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35年前、クォーターミリオンを超えた“テレビ発ユニット” パロディが本格派だったワケ

  • 2026.1.7

卒業式の帰り道や、少し風の冷たい春先の駅前で、胸に残っていた感情を覚えているだろうか。別れは確かに寂しい。でも、それだけじゃない。どこかで「また会える」と信じていた、あの曖昧でやさしい空気。1991年の春、日本中にそんな感情をそっと広げた一曲があった。

やまだかつてないWINK『さよならだけどさよならじゃない』(作詞:山田邦子・作曲:KAN)――1991年2月21日発売

バラエティ番組発のユニット。Winkのパロディ。そう聞いて、どれほどの人がこの曲を“本気の名曲”として受け止めていただろうか。

テレビから生まれた、軽やかすぎる異端児

やまだかつてないWINKは、フジテレビ系バラエティ番組『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』の企画から生まれたユニットだ。

山田が当時からWink・相田翔子のものまねをレパートリーとしていたことを起点に、番組内で鈴木早智子役を一般視聴者から募るオーディション企画を実施。横山知枝が選ばれ、山田は相田翔子役、横山は鈴木早智子役として並び立つ形が完成した。Winkへのオマージュを核にしつつも、通称「やまかつWink」として親しまれていく。

見た目や設定だけを見れば、完全に“お茶の間向けのパロディ”。しかし、この2作目のシングル『さよならだけどさよならじゃない』で、その印象は大きく裏切られる。

作曲を手がけたのはKAN。同じ番組内で『愛は勝つ』が劇中歌として使われていたこともあり、その流れの中で誕生した楽曲だが、仕上がった音楽は驚くほど誠実で、丁寧だった。

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1991年、日本武道館で歌うやまかつWinkの横山知枝(左)と山田邦子(C)SANKEI

明るいのに、ちゃんと切ない。その絶妙な温度

この曲の最大の魅力は、「卒業」をテーマにしながら、決して涙に寄りかからない点にある。

別れを悲劇として描かず、未来へ続く通過点として提示する。その姿勢が、メロディとアレンジの隅々にまで行き渡っている。

KANらしい、耳に残るのに押しつけがましくない旋律。小林信吾による編曲は、過度な装飾を避け、ボーカルの素朴さと楽曲の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。

明るく軽快なのに、なぜか胸の奥が少しだけきゅっとする。それは、この曲が「別れの瞬間」ではなく、「別れのあとに残る感情」を描いているからだろう。

パロディを超えたからこそ、残ったもの

当時の音楽シーンを振り返ると、テレビ発の企画ユニットは決して珍しくなかった。だが、その多くは一過性の話題に留まり、作品として語り継がれることは少ない。

その中で『さよならだけどさよならじゃない』は、クォーターミリオン(25万枚)を超えるセールスを記録し、明確に“楽曲として”支持された。

それは、企画や話題性だけでは到達できない数字だ。山田邦子自身が作詞を手がけた言葉には、タレントとしてではなく、一人の大人としての視点が滲んでいる。

ふざけきらない。照れ隠しもしない。だからこそ、この曲は35年経った今も、どこか真っ直ぐに響く。

「さよなら」が、やさしい言葉だった時代

この曲が生まれた1991年は、バブルの余韻がまだ街に残りつつも、少しずつ価値観が変わり始めていた時代だ。派手さや強さよりも、気持ちの置き場所を探すような歌が、静かに求められ始めていた。『さよならだけどさよならじゃない』は、まさにその空気をすくい取った一曲だった。

別れを否定しない。でも、終わりにもさせない。「また会える」という希望を、声高に叫ばず、微笑みの中に忍ばせる。そのささやかな優しさこそが、この曲を単なるパロディソングで終わらせなかった理由なのだろう。

35年経った今、あらためて聴き返すと気づく。この曲は、卒業の歌ではなく、「続いていく関係」を信じる歌だったのだと。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。