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30年前、解散宣言後に届いた“終章のつづき” ミリオンヒットより小さなバラードが心に残るワケ

  • 2026.1.2

30年前、あなたはどんな「夏の終わり」を過ごしていた?

まだコートのいらない日と必要な日が行き来する2月の街。レンタルショップの試聴機で新譜をチェックしながら、帰り道のウォークマンにどの曲を入れようか悩んでいた頃、季節外れのタイトルを持つ1枚が並んだ。まだ夏は来てもいないのに、「夏の終わり」と名づけられたバラードだ。

プリンセス プリンセス『夏の終わり』(作詞・作曲:渡辺敦子)――1996年2月1日発売

解散宣言のあとに生まれた、もうひとつの“最後”

『Diamonds』『世界でいちばん熱い夏』などで国民的バンドとなったプリンセス プリンセス。彼女たちが解散を宣言したのは1995年。解散宣言とともにリリースされた20枚目のシングルがラストシングルと位置づけられた『Fly Baby Fly』。そのあとにそっと差し出された21枚目のシングルが『夏の終わり』だ。

アンコールシングルでありながら、ファンにとっては「本編が終わったあと、もう一度だけ鳴らされたエンディングテーマ」のように響いた人も多いだろう。

ここで選ばれたのは、拳を振り上げるロックではなく、静かに胸の奥を撫でていくバラード。派手なサヨナラよりも、ふとした瞬間に思い出してもらえる曲を最後に置く。そのさりげない美学が、この1枚には濃く刻まれている。

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1996年、プリンセス プリンセスの解散コンサートより(C)SANKEI

渡辺敦子のペンが描いた、穏やかなバンドサウンド

『夏の終わり』は、リーダーのベース・渡辺敦子が作詞・作曲を手がけた楽曲だ。テンポはゆったり、ドラムは落ち着いたビートで全体を支え、ベースは低域で寄り添いながら時折ふっとメロディを押し上げる。

ギターや鍵盤は、強くかき鳴らすのではなく余韻を大切に鳴らされ、音と音の間に小さな間が残されている。その隙間が、聴き手の感情をそっと置いておけるスペースになっているようだ。

バラードではあるが、サビで劇的に爆発するタイプではない。少しずつ少しずつ、胸の奥を温めるように曲が進んでいく。聴く側が自分の記憶や感情を自然に重ねていけるだけの余白を残したバラード、そんな言い方がよく似合う。

ヒットの数字より、心に残るアンコールシングルとは

ミリオンヒットが並ぶプリンセス プリンセスのシングル史の中で、『夏の終わり』は数字の面では控えめな作品だ。それでも語り継がれるのは、この曲が「バンドの終章」と「ファンそれぞれの時間」を結びつける役割を担っているからだろう。

解散宣言とともに届いた『Fly Baby Fly』が、前を向いて歩き出すための力強い1曲だとすれば、『夏の終わり』はライブが終わって客席の灯りがじわりと明るくなった瞬間、心の中でそっと流れ続ける曲だ。「ああ、本当に終わっちゃうんだな」と実感した夜に、もう一度だけ寄り添ってくれるバラードと言っていい。

タイトルにある「夏の終わり」という言葉も、聴き手の人生にすっと溶け込む。部活を引退した夏、叶わなかった恋の夏、何ごともなく過ぎたふつうの夏、どんな記憶にも無理なく重なるからこそ、聴く人の数だけ「自分だけの夏の終わり」が立ち上がる

2026年に聴き直す、“あの頃”と今をつなぐ歌

2026年の今、当時のシングルCDを実際に手に取る機会は減ったかもしれない。サブスクで簡単に聴けるようになったけれど、それでも『夏の終わり』が流れた瞬間に立ちのぼる空気は、90年代半ばのあの感じのままだ。

「今年の夏もあっという間だったな」とふと思う夜、窓を少し開けて涼しくなり始めた風を感じながらこの曲を聴くと、10代だった自分や、あの頃一緒にいた誰かの顔が、不意に胸の奥に浮かんでくる。プリンセス プリンセスのラストを飾った一連のシングルの中で、『夏の終わり』はそんな“個人的な記憶”と強く結びつくアンコールシングルだ。

解散宣言後に届けられた、ラストの先のラストソング。それは、終わりを告げるためというよりも、「あの時間はたしかにここにあった」と静かに刻みつけるためのバラードだったのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。