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「贅沢な物」より「贅沢な体験」を誇示する方が”温かみがある”と評価される

  • 2025.12.11
「贅沢な体験」のSNSシェアは「お金を持っている」だけでなく「温かみ」も伝える / Credit:Canva

SNSでは、高級車やブランドバッグを披露する人もいれば、豪華なリゾート地での休暇やミシュラン星付きレストランでの食事を投稿する人もいます。

どちらも「自分はお金持ちだ」というメッセージを発信していますが、見る側の印象は同じなのでしょうか?

デンマークのオーフス大学(Aarhus University)の研究チームは、「贅沢な体験」を見せびらかす人は「贅沢な物」を見せびらかす人と同等の富やステータスを示しながらも、より温かみのある人物として認識されることを発見しました。

この研究は2025年4月29日付で『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されています。

目次

  • 「物」の誇示は冷たい印象を与える
  • 「見せびらかし感」が出ると逆効果になる

「物」の誇示は冷たい印象を与える

人間は古くから、自分の富や社会的地位を周囲に示すためにお金の使い方を見せびらかしてきました。

19世紀末、経済学者ソースティン・ヴェブレンはこの行動を「conspicuous consumption(顕示的消費)」と名付けました。

これまでの心理学研究では、高級車やデザイナーズバッグなど「物」を見せびらかす行動が主に調べられてきました。

そこで分かったのは、物質的な贅沢品を誇示する人は「お金持ちで成功している」と見られる一方で、「冷たい」「計算高い」「友達になりたくない」といったネガティブな印象も持たれやすいということです。

つまり、物の誇示にはステータスを示すメリットがある反面、対人関係上のコストが伴っていたのです。

では、SNSで急増している「体験の誇示」はどうでしょうか?

高級旅行やVIPコンサート、一流レストランでの食事といった体験的消費の市場は世界でますます成長しています。

しかし、これらを見せびらかすことの社会的影響については、ほとんど研究されていません。

そこで研究チームは4つの実験を通じて、体験と物の誇示がもたらす印象の違いを検証しました。

実験1aでは、421名の参加者を対象に、同じ製品でも説明の仕方によって印象が変わるかを調べました。

全員に高級「Boseホームシアターサウンドシステム」を見せ、半数には製品の物理的特性や部品の品質を強調した説明を、残り半数には没入感のある視聴体験や製品がもたらす感覚を強調した説明を読ませました。

その後、このシステムを購入した架空の人物の性格を評価してもらいました。

結果、ステータス(富や社会的地位)の認知には差がありませんでした。

どちらの説明を読んだ参加者も、所有者を同程度に「裕福」「上流階級」と評価したのです。

しかし温かみの認知には明確な差が出ました。

体験を強調して説明された製品の所有者は、物として説明された所有者よりも「温かい」「社交的」と評価されたのです。

製品自体は同じなのに、「何を持っているか」ではなく「どんな体験ができるか」という視点で語るだけで、その人の印象が良くなったわけです。

続く実験1bでは、120名の参加者に実際のInstagram投稿を見せて評価してもらいました。

研究チームはInstagramから高級旅行や高級品に関するハッシュタグを使って投稿を収集し、参加者に投稿者がさまざまな職業にどれくらい向いているかを判断させました。

職業は「高ステータス・温かみが低い」仕事(企業弁護士、ビジネスパーソンなど)と「温かみが高い」の仕事(ソーシャルワーカー、保育士など)の2タイプを用意しました。

結果、体験を投稿していた人は両タイプの職業に向いていると評価されました。

有能さも親切さも兼ね備えていると見られたのです。

一方、物を投稿していた人は高ステータスの職業には向いているものの、温かみが求められる職業には不向きと判断されました。

現実のSNS投稿でも、体験の誇示はステータスを損なわずに「いい人」という印象も獲得できる「両取り」の戦略になりうることが確認されたのです。

では、なぜ体験を誇示する人は温かく見えるのでしょうか?

「見せびらかし感」が出ると逆効果になる

研究チームは「体験」と「温かみ」の関連を調べるため、更なる実験を行いました。

実験2では、観察者が消費者の「動機」をどう推測するかが鍵だと考え、475名を対象に検証しました。

参加者にはSNSプロフィールを見せ、そこに購入動機の説明を加えました。

「純粋に楽しみたかったから」という内発的動機の説明、「周りに羨ましがられたかったから」という外発的動機の説明、そして動機の説明がないパターンの3条件を設定しました。

結果は興味深いものでした。

動機の説明がない場合、参加者は体験消費者を「純粋な楽しみのため」に購入したと推測し、物質消費者を「見せびらかしのため」に購入したと推測しました。

そして体験消費者の方が温かいと評価されました。

ところが、外発的動機(見せびらかしたかった)が明示された場合、体験消費者の温かみ優位性は消失しました

さらに驚くべきことに、評価が逆転したのです。

「SNSで注目を集めたくて旅行した」人は、「純粋に車が好きで高級車を買った」人よりも冷たいと評価されました。

体験消費の温かみ効果は、観察者が「この人は純粋に楽しんでいる」と推測することに依存していたのです。

見せびらかしの意図が透けて見えると、せっかくの温かみ効果は台無しになります。

実験3では、334名の大学生を対象に、体験が「一人」か「誰かと一緒」かで印象が変わるかを調べました。

研究チームは、動機(内発的 vs 外発的)と社会的文脈(単独 vs 友人と一緒)を組み合わせた4つの条件を設定し、ターゲット人物の温かみや友人になりたいかどうかを評価させました。

結果、温かみの優位性が確認されたのは「友人と一緒に体験」かつ「純粋に楽しみたかった」という条件のみでした。

一人での高級旅行は、たとえ本人が心から楽しんでいても、観察者に温かみを感じさせませんでした。

体験消費が温かみを伝えるには、内発的動機と推測されることに加え、他者と体験を共有しているという要素が不可欠だったのです。

これらの発見は、SNSでの自己呈示に実践的な示唆を与えます。

富やステータスを示しつつ好印象も得たいなら、「物」より「体験」を投稿する方が効果的です。

ただし、見せびらかし感を出さないこと、そして誰かと一緒の写真を選ぶことが重要になります。

一方で研究者は、体験消費が常に優れているわけではないと指摘しています。

支配的なリーダーシップを示したい場面など、あえて「冷たさ」や「威厳」を伝えたい状況では、物質的消費の方が適切なシグナルになりうるのです。

結局のところ、私たちの消費行動は単なる買い物ではなく、周囲へのメッセージでもあります。

何を買うかだけでなく、それをどう見せるかによって、相手に伝わる印象は大きく変わるのです。

参考文献

People who show off luxury vacations are viewed as warmer than those who show off luxury goods
https://www.psypost.org/people-who-show-off-luxury-vacations-are-viewed-as-warmer-than-those-who-show-off-luxury-goods/

元論文

Flaunting Porsches or Paris? Comparing the Social Signaling Value of Experiential and Material Conspicuous Consumption
https://doi.org/10.1177/01461672251331658

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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