1. トップ
  2. レシピ
  3. 笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6%

笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6%

  • 2026.1.26
笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6%
笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6% / Credit:Bioinspired growable humanoid robot with bone-mimetic linkages for versatile mobility

中国の南方科技大学(SUST)で行われた研究によって、水の上をテクテク歩く、笑顔の人型ロボットが開発されました。

このロボットは脚の「骨」にあたる部分が空気でふくらむ「骨風船」のような構造になっていて、身長は約50センチから136センチまで3倍近くも伸び縮みし、脚を開いてイモムシのように床を這ったり、ヒレをつければ水の上に体を大きく突き出し、陸上では二足歩行も可能です。

こんな多機能にもかかわらず、体の密度は水のおよそ5.8%と超軽量です。

硬い鉄の骨格が当たり前だったロボットの世界に、「骨ごとふくらむやわらかボディ」を持つ新しい仲間が登場したことは、将来の救助ロボットや、子どもと安全に遊べるロボットの設計を大きく変えるかもしれません。

研究内容の詳細は2026年1月23日に『Science Advances』にて発表されました。

目次

  • トトロやベイマックスのような柔らかい体はロボットで可能なのか?
  • 密度は水の6%、骨風船でできた人型ロボット

トトロやベイマックスのような柔らかい体はロボットで可能なのか?

笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6%
笑顔のロボットが水の上を歩く――密度は水の6% / Credit:Bioinspired growable humanoid robot with bone-mimetic linkages for versatile mobility

私たちが「ロボット」と聞いて思い浮かべる足は、たいてい硬い金属の棒です。

長さも形も決まっていて、階段やでこぼこ道はそこそこ歩けても、狭いすき間や低いトンネルの中には入れません。

もしそんな足で転んで人にぶつかれば、ぶつかった人もロボットの方もかなり痛いことになってしまいます。

安全のために速度を落としたり、動く範囲を区切ったりする必要がありました。

一方で、人間の骨を理科の目で見ると、実はかなり“チート級”の構造をしています。

成長期には骨の端にある成長板が伸びて身長を伸ばし、外側の硬い部分が体を支え、中のスポンジのような部分が衝撃をやわらげ、その中は空洞になっていて全体を軽くしています。

つまり「伸びる・軽い・強い・衝撃に強い」を一度にこなす、すぐれたフレームなのです。

最近は形が変わる「成長ロボット」も研究されていますが、多くは柔らかいチューブを伸ばしてみせる程度で、しっかり体重を支えて二足歩行しながら身長を変えたり、水に浮かんで泳いだりするところまではほとんど行けていませんでした。

そこで研究チームは、「骨の中身を思い切って風船にしてしまい、その風船を布とケーブルとガイドで締め付けたら、軽くて強くて伸びる“ロボット用の骨”になるのではないか」と考えました。

もしそんな軟らかな骨でロボットを組み立てられたら身長を自由に変えられるだけでなく、箱の中に潜り込んだり、水辺をすばやく移動したりする“変身ヒーロー”のような体が手に入るかもしれません。

「ロボットの骨組み=硬い」という概念を打ち砕き、トトロやベイマックスのようなふわふわロボットの開発は可能なのでしょうか?

密度は水の6%、骨風船でできた人型ロボット

密度は水の6%、骨風船でできた人型ロボット
密度は水の6%、骨風船でできた人型ロボット / 伸ばすとかなり大きくなります/Credit:Bioinspired growable humanoid robot with bone-mimetic linkages for versatile mobility

軟らかな骨格を持つ「骨風船ロボ」は本当に作れるのか?

その答えを確かめるために、研究者たちはまず、骨をまねた一本の「伸び縮みする骨リンク」を作るところから始めました。

素材は柔らかい塩ビの袋で、その外側を伸びない布とケーブルで締め付け、ところどころに硬いパーツと細いガイド棒を入れます。

空気を入れると袋がふくらみますが、布とケーブルが動きを制限するので、ぐにゃっと膨らまず、決まった方向にだけスッと伸びるようになります。

その結果、この骨リンクは長さが3倍以上に伸び、固さも約10倍近く変えられるのに、重さは約350グラムと、ペットボトル1本ぶんくらいの軽さに収まりました。

次に、この「風船の骨」を4本の脚として組み込んだのが、人型ロボットGrowHRです。

GrowHRの体の中身はほとんど空洞で、脚の骨以外の部分も膨張式の袋でできています。

そのおかげで、全体の重さは4.5キロとランドセル程度に軽く、6歳くらいの子どもでもひょいっと持ち上げられるほどです。体の密度は水の約5.8パーセントしかありません。

脚の骨に空気を入れると身長は約50センチから136センチまで伸び、空気を抜くと子どもサイズに縮んで、0.4×0.3×0.6メートルほどの箱の中にすっぽり収まります。

箱から出るときだけ脚をニョキッと伸ばし、低い穴や25センチ幅のすき間をくぐり抜けて進むこともできました。

歩行能力もしっかりとしています。

GrowHRは脚を伸ばした姿勢で二足歩行を行い、背の高い姿勢では秒速約1.1センチ、背を低くした姿勢では秒速約1.7センチで歩くことができました。

歩く、伸びる、泳ぐ、救う、さまざまな用途に使えます
歩く、伸びる、泳ぐ、救う、さまざまな用途に使えます / Credit:Bioinspired growable humanoid robot with bone-mimetic linkages for versatile mobility

水辺での実験も行われました。

軽い体のおかげで、GrowHRはプールに入れると25キロの重りを支えながらでも浮くことができ、理論上は自分の重さの約16倍の荷物も支えられると計算されています。

脚をパタパタ動かすと、最大で秒速27センチほどで泳ぐことができ、足先に一方向にだけ水をかくフィン(ヒレ)と片足5キロずつのおもりを付けると、水面を秒速1.6センチ、時速にすると約0.06キロで歩くことにも成功しました。

プールでは、成人ボランティアを浮かせて岸まで運ぶ「溺れている人を助ける」デモも行われ、別の実験では、小型無人機ドローン(小型無人飛行機)にぶら下がって約5.5キロ先まで空から運ばれることも示されました。

さらに、柔らかい脚が本当に安全に働いてくれるかどうかを確かめるために、研究チームは衝撃試験も行いました。

振り子のようなおもりをぶつける実験と、高いところから落とす実験では、同じ形の硬いロボットに比べて、最大加速度がおよそ6割(約1/1.7)まで小さくなり、衝撃がやわらいでいることが確かめられました。

6歳の子どもと一緒に、抱きついたり持ち上げてもらったり、わざと転んでぶつかったりする実験も行われましたが、どちらも壊れることなく、安全に遊ぶことができました。

さらに脚にためたエネルギーを使ってサッカーボールを約80センチ先まで蹴ることもでき、ふわふわボディなのに瞬発力も備えていることも示されました。

論文では、この設計は単なる一発芸ではなく、「成長する多機能ロボット」を作るための新しい設計哲学の出発点だと位置づけられています。

今後、もっと強力なアクチュエータ(動かすための装置)や、より賢い制御アルゴリズムと組み合わせれば、より速く、より自律的に動く骨風船ロボが作れると考えられています。

ふわふわした身体で人と安全に遊びつつ、水辺でも活躍できる人型ロボットというイメージは、これまでの「硬くて少し怖いロボット像」に対する強いカウンターになっています。

笑顔のロボットが水の上を歩き、箱の中からムクッと起き上がり、イモムシのように床を這い、サッカーボールを蹴り、ドローンにぶら下がって空からやって来る――今、その「体の設計図」のかなりの部分が、すでに工学として実現されつつあります。

もしかしたら未来の世界では、水辺の向こうからテクテク歩いてくるのは、人間ではなく、こうした骨風船ロボたちなのかもしれません。

元論文

Bioinspired growable humanoid robot with bone-mimetic linkages for versatile mobility
https://doi.org/10.1126/sciadv.aea2831

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる