1. トップ
  2. 元・朝ドラヒロインも出演【新・冬ドラマ】深夜帯ならではの“異色作”に注目

元・朝ドラヒロインも出演【新・冬ドラマ】深夜帯ならではの“異色作”に注目

  • 2026.1.15

2026年冬クールドラマの放送が始まったが、深夜ドラマに良作が多くて目が離せない。
深夜ドラマはプライムタイムで放送されているドラマと比べると低予算だが自由度が高い。そのため、時に思いもよらない斬新な作品が登場する。
1月7日から放送が始まった『こちら予備自衛英雄補?!』も深夜ドラマならではの異色作で、特別な力を持つヒーローたちの物語を密室コメディとして描いたユニークな作品となっている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

undefined
のん (C)SANKEI

物語は7人の男女が防衛省の会議室に集まる場面から始まる。
実は彼らは特別な力を持つ能力者で、日本を守る予備自衛英雄補になるため集まっていた。
高額の給料、経歴を履歴書に書くと進学や就職に有利、英雄年金制度もあるため老後も安心といった好条件を聞かされた能力者たちが次々と契約していく中、フリーターのナガレ(菊池風磨)だけは最後まで契約を拒んでいた。

ナガレは嘘をつくと身体が少しだけ浮かぶ能力の持ち主で、嘘をつくと能力者であることがバレてしまうため、本当のことしか言えなかった。
この能力が原因で彼の母親はナガレを捨てて失踪したため、この能力を使う仕事には就きたくないと考えていた。
だが防衛大臣のクロカワ(高杉亘)から、契約すれば母親に会わせてやると仄めかされたナガレは、契約を受け入れる。

物語は群像劇となっており、ナガレ以外の能力者は、筋肉ムキムキのトラック運転手・ユタニ(後藤剛範)、年金暮らしの老婆・フジワラ(丘みつ子)、スーツを着たクールで真面目そうな研究員・ミズノ(戸次重幸)、裕福な家に生まれた大学生・チュータ(森永悠希)、アイドルの推し活にハマっているギャルの高校生・サピピ(小宮山莉渚)、会社員のサエ(のん)。
7人は年齢も職業もバラバラで、全員、何を考えているのかわからない怪しさがある。

中でも一番気になるのが、のんが演じるサエだ。
彼女は28歳の会社員だが、どこか不機嫌で印象が悪く、契約に対しても慎重で一人だけ仮承諾だった。
それはおそらく彼女が持つ能力が原因なのだろうが、こういう役をのんが演じているのが面白い。

NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で朝ドラヒロインを演じたことをきっかけに、女優として注目されるようになったのんだが、昨年はNetflixで配信された映画『新幹線大爆破』で演じたプロ意識の高い新幹線の運転士、DMM TVで配信された連続ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』では、元会社員の殺し屋、ABEMAで配信された連続ドラマ『MISS KING / ミス・キング』では復讐に燃える女流棋士といった、これまでにない役を立て続けに演じ、女優として新境地を切り開いている。

今回のサエも一見年相応の大人の女性に見えるが、一癖も二癖もありそうで、今ののんだからこそ演じられるハマり役となるのではと楽しみだ。

ヒーローモノを題材にしたコメディ。

本作の原作・監督は、お笑いタレントの加藤浩次が担当しており、脚本もヨーロッパ企画の左子光晴と加藤が共同で手掛けている。
バカリズムを筆頭に、お笑い関係者がドラマ制作に参加する機会が近年増えている。 そのため、本作も加藤のカラーが色濃く出た作品になるだろうと思って放送前から楽しみにしていた。
ただ、設定が作り込まれた真面目なヒーローモノという印象だったため、“笑い”の要素が薄いシリアスな話になるのかと思っていた。
その印象は、半分は正解だったが、半分は良い意味で裏切られた。
ナガレの過去を描いた回想シーンや役者の芝居のトーンはシリアスだが、物語の見せ方はボケとツッコミで見せていくコント仕立てとなっている。
それがよく表れているのが、防衛省職員のマドズミ(六角精児)が『予備自衛英雄補』について解説映像を観ながら説明する場面。 ヒーローについての説明がモニターに映る中、マドズミは映像を止めて、ここではヒーローと言っているがヒーローとは言わないでくださいと言う。そして、ヒーローという言葉が出る度にヒーローではないと。いちいち口を挟む。
マドズミの振る舞いはボケとツッコミを一人でおこなう漫才のように撮られている。 そのことに気付くと、これはヒーローモノのお約束にツッコミを入れていくコメディなのだとわかってくる。
ただ、これが単なるボケとツッコミで終わってないのが本作の侮れなさだ。

国家と兵器の比喩としてのヒーロー

マドズミは、他の国では使用されているヒーロー(英雄)という呼び名を日本で使用できないのは、英雄と言うと戦力となり憲法9条に引っかかるからだと語る。
そのため、日本では予備自衛英雄補という名称になっているのだが、これは憲法9条に、戦争の放棄、陸海空軍その他の戦力を保持しないことが明記されているため、日本に軍隊は存在しないが、防衛や災害救助のための自衛隊は存在するという複雑な状況を、ヒーローの状況と重ねている。

つまり、ヒーローの存在が核兵器も含めた世界各国の軍事力の比喩となっているのだ。

そのことに気付くと、ヒーローネタを用いた密室コメディと思えた本作が、とたんに奥行きのあるものに見えてくる。

ヒーローの存在を国家や兵器の比喩として描くことは、スーパーマンやバットマンといったアメリカン・コミックスのヒーローを主役にしたヒーロー映画では定番の手法だ。

アメリカン・コミックスのヒーローの在り方を物語の中で突き詰めていくと、最終的に世界の警察として振る舞うアメリカの比喩となっていくことが多い。
そのため多くのヒーローは巨大な力を背負うが故の責任を問われることになる。

対して『こちら予備自衛英雄補?!』のヒーローは、ヒーローと名乗れないことや、持っている能力が“少しだけ浮かぶ”といった、あまりぱっとしないものだということも含め、軍隊を持てないが自衛隊は所有している日本の比喩としてよくできている。

このヒーローと名乗れないヒーローという設定をうまく活かせれば、本作はヒーロードラマの傑作となるだろう。今後の展開が楽しみである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。