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25年前、R&Bの歌姫が放った“30万ヒット” 音を削ぎ落とした“静寂”サウンド

  • 2026.1.2

2001年2月。あの頃の冬の夜を思い出すと、街は静かに冷え込み、どこか感情の輪郭が曖昧になっていく時間が流れていた。ネオンがにじむ帰り道、誰かに弱音を吐くほどでもないけれど、胸の奥に小さな違和感だけが残る。そんな夜に、そっと耳に残った一曲があった。

倉木麻衣『冷たい海』(作詞:倉木麻衣・作曲:大野愛果)――2001年2月7日発売

冬の空気と重なった、沈黙のような存在感

『冷たい海』は、倉木麻衣にとって7枚目のシングルとして世に送り出された。デビュー当初からR&Bの感触をまとったクールな表現で注目を集めてきた彼女だが、この楽曲では、その方向性がより内省的に研ぎ澄まされている。

2001年初頭という時代は、華やかなヒット曲が並ぶ一方で、個人の感情や孤独に静かに寄り添う音楽が、確実に求められ始めていた時期でもあった。『冷たい海』は、感情が沈んでいく過程そのものを音にしたような佇まいで、リスナーの耳に残っていった。

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2015年、JR西日本「あしたセレンディピティLIVE」に登場した倉木麻衣(C)SANKEI

音を削ぎ落とすことで浮かび上がる緊張感

この曲の印象を決定づけているのが、Cybersoundによる編曲だ。厚みのあるサウンドで包み込むのではなく、あえて音数を抑え、冷たさと余白を際立たせる構成。その結果、楽曲全体に張りつめた空気が生まれている。

倉木麻衣のボーカルもまた、感情を過剰に揺らすことはない。一定の距離感を保ちながら旋律に身を預ける歌い方は、聴く側に解釈を委ねる余白を残す。答えを与えないからこそ、聴く人それぞれの感情が静かに映り込む。そんなタイプの楽曲だった。

冷たさの奥に残る、消えない余韻

『冷たい海』は、結果として30万枚を超えるセールスを記録している。感情の深い部分に触れる楽曲は、確実に支持される。その事実を、このシングルは静かに証明していた。

今も記憶に残るのは、聴いた瞬間の印象だけではなく、聴き終えた後に残る余韻のため。感情を吐き出すのではなく、抱えたまま夜を越えていく。その感覚が、この曲には確かに刻まれている。

25年という時間が経っても、ふとした瞬間に思い出されるのは、強さではなく、弱さをそのまま肯定してくれる音楽だったからなのかもしれない。冬の夜に、心が少し冷えたとき。今もこの曲は、変わらない距離感で、そっと隣に立っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。