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時計とスタイル:インダストリアルデザイナー、マーク・ニューソンのケーススタディ

  • 2026.2.4
〈ジャガー・ルクルト〉の「アトモス561」、〈F.&C. オスラー〉製のランプ

時計は実用的でありながら装飾的。時間そのものの美を表現する

独創的な家具に日本刀、公衆トイレまで。斜め上を行く発想で驚かせてくれるデザイン界のスーパースター、マーク・ニューソンにとって、時計はキャリアの原点、かつ原体験。

インダストリアルデザイナーのマーク・ニューソン
作品集『MARC NEWSON WORKS 84-24』を眺め一言。「時計作りは手仕事が命。私のアプローチの基本です」

叔父から譲り受けた〈タイメックス〉の回転ベゼルに興味を持ち、分解して作り直した幼少期から今や伝説の時計ブランド〈アイクポッド〉を共同設立した1990年代。そしてベルギーの〈レッセンス〉との新作ウォッチの発表を控える現在まで、「絶え間ない再発明の衝動」は続く。

だが意外なことに、彼自身の時計との付き合い方は、いわゆるコレクターのそれとは正反対で、少数精鋭を気ままにリピートするタイプ。時計は毎日着用する必需品ではなくアクセサリー。「アップルウォッチ」が欠かせない時期もあったが、最近は「ノスタルジックな気持ち」から過去の作品を手にする機会も増えた。

「特に思い入れが強いのは、99年製の『アイクポッド メガポッド』と、〈ジャガー・ルクルト〉の『メモボックス』。後者はクラシックなダイバーズウォッチですが、元〈アップル〉のジョナサン・アイヴと私が非営利団体〈(RED)〉のチャリティオークション用にカスタムし、世界に3本のみ。稀少価値が高く頻繁には着けませんが、特別な一本ですね」

〈ジャガー・ルクルト〉の「メモボックス」
〈ジャガー・ルクルト〉の「メモボックス」は、マークとジョナサン、2013年の競売落札者が所有。シャツは「デザイン理念と優れた職人技」に惚れ込み愛用する〈45R〉。眼鏡は自らカスタムメイドした〈メゾン・ボネ〉。

一方で作り手としては、あくまで自分が欲しいもの、着用したいものにフォーカスし、ある意味公私混同なスタイルを貫く。

自身が所有するピースからも多大な影響を受けているそうで、90年代初頭、「自分でお金を稼ぎ始めた頃」にパリで手に入れた〈ブローバ〉の「アキュトロン・アストロノート」はその筆頭。NASAの宇宙飛行士の元公式ウォッチとして知られる同モデルの黒いベゼルが、後に「アイクポッド シースラッグ」の、剥き出しのベゼルの着想源となった。

「〈ジャガー・ルクルト〉の『アトモス561』は、時間の概念に興味を持つきっかけになりました。時計は機械的な装置であると同時にパフォーマティブで彫刻的、そして実用的でありながら装飾的でもある。とりわけ砂時計の魅力は時間の物理性、つまり過去と現在の間の揺らぎを目に見える形で示すことなのかなと」

マークが英・グロスターシャー州に所有するカントリーハウスは、そんな彼のタイムピースにまつわる哲学的な解釈を読み解くにはおあつらえ向きの場所だろう。愛用する4本の腕時計が並べられたのは、日本の東北地方で買った市松模様のチリトリ。

〈ジャガー・ルクルト〉の「アトモス561」、〈F.&C. オスラー〉製のランプ
暖炉上の〈ジャガー・ルクルト〉の「アトモス561」(2008年)はバカラグラス製。幼少期、気温の上下によりゼンマイが巻かれる仕組みに夢中になったそうで同社とのタッグは現在も続く。ランプはかつて英・バーミンガムに存在したガラス工房〈F.&C. オスラー〉製。仏アールデコ様式のクラブチェアから着想して特注したソファに座ってくつろぐのがこの「図書室兼バー」での過ごし方。
〈アイクポッド〉の「メガポッド」、〈ブローバ〉の時計、〈パテック フィリップ〉の「カラトラバ」
〈アイクポッド〉の「メガポッド」(左端)や〈ブローバ〉(右端)のほか、唯一のドレスウォッチ〈パテック フィリップ〉の「カラトラバ」(左から2番目)も愛用。1963年頃のスチールケースのノーマルさがお気に入り。

1920年代の佇まいを伝える暖炉のマントルピースの上には、美しく光を反射する明治期の七宝細工の花瓶と、1800年代のテーブルランプを対に。傍らには、サラサラと砂のようなチタン製ボールを落とす〈HG Timepiece〉の砂時計「The Hourglass」。時計を通して得る体験を「炎を眺める感覚に似ている」と譬(たと)える言葉ともリンクするようだ。

〈HG Timepiece〉の砂時計「The Hourglass」
〈HG Timepiece〉の砂時計「The Hourglass」(2012年)。フランス国家最優秀職人章(MOF)受章の職人が製作。

profile

マーク・ニューソン(インダストリアルデザイナー)

1963年オーストラリア・シドニー生まれ。東京の〈IDÉE〉で家具デザインを担当後、91年にパリにスタジオを設立。25年12月に〈レッセンス〉から新作のウォッチ「Marc Newson×RESSENCE T3 MN」が発売された。

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