺麗に管理された状態を離れ、野生に戻り始めている庭の様子を、手入れせずにただ見ているというのは、難しいもの。周囲でも「ワイルド&ナチュラル」なコーナーの重要性に気が付いてくれる人はほんの少しです。こうした庭の状態を見て、もっともよく言われる言葉が「大変ですね」。たとえ桜の木が満開の時であっても、自然風を意識したパーマカルチャーガーデンで庭仕事をしているときは、「きれいに咲いていますね」などと言ってもらえることはほとんどありません。
もっとも、“ガーデンツアー”として我が家の庭を案内すると、少しずつ認識を変えてくれる時もあります。野生のままに見える場所から収穫したミズナや、ハーブに交じって育っているノビルなどを差し上げたときは特にそうです。
これらの特殊なガーデニング(ガーデニング作業が少ない/ない)ゾーンについては、まだまだ一般的に理解されるまでの道のりは長いように見えますので、私も継続してご紹介していきたいと思います。
小さなワイルドガーデンづくりのアイデア
ワイルドガーデンは、芝や雑草、時に小さな灌木だけが育っているようなプライベートガーデンからスタートすることが多いです。こうした場所は、隣家や道路との境界として、石壁やコンクリートブロック、金属フェンスなどが設置されていることもよくあります。
庭の骨格となる構造物
まず境界線を区切り、ガーデンをエリア分けするために、庭に構造物を作りましょう。丸太や剪定枝などは、パーティションとして利用できます。こうすれば、庭で出る剪定枝を捨てるのではなく有効活用できますね。もしスペースがあれば、こうしたオーガニック素材を庭に保管しておくといいですよ。
剪定枝といえば、既存の樹木を剪定して整える作業も重要です。庭をつくる際も、すべてを伐採したり、やり直したりする必要はありません。すでに成熟した木は、庭に心地よい木陰をもたらすだけでなく、野鳥や庭の生き物たちのための居場所になり、生態系という観点からも大きな価値があります。
木製のパーティションは、隣家との境界やトレリスとして使用でき、つる植物を絡めるのにもぴったり。こうしたオーガニック素材とつる植物のコンビは、ナチュラルな景観作りにとても有効です。それだけでなく、自然素材なので経年により崩れるなどの変化があり、ほかの植物の生育を促したり、自然の中での生命の変化を感じさせたり、新しいガーデンアイデアを取り入れる新しい機会を与えてくれるのです。つる植物は、日本の在来種ではアケビやスイカズラ、イワガラミなどが考えられますね。もちろん、パッションフラワーやジャスミンなどを加えるのもOKです。
動物の居場所にもなる生け垣
生け垣は、境界を区切ったり風を遮ったりするだけでなく、野生動物の食料や棲み処となります。
生け垣として利用する植物は、在来種がベストです。地域によって選んだ植物がどのように成長するかを把握しておきましょう。土壌の状態やそれを好む育ちやすい植物は、それぞれの地域によって異なります。そこで、植える前に周囲をよく観察し、リサーチをしておくことが大切。特に、年季の入った庭や公共空間など、知識が豊富な場所を参考にするとよいでしょう。
生け垣が風の強い場所に面している場合は、強風に耐えられる根が深く張る植物がおすすめです。1種類の植物よりも、数種を組み合わせたほうがより野生動物に優しい生け垣になります。
日陰のエリアも有効活用
木の下には、シダ植物のエリアなど、半日陰を好む植物でガーデンをつくってみてはいかがでしょうか。横には暑い日に木陰で涼めるよう座れるエリアを設けてもいいですね。地面をカバーし、雨水は浸透するバークチップをマルチングに使うのもおすすめです。
また、植木鉢でつくる小さな苔の庭も始めやすいアイデアです。ポットいっぱいにやせた土を入れ、苔をのせたら、日陰の場所に置いて初めだけ水やりをしましょう。同様にして、小さなシダの庭もつくることができます。
ほかに、砂を植木鉢に入れておくという手もあります。砂だけを鉢に入れて庭の片隅にしばらく置いておくと、いつの間にか植物が伸びてきて新鮮な驚きを味わえますよ。多くの植物は、種子などが風に乗って運ばれてきて、環境に合う植物が定着して新しい植生を作るので、思いがけない出会いを楽しむことができますね。
こうした偶然を生かした庭づくりは楽しいものです。私のプライベートガーデンでは、いろいろな種類の野菜の種子を播いたり、特に考えずにミックスしたりしています。自分で決めるのは、こうしたミックスシードを播く場所ぐらいです。種まき後、発芽したりしなかったりといった結果を見るのはとても楽しみ。時にずいぶんと時間が経ってから芽を出すものもあり、嬉しいサプライズになっています。
手軽なローメンテナンスガーデンのヒント
私はシンプルな茶色の素焼き鉢が好きで、庭に穴を掘っては鉢ごと埋めています。鉢を地面に埋め込むことで、植栽に溶け込む一方で植えた場所を見つけやすく、また周囲の土から水分を吸収するので水やりの手間も減って管理も簡単です。
簡単にワイルドガーデンを楽しむ方法として、家庭菜園で野菜を育てている場合は、花を咲かせてみるのもいいですね。素敵なアプローチになりますし、虫たちにとってもごちそうになります。
ワイルドガーデンを取り入れる際に大切なことは、手入れが行き届いている場所と、一見放置されていると見える場所との組み合わせのバランスです。通行人の驚いたような視線も楽しみ、ネガティブなコメントについては思い悩まず、ポジティブなものに変えてしまいましょう!
庭仕事の時間を減らし、自然や野性味を受け入れて、ただ植物たちが伸びるに任せる、ということは大きな挑戦です。多くのことは自然のままに勝手に調整されるので、その変化や妥協を楽しむとよいでしょう。ぜひ自分なりのやり方で楽しんでくださいね。自然はきっと感謝を返してくれるはずです。
ワイルドガーデンを楽しむ方法は自分次第でいろいろ。もしかしたら、そのすべてが正しいゴールに続いているのかもしれません!
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -
エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。