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【田園日記~農と人の物語~ Vol.26】馬との共生に憧れ、家族・仲間と夢をかなえる

  • 2025.12.2

農にまつわるリアルを伝えるドキュメンタリー連載。情熱をもって地元で「農」を盛り上げる「人」にスポットを当て、いま起こっているコトをお届けします。今回は、馬をこよなく愛する横山晴樹さん(46)を訪ねました。二十代の頃、世界を旅するなかで馬と暮らす人々に出会い、そんな暮らしが色濃く残る長野県伊那市へと移住。農耕馬文化を継承しようと、奮闘する日々に密着します。




旅先で、馬や牛が農耕する姿に感動

日本アルプスの玄関口と呼ばれる長野県伊那市。南アルプスと中央アルプスの峻険な山々に挟まれた地域では、古くから、馬は人々の暮らしに欠かせない存在でした。

昭和五十年頃まで、田畑を耕す「馬耕(ばこう)」や切り出した木を運ぶ「馬搬(ばはん)」など、馬は働き手として地域を支えてきました。

そんな馬文化が昔話になっていた平成二十三年、伊那の高遠町山室で馬耕や馬搬を営むために「うまや七福」を開いたのが、横山晴樹さん(46)です。本人が“馬と生きる“と決めたのは、世界を旅していた二十代の頃。それまでは、将来の夢や目標を持ったことはなかったと話します。



「高校卒業後に就職するも、激務で心身ともに疲弊しちゃって。世界を巡ってやりたいことを探せば、と知人から助言をもらい、それもいいなと放浪の旅を始めました」

最初に訪れたのは、ニュージーランド。馬と暮らす人々に出会い、世話を任されるなか“馬との共生“に強い憧れを抱きます。また、世界各地で自給自足の生き方に触れて、夢や目標が湧いてきます。

「アジアでは、馬や牛で農耕する光景にすごく感動した。こういうことを日本でやってみたい、と夢ができました」




馬との向き合い方を学ぶため、さらに五年修行

教育牧場で馬との経験を積んだ晴樹さん。その後、子どもの里山体験をするNPO法人で、馬の世話をする職員として伊那へ移住。東京のNPO法人で働いていた、妻となる紀子さんと出会います。

「遊び場で馬を飼っていたことがあると聞き、この女性となら夢をかなえられる」と、即プロポーズしたそうです。

結婚後、夫妻で独立。小学校で飼う馬を預かることになります。また、伊那で馬耕をする先輩方から学びます。二十七年には、仲間と「はたらく馬協会」を立ち上げ、“馬耕教師“として全国を行脚していた「松山記念館」の西尾和実さんには、調教や馬耕を学びました。

「道具の使い方や技術はもちろん、根気強く調教することが“馬づくり“では重要だと学ばせてもらいました」

その後は自己流で挑む日々。しかし三年めを迎える頃、講師として参加したイベントで、うまく馬耕ができず、がくぜん。これじゃだめだ、と岩手県遠野市で修業しました。

「馬搬業を営む師匠に頼み、冬場のみ泊まり込みの修業を五年ほど続けました。愛情を持って厳しく指導してもらった(笑)。危険な山で馬を導く経験は、馬を扱う自信になりました」

馬との向き合い方を改めて学んだ晴樹さん。師匠に馬を紹介してもらい、師匠仕込みの調教術で馬の才能を開花。馬耕のほか馬搬にも挑戦していきます。

「全国に馬耕や馬搬を復活させたい、と始めて続けてきました。少しずつですが広がってきています」



“人馬一体“になる心地いい瞬間を求めて

馬とともに暮らし、十五年めを迎える晴樹さん。その魅力、だいご味について話します。

「馬耕しているとき、ふっと“人馬一体“になる心地いい瞬間があります。自分も馬も大自然の一部。そんなすばらしい時間がもてることかな」

今、調教しているのは北海道産の三歳馬、伊織です。令和六年にデビューしました。しかし、伊織を迎える直前の暮らしぶりは一筋縄ではいかなかったと、苦笑する晴樹さん。

「資金がなく、後継馬や馬小屋新設のためクラウドファンディングを実施しました。成功したものの、一方で馬が死んだり、調教困難で馬を返却したり。馬小屋の整備もあり、資金は底をつきました」

しかし“人間万事塞翁が馬“とはよく言ったもの。遠野の馬仲間が、仔馬(伊織)を破格の条件で譲ってくれることになりました。涙が出るほどうれしかった、と晴樹さん。

「伊織は優しく落ち着いていて、すごくいい馬です。馬、地域、NPOと、多くの仲間とのつながりがあって、仕事や暮らしが成り立っていることを実感しました」



農耕馬文化の継承や、地域内外の子どもの保育や教育、移住推進など、さまざまな活動に取り組んでいる「うまや七福」の横山夫妻。

「山村留学やフリースクール、移住希望者の宿泊体験も受け入れています。地域のために、これからも積極的に関わっていきたいです」

晴樹さんに今後の夢を尋ねると、本格的な馬耕の普及を、仔馬からの調教を、若い仲間と馬の飼育をしたい、と話が尽きません。

「いつの間にか、夢の多い暮らしになりました(笑)。ぼくの“名調教師“である妻や娘、仲間たちと、夢や目標をかなえていきたいですね」



※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2025年2月号に掲載されたものです。

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