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35年前、双子の姉妹が放った“大ヒットアニメ主題歌” “天才”が仕掛けた切ないメロディ

  • 2026.2.6

1991年2月。冬の寒さがまだ残りつつも、日差しの中に春の予感が混じり始めるこの季節、多くの若者たちはそれぞれの“卒業”と“出発”の準備をしていたことだろう。

そんな時代の変わり目ともいえる時期に、ある一曲の美しいバラードが、アニメーションの枠を超えて静かに、しかし深く心に刻まれていた。

 a・chi-a・chi『もう一つの卒業』(作詞:安藤芳彦・作曲:松原みき)――1991年2月20日発売 

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Google Geminiにて作成(イメージ)

決して派手なプロモーションが行われたわけではない。それでもこの曲は、ある特定の世代にとっては、学校の校歌以上に“卒業”の記憶と結びついた、かけがえのない一曲となっている。 

双子の歌声が起こした“静かな奇跡”

a・chi-a・chi(アチアチ)は、双子の姉妹によるボーカルユニットだ。彼女たちの名前を聞いて、すぐに胸が熱くなる読者は、おそらく当時テレビの前で冒険を共にした少年少女たちだろう。彼女たちは、大ヒット冒険ファンタジーアニメ『魔神英雄伝ワタル』シリーズの主題歌を担当し、その元気でポップな歌声で日本中の子供たちの心を掴んでいた。

しかし、この『もう一つの卒業』は、それまでの活発でエネルギッシュなイメージとは一線を画す作品だった。アニメ『魔神英雄伝ワタル2』の物語がいよいよクライマックスを迎え、ファンにとってもキャラクターたちとの“別れ”が近づいていた時期。そんなタイミングでリリースされたこの曲は、「卒業記念」と銘打たれ、誰もが経験する普遍的な“卒業”の寂しさと希望を歌い上げていた。

双子ならではの声質が近いハーモニーは、まるで一人の人間が心の中で自問自答しているかのような、不思議な親密さを醸し出している。派手に主張し合うのではなく、互いに寄り添い、溶け合うようなその歌声。それが、聴く者の心に「自分だけの思い出」を喚起させる、特別なスイッチとなっていたのだ。

天才・松原みきが描いた“切なさの正体”

この楽曲を語る上で欠かせないのが、作曲を手がけた松原みきの存在だ。『真夜中のドア〜Stay With Me』が近年、世界的なシティ・ポップブームの象徴として再評価されている彼女だが、実は優れたメロディメーカーとして、多くのアニメソングや歌謡曲に珠玉の旋律を提供していた。

『もう一つの卒業』において、彼女は驚くほど純朴で、それでいて琴線に触れる繊細なメロディラインを紡ぎ出している。静かな語り出しから、サビに向かってゆっくりと、しかし力強く感情が高まっていく構成。そこには、奇をてらった転調やギミックはない。ただひたすらに、美しい旋律が胸を締め付けるように続いていく。

「悲しみ」ではなく「優しさ」で涙を誘うその手腕は、まさに天才・松原みきの真骨頂といえるだろう。編曲を担当した神林早人による、温かみのあるサウンドも、楽曲の世界観をより一層深めている。

“物語”の終わりと、現実の“春”が重なった日

作詞の安藤芳彦が紡いだ言葉は、特定の固有名詞を使わず、誰もが共感できる心象風景を描いている。窓の外の景色や、友との約束、そして言葉にできない感謝。そうした普遍的な情景描写があったからこそ、この曲はアニメ作品という枠を離れてもなお、独立した「卒業ソング」として成立し得たのだろう。

35年という月日は、当時子供だったリスナーを大人に変え、社会の形も大きく変えた。しかし、『もう一つの卒業』が持つ、人を想う温かさや、別れを前向きに捉える純粋な心は、決して色褪せることがない。

むしろ、情報が溢れ、複雑な現代社会を生きる私たちにこそ、この曲が持つ“静かな肯定感”が必要なのかもしれない。もし今、あなたが何かの終わりや別れに直面しているなら、一度この曲に耳を傾けてみてほしい。

 a・chi-a・chiの二人が奏でる優しいハーモニーと、松原みきが遺した美しい旋律が、きっとあなたの背中をそっと押してくれるはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。