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冬の夜に食べたくなるのは、炎の味が感じられる"薪火料理"[山路美佐さん今月のおすすめ]

  • 2025.12.14
撮影=前川明範

山路美佐さん、森脇慶子さん、門上武司さん、秋山都さん他、食通のジャーナリストや編集者が毎月ひとつのテーマから着想した3軒をまとめてご紹介する小誌連載「ガストロノミーの杜 極私的店案内」。

今回は編集者の山路美佐さんが、東京の3店をご紹介します。

ブームが過熱するほどに好みのお店は絞られる

好きな料理のジャンルに「薪火料理」があります。店に入った瞬間にふわりと漂う薪の香りや炎のゆらめきは、冬にはいっそう魅力的です。

この薪火料理、スペインの「エチェバリ」が火付け役となり、十数年前から世界中に広まったように思います。日本でも多ジャンルで薪火を使った料理が誕生。薪で焼く焼き鳥「薪鳥 新神戸」はその象徴的な存在でしょう。ふんわりと薪の香りをまといふっくらと焼き上げた鶏肉は初めて食べたときに衝撃を受けました。

原始から変わらぬ調理法は料理人たちを魅了し続け、ブームは"下火"になるどころか今も過熱する一方。ガツンと薪火のみで料理をする店から薪火と他の熱源を組み合わせるなど炎の扱いもさまざま。けれど薪火料理の店が増えてきたからこそ、単純に"薪火"を使うだけでは心は動かず。この数年多くの店を訪ねるうちに、好きな"炎の達人"はじつは少ないと気がつきました。

撮影=前川明範

最近の薪火料理店のなかでもお気に入りの一軒が「jiü」です。「鹿肉のロースト」は、ガリッと焼いた外側は香ばしく、中はベルベットのようにしっとりと柔らか。鹿の野生的な香りと薪の香りが口の中で重なり、森の情景が浮かびます。単に薪火で焼いたとは思えない繊細な味わいに驚くと「薪火とコンベクションオーブンのいい部分を使って焼いています」とシェフの大和田龍之介さん。肉本来の味を引き出し、原始の炎と最先端の技術で高みに引き上げた一皿は、もう一度食べたくなりました。

そんな大和田さんが薪火料理に惹かれたきっかけは「薪焼 銀座おのでら」での食事だったといいます。シェフの寺田惠一さんは薪火の特性を繊細に見極め、素材ごとに火を使い分ける達人。「薪焼 銀座おのでら」でゆらめく炎を見ながら薪火を駆使した料理の数々をいただけば "炎"の魔力にすっかり魅了されることでしょう。デザートの「薪の香りをまとったバスクチーズケーキ」も忘れられない逸品です。炎の味を感じる薪火料理は冬のご馳走。ぜひこの冬に楽しんでください。

撮影=前川明範

「jiü(ジウ)」(東京・門前仲町)

薪火に惚れて辿り着いた、フランス料理の新境地

いまや予約困難店となった「渡辺料理店」の2号店として開業した「jiü」。シェフの大和田龍之介さんは本店と違うアプローチのフランス料理店にしようと薪火料理に着目。ソースのベースとなるミルクやバターを薪火で燻したり、熾火とともに魚に燻製をかけたりと自由な発想で薪火を使い、新しいフランス料理を生み出しています。

DATA
コース昼9,000円~、夜16,000円~、アラカルトなし。
営業時間/11時30分~12時30分、18時~20時(ともにL.O.)
定休日/日曜
tel.050-1724-4480
Google mapで確認
東京都江東区富岡1-1-3

jiü

Hearst Owned

「薪鳥 新神戸」(東京・赤坂見附)

従来の焼き鳥と一線を画す、薪の力を借りて香り豊かに仕上げた鶏料理の数々

麻布十番から赤坂見附へと移転して、よりパワーアップ。店主・末富信さんが生み出す名物の秋田「高原比内地鶏の薪焼き」は、ひと口嚙めばジューシーな鶏肉にふわりと薪の香りが漂います。香り豊かに仕上げられた多彩なコースの締めは「鶏そぼろの土鍋ごはん」。熾火を直接土鍋に入れる大胆な調理法で、瞬く間に人気となった一品です。

DATA
おまかせ 20,000円~。
営業時間/17時30分~、20時30分~(ともに一斉スタート)
不定休
※電話番号非公開
Google mapで確認
東京都港区赤坂3-9-2 No.R 赤坂見附1F

薪鳥 新神戸

Hearst Owned

「薪焼 銀座おのでら」(東京・銀座)

時に炎を、時に熾火をと熱源を細かく使い分けながら素材を生かす

「薪火は料理法としては原始的ですが、それだけに奥が深い」と語るシェフの寺田さん。薪火の新窯を使って火を使い分けながら、前菜からデザートまで、選りすぐりの素材を調理していきます。焼きたてのパンやガリッと焼いた肉、旨みを凝縮した野菜など、カウンターで炎を眺めながらフレンチべースの料理をいただけます。

DATA
コース昼8,800円~、夜27,500円~。
営業時間/12時~13時 18時~20時(ともに最終入店)
無休(年末年始を除く)
tel.03-6264-3644
Google mapで確認
東京都中央区銀座5-14-14 サンリット銀座III-9F

薪焼 銀座おのでら

教えてくださったのは……

山路美佐さん(編集者)
やまじみさ●編集者として婦人誌、ファッション誌に長く携わったのち、グルメ検索サイト「ヒトサラ」副編集長を経てフリーランスに。食と旅のコンテンツ制作のために日本各地を旅し、365日奔走中。京丹波町のフードブランディングアドバイザー。幅広い食の経験から発せられる情報や解説は信頼が厚い。

文=山路美佐 撮影=前川明範(jiü分) 編集=平田剛三(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年1月号より

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