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『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由

  • 2026.1.8
『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由
『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由 / Credit:A Wind-driven Origin for the Firework Morphology of the Supernova Remnant Pa 30

宇宙に、まるで線香花火が凍りついたような奇妙な天体があります。

Pa30と呼ばれる超新星残骸で、1181年に日本や中国で記録された「客星(急に現れて数か月だけ光る星)」の残骸候補のひとつと考えられています。

中心から細い筋が四方八方に伸びる「花火のような形」が特徴で、もし1181年の客星と同じ天体だとすれば、爆発から約850年たった今もその姿を保っていることになります。

しかしアメリカのシラキュース大学(Syracuse Univ.)などの研究機関で行われた研究によって、この筋は爆発で飛び散った破片そのものではなく、爆発後に生き残った白色矮星(太陽の燃えかすのような高密度の星)から吹き出した風によって、重たいものと軽いものが押し合う境目で筋が伸びた結果である可能性が示されました。

飛び散った「花火の火の子」の先端に思える筋部分は、実は、コーヒーに垂らしたミルクの中を突き破って伸ばしていく筋のように、あとから吹いた濃い風が周囲の薄いガスを押しのけて形作った“風の指先”だったのです。

しかし、ふつうなら混ざって消えてしまいそうな筋が、なぜ850年を経てもほとんど崩れずに残り続けられたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月23日に『The Astrophysical Journal Letters』にて発表されました。

目次

  • 宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸
  • 最初の1〜10年で筋が決まり、850年残るというシナリオ

宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸

宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸
宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸 / Credit:Canva

夜空の花火を見ていると、その一瞬だけ軌跡が残り、すぐに煙に変わって消えていきます。

もしあの光の筋が、空一面に広がるほど巨大なスケールで、そのまま千年も凍りついたように残っていたらどうでしょうか。

Pa30は、まさにそんな「宇宙版の花火写真」のような天体です。

多くの超新星残骸は、あちこちがモコモコと膨らんだ雲のような形をしていますが、Pa30では中心から伸びる細い筋が目立ち、真ん中には不自然なほど何もない空洞が広がっています。

従来、超新星残骸の形は多くの場合、多くは「爆発で飛び出したガスの分布がそのまま固まったもの」として理解されてきました。

実際、それは多くの残骸でうまくいく説明でした。

しかしPa30のように、ほとんど一直線に近い細い筋がたくさん並び、その筋が850年たっても折れずに残っている姿は、この単純なイメージではなかなか説明できません。

ふつうなら、ガス同士がぶつかり合い、境目に渦が生まれ、時間とともに混ざり合って、きれいな筋はすぐにちぎれてしまうはずだと考えられるからです。

コラム:なぜ「失敗した超新星爆発」と言われるのか?
「失敗した超新星爆発」という言葉を聞くと、ちょっとドキッとしますが、星が「しくじった」という意味ではありません。ここでの「失敗」とは、教科書的な“完全な超新星爆発”の想定から見ると、中途半端な状態で終わってしまったという、専門家側の視点を表したニックネームです。典型的なIa型超新星では、白色矮星(太陽くらいの星の燃えかす)が限界近くまで重くなり、星全体で核反応が一気に暴走して「星そのものが粉々になる」と考えられています。
つまり、爆発のあとに白色矮星本体は残らず、ガスとして宇宙空間にばらまかれる、というのが「成功した」超新星爆発のイメージです。ところが最近見つかってきた「Iax型」と呼ばれるグループでは、どうも様子が違います。爆発の明るさが弱く、飛び散ったガスの量も少なく、そのうえ中心に白色矮星らしき“生き残り”が残っていると考えられる例が出てきました。星全体が吹き飛ばされるどころか、「かなり傷ついたけれど、芯の部分は生き残ってしまった」という状態なのです。
このため研究者たちは、理論モデルの中で「完全な爆轟(さいごまで燃え切る爆発)に到達せず、途中でしぼんでしまった超新星」として扱い、「failed supernova(失敗した超新星)」というラベルを使うようになりました。つまり、「超新星爆発としては最後までやり切らず、星を完全には壊せなかったタイプ」という意味合いです。
面白いのは、その“失敗”が新しい天体現象を生むきっかけになっていることです。Pa30のように、生き残った白色矮星がその後も速い風を吹き出し、周囲のガスに筋を刻んでいくケースでは、普通の超新星残骸では見られない「宇宙の花火」のような姿が残ります。「失敗した超新星爆発」とは、単なる評価ではなく、そうした不完全な爆発から生まれる多様な“その後”を示す、便利なあだ名のようなものと言えるでしょう。

そこで研究者たちは、爆発の瞬間ではなく「その後に吹いた風」と「風がぶつかる相手」の条件に注目し、「どんな条件なら筋が千年ほどけずに残るのか」を流体の不安定性(ガスの境目が乱れる性質)という観点から調べることにしました。

もしその条件が見つかれば、Pa30の花火だけでなく、他の奇妙な残骸の形も説明できるかもしれません。

本当に、宇宙にそんな「花火保存のレシピ」が存在するのでしょうか。

最初の1〜10年で筋が決まり、850年残るというシナリオ

最初の1〜10年で筋が決まり、850年残るというシナリオ
最初の1〜10年で筋が決まり、850年残るというシナリオ / Credit:A Wind-driven Origin for the Firework Morphology of the Supernova Remnant Pa 30

研究チームは、まず中心の白色矮星から吹き出す風と、その周囲にあるガスの性質を整理しました。

観測から、現在の風は秒速1万キロメートル以上という極端な速さで、質量も毎年一定量が吹き飛ばされていると推定されています。

質量放出率(1年間に吹き出す量)は、太陽の重さの百万分の一〜一千万分の一程度と見積もられています。

しかしPa30の筋が作られた当初は、もっと「遅いけれど濃い風」が出ていたと仮定しました。

濃い牛乳を薄いコーヒーの中にそっと注ぐと、牛乳がまっすぐ筋状に沈んでいくことがあります。

研究チームが想定した当初の風は、この「濃い牛乳」のようなものだと考えるとイメージしやすいかもしれません。

次に研究者たちは、この濃密な風が周りの薄いガスにぶつかっていった時、どんなことが起こるのかを詳しく調べました。

すると、重たい方の濃い風が薄い周囲のガスを押し込むように進むことで、「指のような細い筋」が次々と伸びていく様子が現れました。

また風の吹き飛ばしによって筋を伸ばす時間は、最初の1〜10年ほどだと見積もられました。

そのあと風と周囲の密度差が小さくなってくると、新しい筋はもうほとんど生まれず、成長も止まります。

一方、フィラメント(細い筋)を破壊するまでに要する時間はPa30の年齢(約850年)より長い時間がかかるため筋は今も保たれる、と説明します。

これらの結果は、Pa30の奇妙な残骸の形が、超新星爆発そのものではなく爆発後に吹き荒れた白色矮星の風によって形作られた可能性を強く示唆しています。

さらに研究チームは、このように「濃い風」と「薄い周囲のガス」が存在する環境であれば、他の天体現象でも似たような筋状の構造が生じるかもしれないと指摘しています。

例えば、巨大なブラックホールの重力で星が引き裂かれる現象(潮汐破壊現象)でも、似たような「細長い筋」が発生する可能性があるというのです。

(※もっとも少なくとも現時点ではPa30以外に同じような「宇宙の花火」がほとんど知られていないため、今回の解析が特殊なケースに当てはまるのか、それとも今後同様の現象が多数見つかるのかは不明です。)

今後、研究者たちはより詳細な数値計算や観測で、この風が作るフィラメント現象の普遍性を検証していくと期待されます。

ちょうどこれからの高精細な望遠鏡観測、たとえばジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡のデータが、この「風の筋」の正体をさらに試すことになりそうです。

元論文

A Wind-driven Origin for the Firework Morphology of the Supernova Remnant Pa 30
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae267d

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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