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2001年、つんく♂が仕掛けた“男女ユニット”の衝撃 タイトルに込められた意味とは

  • 2025.12.29

2001年の冬。街にはまだ90年代の余韻が色濃く残り、流行や価値観もどこか惰性のように続いていた。一方で、テレビから聞こえてくるテンポだけは妙に速く、バラエティ番組が夜の定番として生活のリズムを支配していた時代でもある。笑いは増えたが、心の奥には「このままでいいのか」という小さな違和感が、静かに積もっていた。

そんな空気の中で、やけにまっすぐな言葉をタイトルに掲げた1曲が現れる。

EE JUMP『HELLO! 新しい私』(作詞・作曲:つんく)――2001年1月24日発売

明るく、前向きで、分かりやすい。だがこの曲が放っていたのは、単なるポップな元気さではなく、「変わることを自分で選ぶ」という意思だった。

役割を分けたことで、ユニットの輪郭が浮かび上がった

『HELLO! 新しい私』は、EE JUMPにとって2枚目のシングルにあたる。

デビュー曲『LOVE IS ENERGY』で提示した勢いとエナジーを受け継ぎながら、この2作目では、ユニットとしての構造がはっきりと整理された。

大きなポイントは、ソニンがボーカル、ユウキがラップという役割分担が明確に打ち出されたことだ。男女混合ユニットの魅力を、曖昧な掛け合いではなく「配置」で示す。その判断が、楽曲全体に分かりやすい立体感をもたらしている。

フジテレビ系バラエティ番組『笑う犬の冒険』のテーマソングになったことから、軽快な印象が先行しがちだが、実際にはユニットの方向性を定めるための重要な一歩だったことが見えてくる。

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2001年、東京・新宿で『HELLO! 新しい私』発表イベントを行ったEE JUMP(C)SANKEI

「踊れる」と「歌いたくなる」の間に置かれたサウンド

サウンド面で印象的なのは、単なるダンスミュージックにも、直球の歌モノにも振り切られていない点だ。編曲を手がけたAKIRAは、「踊れるけれど、歌いたくなる」という絶妙な地点を軸に、トラックを構築している。

リズムはタイトで前に進む力を持ちながら、エレクトリックピアノの柔らかな響きやギターが加わることで、音像には温度が生まれる。さらにストリングスが重なることで、テレビサイズに収まらない奥行きとスケール感が確保された。

ソニンのボーカルは、感情を過剰に押し出すことなく、メロディの輪郭を丁寧になぞる。一方でユウキのラップは、単なる合いの手ではなく、視点をずらす役割として機能している。主観と客観が同時に存在する構造が、この曲を単なる応援歌以上のものにしている。

タイトルに込められた「更新」の感覚

『HELLO! 新しい私』というタイトルは、いかにも明るく、前向きに響く。だがその言葉が刺さった理由は、「変われる」と断言していない点にあった。あくまで「HELLO」と声をかけるだけ。

そこには不安も迷いも含まれたままの再出発が想定されている。2001年という時代は、勢いだけで未来を信じることが少しずつ難しくなり始めた頃でもあった。だからこそ、この曲が示した“軽やかな更新”の感覚は、多くのリスナーにとって現実的だったのだろう。

作り込みは驚くほど丁寧。軽く聴けるのに、聴き捨てられない。そのバランス感覚こそが、この曲の最大の強度だった。

時代の境目に残された、まっすぐな挨拶

昨日までの自分に手を振り、まだ輪郭の定まらない“新しい私”に声をかける。その行為自体を肯定する歌。だからこそ『HELLO! 新しい私』は、時代を越えても色あせにくい。大きな決意ではなく、小さな更新。その感覚を、ポップソングとして自然に差し出したこと。それ自体が、2001年という時代のリアルな空気を、確かに封じ込めている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。