「浮気するわけないじゃん」と豪語する彼→彼のスマホの予測変換に出た名前を見て、別れを決意【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

「浮気なんてするわけないじゃん。俺、そんなに器用じゃないし」

そう言って笑う彼を、私は心の底から信じていました。
付き合って3年。彼は穏やかで、私のことを一番に考えてくれる優しい人。
そんな彼が裏切るなんて、微塵も思っていなかったのです。

きっかけは、本当に些細なことでした。
ある日の休日、二人でソファに座ってランチの場所を探していた時のことです。
彼のスマホがテーブルの上にあり、彼はちょうど席を外していました。

「あ、あそこのカフェ、空いてるかな」

私は軽い気持ちで、彼のスマホを手に取りました。
ロックはかかっていません。ブラウザを開き、検索窓に「あ」と一文字打ち込んだその瞬間、私の心臓が跳ね上がりました。

予測変換の一番上に表示されたのは、聞いたこともない女性の名前。
しかも、後ろには「大好き」「会いたい」という言葉が続いていたのです。

指が震えました。
何かの間違いだと思いたくて、今度は「い」と打ってみました。
するとそこには「いつ会える？」「いつもの場所で」という候補がずらりと並びます。

「お待たせ。どこにするか決まった？」

戻ってきた彼は、いつもの優しい笑顔でした。
その笑顔が、今はひどく恐ろしく感じられます。
私は震える手でスマホを返し、真っ直ぐに彼の目を見て聞きました。

「この名前、誰？」

彼は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしました。
そしてスマホの画面を見た瞬間、顔から血の気が引いていくのが分かりました。

「これは……ただの友達で、冗談で……」

しどろもどろに言い訳を重ねる彼。
でも、予測変換は嘘をつきません。何度も何度もその言葉を打ち込み、相手に送り届けていたからこそ、スマホはそれを「学習」していたのです。

「浮気するわけない」という言葉は、私を安心させるための呪文ではなく、自分を正当化するための盾だったのだと気づきました。

その日のうちに、私は彼の家を出ました。
あんなに大好きだった笑顔も、優しかった声も、すべてが上書きされた偽物に見えてしまったからです。

スマホに残った数文字の記録。
それが、私たちが積み上げてきた3年間を終わらせるには十分すぎる証拠でした。
今は悲しいけれど、真実を知ることができて良かった。そう自分に言い聞かせながら、私は新しい一歩を踏み出しました。

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