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作家・奥田亜希子「ちょうど自信をなくしていた時期だった」 競技かるたとの出合い

  • 2025.11.25

3年ほど前から競技かるたを始め、現在D級ライセンスを持っているという作家の奥田亜希子さん。

競技かるたにはまった女性の、趣味を見つけた喜び、家族との問題

「子供を競技かるたの教室に連れていったら私のほうがはまり、その後、大人の会員もいる町のかるた会に入りました」

なぜ夢中になったのかというと、

「ちょうど自信をなくしていた時期だったんです。でも、和歌がきれいで聴いているだけで幸せだし、百首覚えて、札を払えるようになるうちに気持ちを持ち直しました。大人になるとあまり自分の成長を感じる機会はないですが、かるたで久々に自信を得ていくという経験をしました」

それからは日々、かるたのYouTubeを見たり、百人一首の本を読んだりするようになった。

「仕事中でもかるたのことを考えられたら最高だなと思って、かるたを題材に書くことにしました(笑)」

それが、新作長編『今を春べと』だ。主人公は39歳の希海(のぞみ)。幼稚園児の息子・郁登(いくと)を子供向けのかるた教室に連れていったところ、希海も郁登も和歌や競技に夢中になる。だが、小学生になると郁登の興味はサッカーに移り、今度は夫が張り切りだす。かるたの面白さが忘れられない希海は、思い切って大人もいるかるた会に入会。主催者の勧めでD級を目指すことを決意する。ルールや戦術の多様さ、競技者の個性など競技かるたの面白さをたっぷり伝えてくれる本作だが、それだけではない。希海は家族との関係に悩むこととなる。

「大人になってから趣味を始めると、家族の時間とのバランスの問題が生じるなと思って。そのあたりは、まだあまり言語化されていなかったものが書けた気がします」

家族の話題はサッカー中心。夫も息子も希海の趣味には無関心。そして大事な大会の日に、不測の事態が生じてしまい…。

「趣味って価値を軽んじられがちですよね。何かあった時に優先順位が低くなるのは分からなくもないですけれど、価値も低いというわけじゃない。むしろ、自分のやりたいことをするって、めちゃくちゃ大事だと思います。“仕事とプライベート”のプライベートには家族や家事の時間だけでなく、一人の時間も含まれていいんじゃないかな、って」

これは夫婦小説でもあると思う、と奥田さん。夫婦の成長が感じられるエピローグにぐっとくる。

奥田亜希子

おくだ・あきこ 2013年にすばる文学賞を受賞した『左目に映る星』でデビュー。2022年に『求めよ、さらば』で第2回本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞受賞。他の著作に『運命の終い』など。

Information

『今を春べと』

希海は、息子と行ったかるた教室で競技かるたの面白さを知り、町のかるた会に入るが…。「今を春べと」は、競技の開始前に読まれる序歌から。双葉社 1870円

写真・土佐麻理子(奥田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

anan 2470号(2025年11月5日発売)より

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