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ミラノ発レトリが提案する、人生という旅に寄り添う服【若手デザイナー連載】

  • 2025.11.23

ミラノを拠点とするエジプト生まれのデザイナー、サルマ・ラシードが設立し、クリエイティブ・ディレクターを務めるレトリ(RETORI)。その中核にあるのは、「運命というものの祝福」、そして「私たち一人ひとりにはすでに書かれた物語があり、人生はそれを解き明かす旅なのだという信念」だ。「この指針となる哲学は、スローガンではなく、最も強力なストーリーテリングの形であるアートを通して表現されています」とラシードは説明する。

このユニークなレーベルのコレクションは、物語の“章”として構想されており、その物語は常に進化している。それぞれの作品は、その人生、挑戦、洞察を創作の源とするアーティストとの対話から始まるもので、対話は単なるインスピレーションではなく、エネルギー源となっている。「アーティストたちの経験から大切な教訓を引き出し、それを色、質感、感情に変換していくのです」とデザイナーは言う。

ラシードがレトリを立ち上げたのは昨年のこと。ブランドは父ラシード・モハメド・ラシードが経営するアルサラ・インベストメント・グループから支援を受けている。社会人類学をバックグラウンドに持つ彼女は、「社会がどのように機能し、個人がどのようにつながっているのかなど、私は常に“人”に興味を持っていました。その好奇心がすべての始まりです」と話す。ロンドンで学んだ彼女はその後、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)へと進み、クリエイティブライティングも探求した。「学問を織り交ぜるのが好きでしたね。ひとつの表現形式を選ぶのではなく、それぞれにつながりを見出すのです」

では、彼女はなぜファッションを選んだのか? ギャラリーを開いたり、芸術を突き詰めることは考えなかったのだろうか? 彼女はこう答える。「イタリアの優れた職人技に感銘を受けました。そこには純粋さがあり、完璧な土台となるものづくりの伝統があります。デザイン、絵画、音楽、食など、すべての芸術をひとつのプラットフォームまとめられるようなものを作りたいと考えました。着ることのできる、生きたアーカイブのようなものを」

そして、その中心にあるのは「ストーリー」だと彼女は続ける。「レトリという名は、古代の物語とコミュニケーションの芸術である“Rhetoric(レトリック:修辞学)”に由来しています」

レトリによる季節を超えたタイムレスな「Chapter 2」コレクションは、パリのクチュールウィーク中に、フランスの伝説的なアンティークディーラーであり装飾家であったマドレーヌ・カスタンの元アトリエで発表された。空間にアクセントを添えたインテリアピースは、ジョージアのトビリシを拠点とするデザイン集団Rooms Studioとのコラボレーションによるもの。一方、コレクションはオランダ系インドネシア人の若手アーティスト、ミコ・フェルトカンプとの対話によって形作られたものだ。フェルトカンプの作品は、インドネシア、デンマーク、ニューヨーク、スリナムで暮らしたアーティストの多文化的な生い立ちから影響を受けている。

どういった人をイメージしてデザインしているのかという質問に対して、レトリの顧客は生まれつきの探検家であり、いつだって好奇心旺盛で、「人生がもたらしてくれる、予期せぬ魔法のような出来事に対して常に準備ができているような人物」だとラシードは答える。そんな彼女が提案するワードローブには、身に纏う人とともに旅をするようデザインされた服が揃う。どれもエレガントでありながら実用的で、スタイルに妥協することなく快適さも追求されており、時の試練に耐えられるクオリティだ。

このコレクション全体に表現されているのは、フェルトカンプの世界中を飛び回る人生の旅。インドネシアの装飾的なモチーフや色使い、ゆったりとしたアジアのシルエット、そして熱狂的なニューヨークのエネルギーが、エレガントな実用性に根ざしたウェアラブルなワードローブのなかに織り込まれている。「マキシマリズムとは言えませんね。ミニマリズム的なシンプルさはありますが、決して冷たくもなく、渋くもない」とラシード。

フェルトカンプの幾重にも重なるビジュアルの世界からインスピレーションを得たルックには、しっかりとした構造とエフォートレスなシルエットのバランスが際立つ。コクーンコートにリバーシブルのアウター、羽のように軽いピージャケットは上質なダブルウールで仕立てられており、その柔らかな表情が印象的だ。マンゴスチンの形をしたファスナーは、アーティストのルーツである東南アジアにちなんだもので、ドット、グリッド、チェックといったグラフィカルなパターンは、リラックスしたテーラリングにアクセントを加えている。メンズウェアはボリュームと軽さが特徴で、旅行にも使えるコートから、シルクとカシミヤで仕立てられた適度なゆとりのあるスーツまで、そのラインナップは幅広い。

プレゼンテーションでは、コレクションのムードとカラーパレットの試金石となったフェルトカンプのオリジナルアート作品が2点展示された。「この2点はアーティストから譲り受けたものです」とラシード。毎シーズン、彼女は才能あるアーティストから、“章”のスピリットをとらえた作品を購入し、キュレーションしている。作品のなかには、新たに依頼したものもあれば、偶然見つけたものもあるという。

しかし、「単にコレクションしているわけではありません」と彼女は付け加える。「私たちはイベントを主催し、アーティストの展覧会をサポートするだけでなく、私たちとともに成長できるようなプラットフォームを作っています。お互いの協力があってこそ成り立つものですが、その過程で私たちは小さな、そして隅々まで考え抜かれたアートコレクションを構築しています。“動くギャラリー”のようなものだと言えるかもしれません」

Text: Tiziana Cardini Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.COM

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