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中村倫也「汗をかかずにお金をもらうのが怖い」 “容易な成功”への抵抗と仕事の美学

  • 2026.1.16
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中村倫也 クランクイン! 写真:米玉利朋子(G.P. FLAG inc)

K-POPの世界を舞台に、ある事情から業界を追放され、夢を諦めた過去を持つ天才音楽プロデューサーと、落ちこぼれボーイズグループ・NAZEが世代や国籍を越えて夢を目指すK-POP版“スポ根”ドラマ『DREAM STAGE』(TBS系/毎週金曜22時)。夢を追う若者たちの熱量に触発されるように、主演の中村倫也もまた、自身のキャリアと“働くこと”の意味を問い直していた。明確な目標を定め行動していた20代を経て、いま中村がたどり着いた、“汗をかかない対価”への違和感と、その深層にある仕事哲学に迫る。

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■今の地上波に必要なのは――

本作は、国籍もバックグラウンドも異なる7人の青年たちで結成されたボーイズグループのNAZEが、音楽業界の頂点を目指す王道の青春ドラマ。中村が演じるのは、ある事情からK-POP業界を追放され、夢を諦めた過去を持つ元音楽プロデューサー・吾妻潤。一見つかみどころのない彼が、再び原石たちを磨き上げ、共に再起をかけて巨大な壁に挑む姿を描く。

地上波ドラマの枠組みを超え、物語の舞台は韓国にも広がる。近代的なビル群と歴史ある街並みがコントラストを成す異国の地で、撮影は敢行された。言葉の壁、文化の違い、それらが障壁となるのではなく、むしろクリエイティブな熱量へと変換されていく現場があった。そこには、近年日本のテレビドラマが置き忘れてきそうになった、泥臭くも眩しい王道の精神が息づいている。

「しっとりと染み込むような作品も、スリリングな展開も良いですが、地上波にはもっと多様なジャンルがあっていい。そんな中、汗と努力と友情を描く王道の青春ドラマが近年少ないと感じ、とても惹かれました」。

中村が演じる吾妻は、すべてを掌握する有能さと、周囲にいじられる隙を併せ持つ男だ。夢を追う若者たちを導く立場でありながら、彼自身もまた、挫折という傷を抱えている。だからこそ彼が放つ言葉には、セリフ以上の重みが宿る。「第1話で吾妻がNAZEのメンバーたちへ覚悟を問うシーンがあるのですが、あれはきっと、彼自身への戒めでもあるのでしょう。他人事ではなく、僕自身も深く共感しながら演じています」。

共に作品を作り上げるNAZEの面々は演技未経験で言語も異なる。そんな彼らとのセッションは、中村にとっても未知の刺激に満ちていた。「異国の言語でものづくりをする経験は、人生に残る大きな財産です。彼らは本当に気持ちのいい好青年たちで、当初は緊張感を持たせるために距離を置こうかとも考えたのですが、かわいくて無理でした(笑)。でも歌って踊るとバキバキにカッコイイ。彼らの持つ原石の輝きに負けないよう、おっちゃんもバレないように必死です(笑)」。

■“無敵状態”を経て気づいたレベルアップなきゲームの虚しさ

劇中の若者たちがそうであるように、中村にもまた、夢に向かって爪を研いでいた時期があった。今でこそ毅然とした空気をまとい、自然体で現場にたたずむ中村だが、20代の頃は違った。自身を知ってもらうために、緻密な計算と戦略を巡らせていたのだ。

「若い頃はまず知ってもらう必要があったので、打算的なくらい細かく目標を設定し、計画を立てていました。でも、いつしか自分が想像していた以上の反響をいただく無敵状態のような時期が2年間ぐらい続き、それを経験したことで、感覚が変わったんです」。


NHK連続テレビ小説(『半分、青い。』)への出演を機に訪れた、中村が言うところの“無敵状態”。自分の描いた設計図以上に世界が広がり、大きな反響を得たという。評価が追いついてきた時、かつて抱いていた渇望の形が変わり始めた。35歳を過ぎた頃、明確だった目標は、あえて輪郭をぼかしたものへと変化していく。

「時が経ち、当時の熱狂を冷静に見つめ直せるようになった今、キャリアや人生の目標はあえて漠然とさせるようにしています。狙ってかなえるよりも、気づいたらそうなっていたという形の方が、人生は楽しいんじゃないかと感じるようになったんです」。それは決して、野心を失ったわけではない。むしろ、キャリアを重ねた俳優だけが直面する、ある種の容易さに対する抵抗とも言える。

「すごくおごった表現になってしまうかもしれないので難しいのですが、ある程度自分のことを知ってもらえると、下手に夢を語るだけで周りがかなえてくれようと動いてくれるんです。それは、自分的に草むらでのレベルアップを経ずにいきなり魔王城に着いてしまったような感覚で、物足りないんです。簡単にクリアできるゲームより、難易度が高い方が面白いですから」。

自分の想像以上の結果が出てしまった時、人は往々にして慢心する。しかし、中村の中にあったのは調子に乗るという感覚ではなく、むしろ戸惑いに近い冷静さだった。届かないからこそ立てられた目算が、届いてしまったことで狂いが生じる。ありがたいエラーを前に、浮足立つことなく、恥ずかしさを抱えながらただ静かに自分を見つめ直していた。

「調子に乗れるような性格ならもっと楽に生きられたんでしょうけど、どうしても恥ずかしさが勝ってしまう。30年間浮かれた経験がないので、浮かれている役を演じるのは苦手かもしれません(笑)」。

■汗をかかない報酬への恐怖

今の時代、効率よく結果を出すこと、最短距離で成功をつかむことがもてはやされる傾向にある。しかし中村の根底にある労働観は、驚くほどアナログで実直だ。彼が恐れるのは、失敗や苦労ではなく過程なき結果を手にすることへの根源的な違和感だという。

「極端な言い方ですが、汗をかかずにお金をもらうのが怖いんです。苦労に見合わない対価は、どこか空虚で実感が湧かない。要領よく乗っかれる性格ならもっと大きな結果が出たのかもしれませんが、どうしても『そこじゃない』という思いが拭えないんです」。


だからこそ、中村は個ではなく集団でものづくりをすることに喜びを見出す。1人では頑張りきれないことも、誰かと一緒なら乗り越えられる。スポーツにおけるチーム戦術のように、互いの才能や個性が絡み合い、1人では到達できない場所へと作品を押し上げる瞬間を愛している。

「僕は1人だとあまり頑張れないタイプなんです。でも、スポーツでチーム戦術を組んでボールを追うように、誰かと一緒にものづくりをするのは大好きです。だからこそ、1人芝居はきっとできないでしょうね」。

本作には、そんな中村の現在地が色濃く反映されている。K-POPアーティストを目指し、若さと情熱を武器に突き進むNAZEのメンバーたち。そして、一度は夢に破れながらも、彼らと共に新たな夢を見ようとする吾妻。画面の向こうには、かつて、自分だけの小さな闘いを繰り広げていた全ての人々への賛歌が込められている。

「今の時代には珍しいほどド直球なドラマです。大きな挑戦も、誰にも気づかれない小さな闘いも、振り返ればその日々はとても美しいもの。音楽業界の頂点を目指す彼らの挑戦と、再起をかける大人たちの泥臭い姿を通して、その熱を感じてもらえたらうれしいです」。

効率や要領の良さが優先されがちな現代において、あえて泥臭く、汗をかきながら進むことの尊さ。中村が体現する美しき徒労の物語は、見る者の胸に眠る熱い記憶を呼び覚ます。

(取材・文:磯部正和 写真:米玉利朋子[G.P.FLAG inc])

金曜ドラマ『DREAM STAGE』は、TBS系にて毎週金曜22時放送。

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