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男性がHPVワクチンを摂取すれば子宮頸がんを撲滅できる可能性

  • 2026.1.25
Credit:canva

「ワクチンで防げるがんがある」という話は、一度は耳にしたことがあるかもしれません。

その代表がヒトパピローマウイルス(HPV)を原因とする子宮頸がんですが、現在、世界ではこの病気を単に減らすだけでなく、社会から「根絶」するという高い目標が掲げられています。

しかし、具体的にどの程度の接種率を達成すればウイルスが姿を消すのか、その明確な基準を導き出すのは容易ではありません。

この難問に数学という視点から挑んだのが、アメリカのメリーランド大学(University of Maryland: UMD)のアバ・グメル(Abba Gumel)教授とソヨン・パーク(Soyoung Park)氏らによる研究チームです。

彼らは、人々の接触やワクチンの効果を数式で再現する「数学モデル」を用い、韓国をモデルケースとした詳細な分析を行いました。

その結果、女子のみへの接種に頼る現状の政策では、がんを大幅に減らせても根絶には至らないという事実が示されました。

一方で、男子への接種を組み合わせると、社会全体がウイルスから守られる「集団免疫(ウイルスが広がれなくなる状態)」が形成され、根絶への道筋がより現実的なものになることを突き止めたのです。

本記事では、数学が解き明かした「がんを消し去るための最適解」について解説します。

この研究の詳細は、2025年12月3日付けで科学雑誌『Bulletin of Mathematical Biology』に掲載されています。

目次

  • 数学モデルが導き出した「子宮頸がん根絶」への最短ルート
  • 男性自身にもたらすワクチンの恩恵

数学モデルが導き出した「子宮頸がん根絶」への最短ルート

子宮頸がんは、世界中で毎年約66万人が新たに診断され、約35万人もの命を奪っている深刻な病気です。

そのほとんどが、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus: HPV)というウイルスへの感染によって引き起こされることが分かっています。

現在、世界140か国以上でワクチンの接種が進められていますが、この病気を社会から消し去ることは可能なのでしょうか?

メリーランド大学の研究チームは、この難問に答えるために「数学モデル(Mathematical model)」という手法を用いました。

この数学モデルは、人々の性別やワクチンの有無、ウイルスの広がり方を複雑な計算式で再現し、将来の予測を行うシミュレーターのようなものです。

彼らは韓国の実データをもとに、現在の「12歳から17歳の女子の80%がワクチンを打つ」という政策を続けた場合をシミュレーションしました。

すると、がんの数を大幅に減らすことはできても、ウイルスそのものを社会から根絶(Elimination)するには不十分であるという結果が出たのです。

では、一体どうすれば「子宮頸がんのない社会」を実現できるのでしょうか?

研究チームが導き出した答えは、女子の接種率を99%という極限まで高めるか、あるいは女子の接種率は現状の80%程度を保ったまま「男子の65%」にもワクチンを打つことだったのです。

特に男子への接種を組み合わせる戦略は、女子の接種率を無理に100%に近づけるよりも、はるかに現実的な選択肢となります。

数学的な計算によれば、この新しい戦略を取り入れることで、今後60年から70年以内に子宮頸がんを根絶できる可能性が見えてきたのです。

また子宮頸がんの問題ばかりが取り上げられがちですが、HPV自体はウイルスのため、感染すれば男性にも様々な症状をもたらします。そのためHPVワクチンの摂取は、子宮頸がんの撲滅という目的だけでなく、男性自身にもさまざまな恩恵をもたらします。

男性自身にもたらすワクチンの恩恵

実は、男子への接種が重要なのは、女子を守るためだけではありません。

HPVは、男子にとっても肛門がん (Anal cancer) の88%、陰茎がん (Penile cancer) の50%、中咽頭がん (Oropharyngeal cancer) の30.8%を引き起こす原因になっていると報告されています。

また、がん以外にも、再発しやすく生活の質を損なう「尖圭コンジローマ (Genital warts)」という生殖器のいぼの約90%が、このウイルスによって引き起こされます

韓国ではHPVに関連する男性のがん症例が過去20年間で3倍に増加しており、ワクチンは男性自身の健康を守るための盾にもなるのです。

「免疫の海」で守る:集団免疫の数学的な裏付け

研究を主導したグメル教授は、男女にワクチン接種する意義を「免疫の海(Sea of immunity)」という表現で説明しています。

ワクチンを打つことでウイルスへの抵抗力を持つ人が増えると、社会全体が防波堤のようになり、ウイルスが広がる場所を失っていきます。

これを「集団免疫(Herd immunity)」と呼びますが、男女両方に接種することで、社会全体のウイルスの通り道をより効果的に塞ぐことができるのです。

男子への接種によるプラスの影響は、女子の接種率を無理に引き上げる重圧を減らし、社会全体の安全を底上げする効果があります。

一方で、今回の研究では「パップテスト(Pap test:子宮頸部細胞診、またはパパニコロウ検査)」と呼ばれる子宮頸がん検診の効果についても分析が行われました。

検診は、がんになる前の異常を早く見つけて個人の命を救うためには極めて重要な手段です。

しかし数学モデルの分析によると、検診の頻度や範囲を広げるだけでは、ウイルスが社会に蔓延する状況そのものを止める力は限定的であることが示されました。

つまり、病気を社会から根絶するには、検診という「出口の対策」だけでは不十分であり、ワクチンという「入り口の阻止」と組み合わせることが不可欠なのだという。

ただし、この研究結果を解釈する際にはいくつか注意すべき点もあります。

今回の数学モデルは、主に男女間の接触による感染を計算しており、同性間での感染リスクなどは今後の研究課題として残されています。

また、性行動のパターンは国や地域によって異なるため、韓国のデータに基づいたこの結果を日本などの他の国にそのまま当てはめるには、さらなる再計算が必要です。

それでも、グメル教授は「毎年35万人もの命を失う必要はない」と断言しています。

数学が明らかにしたのは、私たちが正しい戦略を選び、ワクチン接種の対象を広げることで、子宮頸がんを「過去の病気」にできるという希望の未来なのです。

参考文献

New study charts paths to end cervical cancer
https://www.eurekalert.org/news-releases/1109413

元論文

Mathematical Assessment of the Roles of Vaccination and Pap Screening on the Burden of HPV and Related Cancers in Korea
https://doi.org/10.1007/s11538-025-01548-5

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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