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32年前、朝の空気を鮮やかに塗り替えた“魔法の旋律” 世代を超えて愛され続ける“日常を彩る行進曲”

  • 2026.2.9
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山下達郎『パレード』(作詞・作曲:山下達郎)――1994年1月25日発売

それは、ただの子供向けの歌ではなかった。洗練された都会的な響きと、どこか懐かしいノスタルジー。朝の光を吸い込んだような眩しさと、一日の終わりを優しく見送るような安らぎ。その不思議な二面性を持ったメロディは、瞬く間に日本中の茶の間を虜にした。だが、この曲にはリリースされる20年も前から紡がれてきた、長い長い物語があったのだ。

20年の歳月を経て“再発見”された奇跡

『パレード』がシングルとして発売されたのは1994年のことだが、その誕生はさらに時代を遡る。元々は1974年の春、山下達郎が伝説のバンド「シュガー・ベイブ」として活動していた頃に書き下ろされたレパートリーだった。ライブでは披露されていたものの、アルバム『SONGS』には収録されず、ファンの間では知る人ぞ知る存在となっていた。

その後、1976年に大滝詠一、伊藤銀次、そして山下達郎の3人によるプロジェクト、ナイアガラ・トライアングルのアルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』に収録されることで、世に音源として放たれた。つまり、1994年のシングル・カットは、長い月日を経て訪れた幸福な“再発見”だったのである。

なぜ、これほどまでに時を経た楽曲が、90年代の空気に見事にフィットしたのだろうか。そこには、時代を越えて響く、徹底的にこだわり抜かれた音楽的背景があった。

贅沢な音の粒が躍る“究極のポップス”

編曲も担当した山下達郎は、当時憧れていたフィラデルフィア・ソウルやアメリカン・ポップスのエッセンスを、自身の感性で見事に昇華させた。ブラスセクションの華やかさ、ウッドウィンドの柔らかな質感、そして何より、山下自身の若々しくも芯のある歌声。これらすべてが完璧なバランスで調和し、「日常という名のパレード」を祝福するかのような祝祭感を生み出しているのだ。

フジテレビ系の子供番組『ポンキッキーズ』のエンディングテーマとして採用されたことで、この曲は決定的な役割を得ることになる。そかつてのファンには懐かしく、当時の子供たちには最高にクールな「新しい歌」として届いた。親が口ずさむメロディを子供が覚え、家族で同じ旋律を共有する。そんな光景が日本中の朝に広がっていった。

この曲が描いているのは、華やかなお祭りのパレードだけではない。誰の日常にもある、ささやかな一歩。見慣れた街角を少しだけ誇らしげに歩きたくなるような、そんな心の高鳴りだ。だからこそ、聴く者の年齢を問わず、それぞれの胸の中に自分だけの「パレード」を呼び起こすことができたのである。

永遠に鳴り止まない、明日への足音

今、改めてこの曲を聴くと、32年前のあの頃の空気感が鮮明に蘇ってくる。それは単なる思い出の曲という枠を超え、いつ聴いても背中をそっと押してくれるような、普遍的な力を持ち続けている。

流行は移ろい、音楽の聴き方も変わった。それでも、山下達郎の歌声が「パレードが行くよ」と告げるとき、私たちの心はいつだって、あの頃の純粋なときめきを取り戻すことができる。

派手な演出がなくても、日常を少しだけ魔法に変えてくれる。そんな「本物のポップス」が持つ力強さを、『パレード』は今も変わらず教えてくれるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。