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6000年前のドラゴンストーン「ヴィシャップ石」の謎が明らかに!水の信仰の産物だった

  • 2025.12.18
アルメニアのヴィシャップ石 / Credit:Wikipedia Commons , CC-BY-SA-3.0

アルメニアには、少なくとも一部が約6000年前に遡る可能性がある不思議な巨大石柱が数多く残されています。

これらは「ドラゴンストーン」あるいは「ヴィシャップ石」と呼ばれ、長年にわたって考古学者たちを悩ませてきました。

この謎めいた石柱について、アルメニアのエレバン国立大学(Yerevan State University)の研究チームが、大規模な統計解析と地理分析を行い、その目的と意味に迫りました。

その結果、ヴィシャップ石は単なる石のモニュメントではなく、水を神聖視した先史時代の信仰や儀礼の枠組みと深く結びついていた可能性が強く示されたのです。

この研究成果は2025年9月1日に学術誌『npj Heritage Science』に掲載されました。

目次

  • アルメニアのドラゴンストーン「ヴィシャップ石」とは?何のために作られたのか?
  • なぜ「水の信仰の産物」と言えるのか

アルメニアのドラゴンストーン「ヴィシャップ石」とは?何のために作られたのか?

ヴィシャップ石(ドラゴンストーンとも呼ばれる)は、主にアルメニア高地の山岳地帯に点在する、先史時代の巨大な石製モニュメントです。

高さは約1〜5.5メートルに達し、魚の形をしたもの、牛の皮を広げたような形をしたもの、そして両者を組み合わせたような形のものが確認されています。

「ヴィシャップ」という名称は、アルメニア神話に登場する水や嵐と結びついた竜の怪物の名前です。

この石柱の模様などから、後世の人々が竜の怪物と関連付けて「ヴィシャップ石」と呼ぶようになったのです。

ただし、考古学的に重要なのは神話そのものではなく、なぜこのような石柱が人の居住跡のない高地に、しかも水辺の近くに集中して設置されているのかという点でした。

これまでヴィシャップ石については、領域の境界標識、英雄神話の象徴、あるいは装飾的モニュメントなど、さまざまな仮説が提示されてきました。

また、過去の研究では、古い灌漑システムの要所を示す目印だった可能性も論じられてきました。

しかし、それらの多くは個別事例に基づく解釈にとどまり、全体像を見渡す体系的な検証は十分ではありませんでした。

そこで今回の研究では、アルメニア国内で確認されている115基のヴィシャップ石を対象に、設置地点の標高と石柱の大きさに注目して分析しました。

また研究者たちは、現地調査で得た位置情報や寸法データを整理し、地図化したうえで統計的に検討し、分布の偏りや関係性を確認。

その結果として、ヴィシャップ石は偶然そこに置かれたのではなく、配置そのものに意図があることが浮かび上がりました。

そして全体として、ヴィシャップ石は水に関わる場所と強く結びついた儀礼的モニュメントであった可能性が高いという結論に至りました。

なぜそう言えるのでしょうか。

なぜ「水の信仰の産物」と言えるのか

研究者たちが水信仰との関係を強く示唆する最大の理由は、ヴィシャップ石の立地条件にあります。

ヴィシャップ石は、高山の泉、火山性のクレーターに水が溜まる場所、湿地、雪解け水の流れに近い場所など、水と深く関わる地点に多く見つかります。

人が定住していた痕跡が乏しい場所であっても、水だけはそこにあり、その水のそばに石柱が置かれている例が目立ちます。

次に注目すべきなのが、石柱の加工痕と設置状態です。

現在は倒れているものが多い一方で、ヴィシャップ石は尾の部分を除いて全面が彫刻・研磨されているという共通点があります。

もし最初から横に寝かせて置く意図だったなら、地面側になる面まで丁寧に磨く必然性は薄くなるため、この特徴は本来は直立して立てられていたことを強く示します。

そして、この研究で特に大きな意味を持ったのが、標高と石の大きさの関係でした。

常識的に考えれば、雪が長く残り作業できる期間が短い高地ほど、小型のモニュメントが選ばれるはずです。

ところが実際には、標高が高い場所にも大型のヴィシャップ石が少なからず存在し、高地だから小さくなるという単純な傾向は確認されませんでした。

研究者たちは、「作業できる期間が限られている高地であっても、あえて大きく重い石を運び、加工し、設置した」と考えており、ここには何らかの意図があったと分かります。

さらに分布を詳しく見ると、ヴィシャップ石の標高はなだらかに広がるのではなく、約1900メートル付近と約2700メートル付近の2つの帯に集まりやすい傾向が示されました。

研究者はこの二峰性の分布について、季節ごとの人の活動や移動のリズム、あるいは巡礼や儀礼のような行為と関係している可能性を述べています。

また、魚の形に加工されたタイプが高い標高帯に多い傾向が示されており、水そのものを象徴するイメージと立地が無関係ではないこともうかがえます。

年代についても重要な手がかりがあります。

代表的な調査地の1つであるティリンカタルでは、放射性炭素年代測定などの情報から、少なくとも一部のヴィシャップ石が紀元前4200〜4000年頃に建てられた可能性が示されました。

水のある場所のそばに、巨大な石をわざわざ運び、立て、磨き、動物の意匠を刻むという行為が繰り返された事実は、実用の目印だけでは説明しきれません。

そのため研究は、ヴィシャップ石の分布と労力のかけ方が、水をめぐる信仰や儀礼の存在を強く支持すると結論づけたのです。

約6000年前のヴィシャップ石は、水が命綱だった時代の人々が、水そのものを敬う気持ちを形にしたものだったのかもしれません。

そして、その信仰の痕跡は、今もアルメニアの山中に残っているのです。

参考文献

Armenia’s ancient ‘dragon stones’ are the work of a 6,000-year-old water cult
https://newatlas.com/history/armenia-dragon-stones-water-cult/

元論文

Vishap stelae as cult dedicated prehistoric monuments of Armenian Highlands: data analysis and interpretation
https://doi.org/10.1038/s40494-025-01998-z

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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