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40年前、国民的アイドルが笑顔で放った“卒業” 泣かせないのに、心が揺れるワケ

  • 2026.1.17

40年前、1986年の春。駅前のレコード店には、少し背伸びした制服姿が増え始め、街にはまだ冷たい風と、どこか落ち着かない空気が漂っていた。卒業式を控えた教室、いつも通りを装いながらも、心の奥では何かが静かに終わろうとしている。そんな季節に、この曲はあまりにも自然に、日常へと入り込んできた。

おニャン子クラブ『じゃあね』(作詞:秋元康・作曲:高橋研)――1986年2月21日発売

笑顔のまま、別れを引き受けたグループ

おニャン子クラブは、テレビと直結した存在感、会員番号という独自のシステム、日常に近い距離感。彼女たちは「アイドル」でありながら、どこか同級生の延長線にいる存在でもあった。

『じゃあね』は、そのおニャン子クラブにとって3枚目のシングルとして制作された楽曲である。きっかけは、「なかじ」の愛称で親しまれていた会員番号5番・中島美春の卒業だった。芸能界からの引退を決めた彼女を送り出すための卒業記念シングル。その背景を知ると、この曲が持つ佇まいの理由が、自然と腑に落ちてくる。

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おニャン子クラブ。前列一番右が「なかじ」こと中島美春-1985年撮影(C)SANKEI

泣かせないのに、心だけが揺れる理由

『じゃあね』の最大の特徴は、感情を過剰に煽らない点にある。メロディは穏やかで、テンポも控えめ。派手な展開や強いフックはない。それでも、不思議と耳に残り、胸の奥に沈んでいく。

この曲が放つのは、ドラマチックな別れではなく、日常の延長線にある「さようなら」だ。大げさな言葉を使わず、明るさを保ったまま、別れを受け入れる。その距離感が、当時のリスナーにとってあまりにもリアルだった。

最初は個人的な意味合いがつよかったが、やがて個人の感情を前に出すというより、グループ全体で時間を共有してきた記憶が、そのまま音になっているように響いていった。一斉に「じゃあね」で終わる楽曲の最後も印象的だ。だからこそ、この曲は特定の誰かの物語を超えて、聴く側それぞれの別れと重なっていった。

卒業シーズンと結びついた一曲の行方

『じゃあね』は、リリース後、ランキングで1位を獲得するヒットとなった。その数字以上に大きかったのは、季節との結びつきだ。2月下旬という発売時期、卒業という明確なテーマ、そして穏やかな余韻。これらが重なり合い、この曲は次第に「卒業式のシーズンに流れる歌」として定着していく。

特別な演出がなくても成立する。派手なメッセージがなくても届く。だからこそ、何度でも思い出の中で再生される。おニャン子クラブという存在の中でも、『じゃあね』は異なる時間の流れを持った楽曲として、今も語られ続けている。

あの日の「またね」が、今も胸に残る

別れは、必ずしも悲しみだけでできているわけではない。笑顔のまま手を振ることも、前を向いたまま区切りをつけることもある。『じゃあね』が40年経った今も春になると思い出されるのは、そのことを、静かに教えてくれるからだろう。

言葉にしすぎない優しさ。振り返らずに進む強さ。あの頃、教室やテレビの前で感じた小さな胸の揺れは、今もきっと、多くの人の中に残っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。