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21世紀初め、名プロデューサーが仕掛けた“究極アンサンブル” ただのタイアップ曲じゃないワケ

  • 2025.12.29

2001年の冬。街にはまだミレニアムの余熱が残りつつも、音楽シーン全体には次のフェーズへ進もうとする緊張感が漂っていた。CDショップの新譜棚には、デジタルとバンドサウンドが交錯する作品が並び、女性ボーカルを擁するロックバンドもまた、「勢い」だけでは語れない表現を求め始めていた。

Do As Infinity『Desire』(作詞・作曲:D・A・I)――2001年1月24日発売

この曲が放たれた瞬間、彼らのイメージは確実に更新された。それまでのDo As Infinityが持っていた“親しみやすさ”や“爽快感”はそのままに、より鋭く、より切実なエネルギーが前面に押し出された一曲だった。

静けさを削ぎ落とし、前へ走らせたサウンド

『Desire』は、Do As Infinityにとって7作目のシングルにあたる。バンドとしてのキャリアを重ね、安定感が生まれ始めたタイミングでありながら、この楽曲は決して守りに入っていない。

特徴的なのは、ギターを主役に据えすぎないアレンジだ。リフで引っ張るロックではなく、キーボードやストリングスを前面に出し、全体の推進力を音のレイヤーで構築している。そこに重なるリズム隊が、楽曲を一気に前へと押し出していく。

サウンドは激しく、スピード感に満ちているが、荒々しさ一辺倒ではない。

AメロからBメロにかけて高まっていく緊張感、そしてサビで一気に解放される構成は、感情を抑え込まず、それでいて無秩序にもならない。疾走感と制御が同時に成立している点が、この曲の大きな魅力だ。

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2001年、「花王ラビナス新商品、新CM発表会」に登場したDo As Infinity・伴都美子(C)SANKEI

伸びやかな声が生んだ“爆発力”

伴都美子のボーカルも、『Desire』において重要な役割を果たしている。

力強く歌い上げながらも、声そのものは決して硬くならない。高音域へ向かうほどに、張り詰めた感情がそのまま放たれるような感覚があり、サビでは一気に視界が開ける。

この“爆発”は、声量だけによるものではない。

フレーズの切り方や、語尾のニュアンス、ブレスの置き方まで含めて、サウンド全体と緻密に噛み合っている。その結果、聴き手はただ圧倒されるのではなく、自然と楽曲の流れに巻き込まれていく。

強さとしなやかさが同居した歌声こそが、この曲を単なるロックチューン以上の存在に押し上げている。

制作背景に見える“変化への意志”

『Desire』は、花王「ソフィーナオーブルージュフィーリア」のCMソングとしても起用された。タイアップ曲でありながら、耳当たりの良さだけを優先した作りにはなっていない点も印象的だ。

サウンドプロデュースを手がけたのは亀田誠治。彼の手腕によって、楽曲はより立体的に、よりダイナミックに磨き上げられた。バンドの個性を尊重しつつ、ポップスとしての強度を引き上げるバランス感覚は、この時期のDo As Infinityにとって大きな後押しとなったはずだ。

この曲以降、彼らは“爽やかなバンド”という枠を超え、より感情の振れ幅を持った存在として認識されていく。その起点として、『Desire』は確かな位置を占めている。

走り続ける意志を刻んだ一曲

『Desire』が放つエネルギーは、単なる高揚感ではない。止まることへの不安や、前へ進まなければならないという焦燥感も、すべて含んだうえで鳴らされている。

24年という時間が経った今聴いても、その切迫感は色褪せない。むしろ、変化のスピードが速くなった現代だからこそ、この曲が持つ“走り続ける意志”は、よりリアルに響いてくる。

静と動、抑制と爆発。その境界線を全力で駆け抜けた一曲。『Desire』は、Do As Infinityが次のステージへ踏み出した瞬間を、確かに刻み込んでいる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。