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26年越しに響いた“異国の名曲” 75年の曲が新世紀に刺さったワケ

  • 2025.12.30

24年前、金曜の夜。ドラマから流れてきたあの旋律。最新曲でもないのに、なぜか胸の奥に沈んでいくような感覚があった。2001年の東京は、明るさと不安が同居していた時代。携帯電話は普及し続け、恋愛の距離感も少しずつ変わりつつあった。そんな夜更けに流れていたのが、はるか遠い北欧から届いた、あまりにも有名な一曲だった。

ABBA『SOS』(作詞・作曲:Benny Andersson・Bjorn Ulvaeus・Stig Anderson)――1975年9月8日発売

時代を越えて呼び戻された、ABBAの核心

ABBAは1970年代を代表するポップグループであり、世界的な成功を収めた存在だ。その中でも『SOS』は、代表曲のひとつとして知られている。軽快なポップスというイメージが先行しがちなABBAだが、『SOS』はそれとは少し異なる。

メロディは親しみやすくも、全体を包む空気はどこか切迫している。タイトルが示す通り、感情の限界点に立たされた声が、淡々と、しかし確実に胸へと届いてくる。派手な演出をしなくても、感情そのものが前に出てくる構造が、この曲の大きな特徴だ。

深夜ドラマと結びついた、再発見の瞬間

2001年、この『SOS』は思いがけない形で日本の若い世代と再会する。TBS系ドラマ『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』のエンディング・テーマとして起用されたのだ。オープニングには同じくABBAの『チキチータ』が使われ、物語の始まりと終わりを、異国のポップソングが静かに包み込んでいた。

この起用をきっかけに『SOS』はシングルとして再発売され、日本でも再び注目を集めることになる。懐かしさだけではなく、“今の空気に合った”ことが、再評価の大きな要因だった。

『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』が描いた危うい青春

ドラマ『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』は、高校生たちの恋愛を軸にしながら、単なる青春物語には収まらない作風を持っていた。滝沢秀明、深田恭子、窪塚洋介、内山理名といった若手俳優たちが高校生を演じ、脚本を手がけたのは野島信司。登場人物たちは皆、まっすぐではなく、どこか歪みや危うさを抱えている。

滝沢秀明演じる主人公の高校生は、いじめを受けていた内向的な少年。家庭環境の変化によって、年の近い義理の妹(深田恭子)と同居することになり、そこから関係性は複雑に絡み合っていく。さらに、彼に想いを寄せる幼馴染(内山理名)の存在が加わり、感情は静かに、しかし確実にすれ違っていく。

誰かを想う気持ちが、必ずしも救いにならない。そのもどかしさと残酷さを、ドラマは淡々と描き出していた。だからこそ、物語の余韻として流れる『SOS』が、過剰な説明をせずとも感情を引き継ぐ役割を果たしていたのだ。

ちなみにドラマのタイトルを英語の”Strawberry On the Shortcake”にして、頭文字を取ると「SOS」となる。

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2001年、堀越高校卒業式での深田恭子(C)SANKEI

なぜ24年後も、この曲は響くのか

『SOS』が2001年の日本で再び受け入れられた理由は、単なる名曲だからではない。この曲が持つ“感情の孤立”が、当時の若者たちの感覚と不思議なほど重なっていたからだ。

メールや携帯電話が普及し始め、人とつながりやすくなったはずの時代。それでも心は、以前よりも複雑で、言葉にできない距離を抱えていた。『SOS』は、その説明しきれない感覚を、外国語のまま、音楽として差し出してくれた。意味を完全に理解しなくても、気持ちだけは伝わってしまう。それが、この曲の強さだった。

深夜の記憶とともに残る一曲

ドラマが終わり、エンディングロールが流れる数分間。何も考えずに聴いていたあの時間。その感覚は、今も曲を聴くたびに蘇る。

『SOS』は、1975年の曲でありながら、2001年の青春の一部となり、そして今もなお、誰かの夜にそっと寄り添い続けている。時代も国も越えて、感情だけが残る。そんな不思議な力を持った一曲なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。