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「生きていてもいい理由」は身近なところにある。うつ病患者とハムスターの日常【書評】

  • 2026.2.19

【漫画】本編を読む

『君のためなら生きてもいいかな ハムスターのうにさんと私』(松村生活/KADOKAWA)は、うつ病という重いテーマを扱いながらも、不思議とページをめくる手が止まらなくなる一冊だ。

作者の松村生活さんは、うつ病、線維筋痛症、メニエール病など、複数の病を抱え、休職を余儀なくされていた漫画家だ。「ペットを飼えば、生きる理由になるかな?」──そんな切実な思いから始まったのが、ハムスターの「うにさん」との生活だった。

本作が印象的なのは、うつ病の描写が過剰に暗くなりすぎていない点にある。無気力で何もできない日々、外に出ることすらつらい感覚、そして生活そのものが重くのしかかる感覚。そうしたうつ病の症状が、淡々と、しかし誤魔化さず描かれている。「苦しさ」を正面から描きつつも、決して読者を暗闇に突き落とさないのだ。だからこそ、読者は「わかる」と静かに頷いてしまう。

物語のトーンを決定的に変えているのが「うにさん」の存在だ。辛い日常の中でも、うにさんと触れ合う瞬間だけは、驚くほど明るく、楽しそうになる。うつの症状が重く、何もする気力が湧かない日であっても、うにさんの世話だけは欠かさない。その姿からは、「生きる理由」がどれほど小さく、ささやかなものであっても、人を支える力になり得るのだという事実が伝わってくる。

うにさんへの溺愛ぶりも微笑ましい。常にうにさんのことを考え、行動の基準も感情の軸も、すべてがうにさん中心。それは依存ではなく、「希望」と呼ぶべき関係だろう。こんなにも小さな生命が、誰かの生きる支えになり得るのか──読み進めるほどに、その問いが胸に残る。

また本作は、明るい語り口やクスッと笑える表現を交えながら、うつ病について自然と知ることができる点も大きな魅力だ。どのような生活を送り、どのような重さを日常として抱えているのか。説明的にならず、生活の断片を通して描かれるからこそ、読者は無理なく理解へと導かれる。

今まさにうつに苦しんでいる人はもちろん、身近な誰かの苦しみを理解したい人にも、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。『君のためなら生きてもいいかな』は、救いを大げさに語らない。ただ、「生きていてもいい理由」は、こんなにも身近なところにあるのだと、そっと教えてくれる。

文=ネゴト / すずかん

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