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爆発的ブームを起こしたYBAと、 社会の不均衡をテーマにした芸術

  • 2026.2.19
Photographed by Prudence Cuming Associates © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS/Artimage 2026

<写真>ダミアン・ハースト《後天的な回避不能》1991年

河内タカさん、小崎哲哉さん、山口桂さんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

アートライターとして、美術・建築・デザインなど幅広い分野で執筆する河内タカさんが今回ご紹介するのは、『テート美術館 ─ YBA & BEYOND 世界を変えた 90s 英国アート』と、『アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての⼈たち』です。

時代を揺さぶるふたつの現代アート展

YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)とは、1980年代末から90年代にかけてイギリスで爆発的なブームを巻き起こした若手アーティストたちの総称だ。絵画や彫刻だけでなく、写真、映像、さらには日用品を使うなど表現や素材に制限がなく、その斬新な作品は観る者の感情を揺さぶり、大きな論争を巻き起こすこともしばしばあった。その代表的なアーティストとして、ホルマリン漬けした動物や鮫を密封した透明ケースで提示することで、「死」を可視化し、「生」への問いを突きつけたダミアン・ハーストや、あるがままの自分の寝室を作品として展示し、プライベートな苦悩や自身の物語を赤裸々に表現したトレイシー・エミンなどが挙げられる。

YBAが一世風靡したのは、単に彼らの作品が奇抜でセンセーショナルだったからではない。それまでの美術界のルールを打ち破り、アートのあり方や社会との関わり方を根本から問い直したからだ。彼らは「自分たちの場所は自分たちで作る」という起業家的な側面もあり、港湾局の庁舎を使った伝説的な『フリーズ(Freeze)』展を開催するなど、自ら発表の機会を開拓していったことも画期的だった。本展では当時のYBAが放った衝撃や熱狂が一時的なブームに終わらず、その後の世界のアートシーンをどのように決定づけていったのかを、6つのテーマを通じて解き明かしていく。本展のアンバサダーを務める細野晴臣さんと齋藤飛鳥さんのふたりによる音声ガイドも楽しみだ。

《サウンド・オブ・サイレンス》 2006 ©Alfredo Jaar

南米チリ出身のアルフレド・ジャーは1982年よりニューヨークを拠点に、立体、写真、映像を用いたインスタレーションで知られる現代アーティスト。煌々と光を放つ蛍光管を使った《サウンド・オブ・サイレンス》のように、建築的なスケールの⽴体作品を使った空間装置を通じて、⾝体的体験を伴うインスタレーションを展開してきた。徹底した調査に基づいて制作するアーティストでもあり、社会の不条理や人道危機といった極めて重いテーマを、知的でミニマムな手法で表現する。大規模展となる本展は、2018年に「第11回ヒロシマ賞」を受賞した際の作品や新作を含む代表作によって構成され、観客に問いを投げかけるように提示する。

テート美術館 ─ YBA & BEYOND 世界を変えた 90s 英国アート

サッチャー政権後の緊張感漂う英国社会で、既存の美術の枠組みを問い、実験的な制作に挑んだ作家たち。YBAを中心に約60名、100点の作品で、当時の英国美術を検証する。

会期/~5月11日(月)
時間/10時~18時(金・土曜は~20時) ※入場は閉館の30分前まで
休み/火曜(5月5日は開館)
料金/一般2,300円ほか
tel.050-5541-8600
会場/国立新美術館[東京・六本木]
Google mapで確認
東京都港区六本木7-22-2

国立新美術館 公式サイト

※京都の巡回展は、京都市京セラ美術館にて6月3日(水)~9月6日(日)に開催

アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての⼈たち

広島の展覧会で依嘱された⼤型作品から本展のために制作された新作までを通じ作家の半生を振り返る。「誰かを糾弾せず、世界を検証する詩的なモデルをつくり出す」という姿勢で諸問題に向き合うジャーの思いに耳を傾けたい。

会期/~3月29日(日)
時間/11時~19時 ※入場は閉館の30分前まで
休み/月曜(ただし、2月23日は開館)、2月24日(火)
料金/一般1,600円ほか
tel.050-5541-8600
会場/東京オペラシティ アートギャラリー[東京・初台]
Google mapで確認
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル3F

東京オペラシティ アートギャラリー 公式サイト

かわちたか〇サンフランシスコのアートカレッジを卒業後、ニューヨークにて展覧会のキュレーションや写真集を手掛け、2011年に帰国。現在、「京都便利堂」の海外事業部を統括し、写真の古典技法・コロタイプの普及活動を行うほか、美術・建築・デザインなど幅広い分野で執筆する。著書に『アートの入り口(アメリカ編)』(太田出版)など。

文=河内タカ 編集=吉岡尚美(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年3月号より

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