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20年前、才能がぶつかりあった“天才シンガー”のデュエット 重厚アダルトな“仮面のうた”

  • 2026.1.27

2006年2月。携帯電話の着うたが流行し、誰もがイヤホン越しに自分だけの世界に没頭していたあの頃。街のCDショップの棚を、鮮やかな色彩で埋め尽くした一人の女性アーティストがいた。

前年末から始まった、前代未聞の「12週連続シングルリリース」。その終盤、第10弾として届けられたのが、大人の色香漂うこの一曲だった。

倖田來未『KAMEN feat.石井竜也』(作詞・作曲:石井竜也)――2006年2月8日発売

ジャケットに描かれたのは、ハワイをモチーフにした独創的なビジュアル。しかし、その扉を開けた先に待っていたのは、煌びやかなポリネシアンのイメージを裏切るような、重厚でアダルトなデュエットナンバーだった。

才能がぶつかり合う“声の火花”

この楽曲の最大の聴きどころは、なんといっても二人の圧倒的な表現力の応酬にある。

当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった倖田來未。彼女がそれまで見せてきた快活なダンスチューンや切ないバラードとは一線を画す、どこか退廃的で艶やかなボーカルが耳を捉える。

そこに重なるのが、稀代のエンターテイナー・石井竜也の歌声だ。彼自身が作詞・作曲を手がけたこの曲は、まるで一本の映画を見ているかのようなドラマ性に満ちている。

石井竜也が描く世界観は、単なる男女の恋愛模様ではない。タイトル通り「仮面(KAMEN)」を被り、本心を隠しながら踊り続ける二人の危うい均衡を描き出している。

互いの温度を確かめ合うような、絶妙な距離感。 どちらかが一歩踏み出せば壊れてしまいそうな繊細なハーモニーは、聴く者の心をざわつかせる不思議な魔力を持っていた。

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2006年、「第39回日本有線大賞」で歌う倖田來未(C)SANKEI

静寂の中に宿る“情熱の構造”

楽曲全体を支配するのは、夜の静寂を感じさせるような、落ち着いたミディアムテンポのビートだ。

編曲を担当したのは、多くの名曲を手がけてきた柿崎洋一郎。余計な音を削ぎ落とし、ボーカルの質感を最大限に引き出す音作りによって、二人の声が持つ「湿度」が生々しく伝わってくる。

サビに向けてじわじわと体温が上がっていくような構成は、まさに職人技といえる。派手なエレクトロサウンドが主流になりつつあった時代に、あえて生楽器の響きを大切にしたような厚みのあるサウンドをぶつけてきた。

それは、12週連続という怒涛のリリースラッシュの中で、「ただの流行りものでは終わらせない」という作り手たちの強い意志が投影されているようでもあった。

20年という時を経て、今また響く理由

この曲がリリースされた2006年2月、日本は冬の寒さの中にあった。あの冬、毎週のように届けられる新曲を手に取り、私たちは彼女が見せる千変万化の姿に驚かされていた。その中でも『KAMEN feat.石井竜也』は、どこか異質な、そして成熟した魅力を放つピースとして、コレクションの中で独特の光を放っていた。

「もし、あの時とは違う場所で出会っていたら」

そんな“if”を想像させるような、大人のための一曲。リリースから20年が経ち、当時の若者たちも今ではすっかり大人になった。

今改めてこの曲を聴き返すと、当時の自分には背伸びしすぎているように感じたあの「仮面」の重みが、少しだけ理解できるような気がする。

たとえ偽りの姿であっても、その瞬間に流れた情熱だけは本物だった。

あの冬の夜、街を彩った煌びやかな喧騒の裏側で、この曲は静かに、そして熱く、私たちの心に刻まれていたのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。