1. トップ
  2. 恋愛
  3. コメント欄はなぜ「常連さん」に支配されるのかを解明

コメント欄はなぜ「常連さん」に支配されるのかを解明

  • 2025.12.12
コメント欄はなぜ「常連さん」に支配されるのかを解明
コメント欄はなぜ「常連さん」に支配されるのかを解明 / Credit:Canva

ドイツのマックス・プランク人間発達研究所(MPIB)で行われた研究によって、ネット記事のコメント欄が一部の常連さんに支配されている仕組みがみえてきました。

研究者たちが520人を対象に行った大規模実験によれば、議論の場の雰囲気を「攻撃的で荒れている」と感じた参加者ほど発言を控える傾向が強い一方で、同じ雰囲気を感じても積極的に発言を続ける少数派がおり、結果的に彼らが議論を主導してしまったのです。

過激な議論の場では大多数が沈黙し、ごく少数の声だけがひときわ大きく響いていたわけです。

研究者たちは、この偏りはコメント欄を「世論の縮図」と勘違いさせる危険性があると警鐘を鳴らしています。

しかし、そもそもなぜ荒れた空気は人を黙らせると同時に、別の人を“常連化”させてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月10日に『Science Advances』にて発表されました。

目次

  • 常連さんがいるコメント欄は荒れやすい?
  • 一部の常連さんは荒れたコメント欄が大好物で連投する
  • コメント欄は常連さんの声を実態以上に大きく響かせる

常連さんがいるコメント欄は荒れやすい?

常連さんがいるコメント欄は荒れやすい?
常連さんがいるコメント欄は荒れやすい? / Credit:Canva

ネットのコメント欄に、いつも同じ顔ぶれが居座っていると思ったことはないでしょうか?

たとえばニュースサイトの記事についてのコメント欄を思い浮かべてみてください。

よく登場する「常連さん」の投稿ばかりが目につき、多くの利用者は結局読むだけで書き込まない—そんな光景に見覚えがある人も多いのではないでしょうか。

実際、この現象は以前から指摘されてきました。

オンラインのディスカッションではごく一部の積極的なユーザーが議論を牽引し、大多数は沈黙に回る傾向があるとされています。

そして困ったことに、この不均衡によって世論の見え方が歪められ、社会の分断(極端な対立)が進む可能性もあると考えられています。

声の大きな常連ほど意見が過激になりやすいという報告もあり、コメント欄ばかり見ていると「みんなこんな極端なことを考えているのか」と誤解してしまう恐れがあります。

しかもSNSはattention economy(注目の奪い合い)の世界です。

強い言い方ほど目に入りやすく、反応も集まりやすい傾向があります。

すると、過激さや攻撃性が“得”になる場面が出てきます。

荒れている場所は、普通なら人が離れて静かになりそうです。

ところが経験的には、荒れた場所ほど、むしろ書き込みが増えるようにも見えます。

黙る人が増えるのに、残った少数はますます目立つという逆転現象が起こるのです。

この現象は、沈黙の螺旋(少数派だと思うと黙るという考え方)にも似ています。

周りが怖いと、普通の人は声を引っ込めます。

その結果、残った声が「多数派」に見えてしまい、さらに黙る人が増える。

もしコメント欄でこれが起きているなら、私たちが見ている“空気”は、かなり偏ったものになります。

ところが、オンライン政治談議において誰が「見る専門(=ロム専)」になり、誰が「投稿魔」になるのか、その違いを決定づける要因はこれまでよく分かっていませんでした。

そこで今回研究者たちは、読むだけの人も含めて最初から集め、同じ条件で議論の場に入れて、誰が黙り、誰が常連になるのかを前向きに確かめました。

もし「毒」が本当に常連を増やすなら、私たちが“世論”だと思って見ているコメント欄は、いったい何を映しているのでしょうか。

一部の常連さんは荒れたコメント欄が大好物で連投する

一部の常連さんは荒れたコメント欄が大好物で連投する
一部の常連さんは荒れたコメント欄が大好物で連投する / 縦軸が人数、横軸が書き込んだ回数。ほとんどの人はそもそも書き込まないか書き込んでも少数にとどまるが、ごく一部の人は大量に書き込んでいることがわかります。/Credit:Disentangling participation in online political discussions with a collective field experiment

研究チームはSNS掲示板「Reddit(レディット)」上に、政治について議論するための6つの非公開コミュニティを新設しました。

そこに事前アンケートで募集・確認した参加者520名を無作為に割り当て、4週間にわたって計20個の政治的トピックについてオンライン討論をしてもらったのです。

結果、520人から合計5819件のコメントが投稿されました。

早速研究者たちは分析にとりかかります。

するとまず、多くの人が一度も発言しなかったという事実が見えてきました。

全参加者520名のうち、約36%(189名)は最後までコメントを投稿せず沈黙を貫いていたのです。

一方、最も多く投稿した人は4週間で114件ものコメントを残しており、発言数は人によって極端に異なっていました。

また誰が積極的に発言するかには偏りがあり、政治への関心が高い人や男性はコメント数が多い傾向も観察されました。

議論を主導する「常連」層と、ロム専に徹する沈黙層とに二極化する――これがコメント欄における基本的な構図のようです。

では、誰が沈黙し誰が饒舌になるのかを分けた要因は何だったのでしょうか。

分析の結果、鍵を握っていたのは議論の「空気」をどう感じたかでした。

議論の場が「攻撃的だ」「無礼だ」「建設的でない」と主観的に感じた人ほど、自分はコメントせずに読むだけ(いわゆる「ロム専」)に回る傾向が強いことが示されました。

一方で皮肉なことに、同じように議論の空気を「荒れている」と感じたにもかかわらず書き込み続けた少数派も存在し、そうした人々はむしろコメント数が増える傾向を示しました。

まさに「毒」が常連を増やすパラドックスと言えるでしょう。

このねじれ現象は、人間がストレスを受けたときの反応の違いにも例えられます。

プレッシャーに敏感な人はストレス源から逃れようと黙り込む一方、ストレス耐性が高い人は刺激として捉え、積極的に関与し続けることがあります。

コメント欄でも同様に、「荒れた空気」にストレスを感じた人ほど離脱し、逆にストレスをあまり感じない人だけが残ってさらに発言を重ねる結果となりました。

現実のコメント欄では、この少数派の声ばかりが目立ってしまうのです。

では、こうした偏りを是正する手立てはあるのでしょうか?

研究チームは試験的に2種類の介入策を講じ、その効果を検証しました。

一つは経済インセンティブ(金銭による動機付け)で、参加者が1日に1回以上まじめなコメントを投稿するごとに2ドル(数百円程度)相当のギフト券を支払うというものです。

もう一つは「議論は冷静かつ礼儀正しく行いましょう」「嫌がらせや差別的発言は避けましょう」といった規範メッセージを掲示板上部に表示し、投稿前にマナーを意識させる工夫で、自動のスパム対策なども組み合わせました。

結果はどうだったでしょうか。

まず金銭インセンティブについては、確かに参加の偏りが少し小さくなる効果が見られました。

しかしその効果は限定的で、依然として熱心な常連が優勢である構図自体は崩せませんでした。

一方、礼儀に関する注意書きを示すモデレーション介入の方は、残念ながら参加の偏りを縮める効果は確認できませんでした。

コメント欄は常連さんの声を実態以上に大きく響かせる

コメント欄は常連さんの声を実態以上に大きく響かせる
コメント欄は常連さんの声を実態以上に大きく響かせる / Credit:Canva

今回の研究により、コメント欄は「社会の平均」をそのまま写す鏡というより、発言しやすい人だけを映す拡声器になりやすい傾向が示されました。

さらに荒れた空気は多くの人の口を閉ざしやすい傾向がありますが、残った少数の声をむしろ太くする追加のブースト効果も示されました。

攻撃的で居心地の悪い雰囲気だと多くの人々は沈黙しますが、一部の人々はその状況に刺激されて(ある意味、面白がって)投稿数を増していき彼らがコメント欄の主役となっていきます。

リード著者のリサ・オズワルド氏は「誰もがオンライン上で発言するようになるとは期待できない」と述べています。

むしろ重要なのは、少数の活発な声と大多数の沈黙が何を意味するのかを理解することだと言います。

ではどうすればこのような偏りを減らせるのでしょうか?

論文では、初投稿者や良質な投稿への見える形の報酬を増やすこと、あるいは一人あたりの投稿数に上限を設けることなどが検討に値すると述べています。

静かな人が一言だけ言いやすい入口を作り、同時に常連の独走を物理的に止める二段構え的な方法と言えます。

ただし、この結果を世界中の全てのSNS投稿に当てはめてしまうのは早計です。

今回の研究で扱ったテーマは政治的話題であり、趣味や科学に関するコメントとは一線を画します。

また研究では、数百万人が絡むような「劇的な炎上」は再現できておらず、攻撃性も(参加者たちが観察対象となったと自覚したためか)極端なものにはなりませんでした。

ですが読むだけの人を含めて同じ場に入れ、沈黙と常連化を同じ枠で分析した意義は大きいと言えます。

コメント欄がもし生き物だとしたら、静かな声を飲み込み、目立つ声を育てる性格を持っているのかもしれません。

今回の研究成果が多くの人に共有されれば、その“性格”を前提に、コメント欄という生態系をより冷静に見つめられるようになるでしょう。

参考文献

Online discussions: Whose voices are heard?
https://www.mpg.de/25857449/1210-bild-online-discussions-whose-voices-are-heard-149835-x?c=2249

元論文

Disentangling participation in online political discussions with a collective field experiment
https://doi.org/10.1126/sciadv.ady8022

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる