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紅葉に包まれる秋の京都──びわ湖疏水船で味わう静かな時間

  • 2025.11.6

京都通信

今年8月27日、琵琶湖と京都を結ぶ「琵琶湖疏水」の諸施設が国宝・重要文化財に指定されました。明治時代に建設されたこの人工水路は、今もなお現役で活躍中。春と秋には、期間限定で観光船「びわ湖疏水船」が運航されています。とくに紅葉が見頃を迎える11月下旬〜12月上旬頃には、風情ある疏水沿いの景色と秋の京都を“水の上から”味わう贅沢なひとときを満喫できます。

蹴上乗下船場の周辺には、南禅寺水路閣や蹴上インクライン、ねじりまんぽなど、疏水関連の見どころが満載。この秋は、いつもと少し違った角度から京都を楽しんでみませんか。

京都の近代化の礎を築いた「琵琶湖疏水」

四季折々に美しい神社仏閣や手入れの行き届いた庭園、まちに息づく伝統文化など、今でこそ国内外の人々を惹きつけてやまない京都ですが、明治期には事実上の東京遷都によって衰退の一途をたどっていました。

この危機を打開するべく計画された策のひとつが、滋賀の琵琶湖から京都に水を引き入れるための水路「琵琶湖疏水」の建設。人々の暮らしや産業、文化を支える水源の確保のほか、水力発電などにも活用され、京都の近代化に大きく貢献しました。

かつては舟運も盛んで、人や貨物を運ぶための船などで賑わっていたそう。しかし交通網の発達とともに利用が減少し、1951(昭和26)年を最後にその姿は見られなくなりました。その後、明治150年を迎えた2018(平成30)年、67年ぶりに観光船として復活したのが「びわ湖疏水船」です。

蹴上乗下船場に隣接する「旧御所水道ポンプ室(重要文化財)」
蹴上乗下船場に隣接するレンガ建築は、1912(明治45)年に竣工された「旧御所水道ポンプ室(重要文化財)」。防火用水を京都御所へ送るために九条山山頂の貯水池に水を圧送するポンプを収めた建物で、京都国立博物館の旧館などを手掛けた片山東熊と内匠寮技師・山本直三郎によって設計された。

今年国宝に指定された3つのトンネル(第一、第二、第三隧道)や、重要文化財に指定された日本最初期の鉄筋コンクリート橋(第11号橋)、琵琶湖と疏水の水位差を克服するための大津閘門(こうもん)など、近代建築が物語る歴史ロマンと風情ある疏水沿いの風景に出合える、人気のアクティビティとなっています。

船上から見上げる、モミジのトンネル

運航期間中は、滋賀の大津港/三井寺発の下り便と京都発の上り便が運航。水の流れに沿ってゆったり進む下り便ではのんびりとしたクルーズを、水の流れに逆らう上り便ではエンジンを使った爽快な船旅と、それぞれに異なる感覚で楽しむことができます。

大津閘門(こうもん)の電動化改修工事完了に伴って、昨年から琵琶湖内の大津港までルートを延伸。2025年秋季は11月20日〜24日、27日〜30日の8日間限定で、大津港〜蹴上間を遊覧する「びわ湖・大津便」が運航。疏水船に乗ったまま、閘門の開閉による水位変化の体験や、狭い水路から琵琶湖へと進む景色の広がりなどを楽しめます。

水門を開閉することで疏水と琵琶湖の水位差を調整する大津閘門
上り便・下り便とも、大津閘門で一時停止。水門を開閉し、閘室内の水位を調整することで、疏水と琵琶湖の行き来が可能に。
琵琶湖から疏水への玄関口となる琵琶湖築地
琵琶湖から疏水への玄関口となる琵琶湖築地。上り便では狭い疏水を抜け、琵琶湖へと出る瞬間の開放感が味わえる。

また、例年11月下旬〜12月上旬は疏水沿いのモミジが一斉に色づく、紅葉のベストシーズン。トンネルを抜けた先に見える色鮮やかな木々、両岸を覆うモミジが生み出す“紅葉のトンネル”など、赤や橙が重なり合う秋ならではの景色に思わず見惚れてしまいます。

秋の風を受けて進むびわ湖疏水船
秋の風を受けて進むびわ湖疏水船。木々の紅葉と疏水が見事に調和した美しい景色に魅了される。

船には専門ガイドが同乗し、沿線の景色や関連施設などの見どころを解説。いかにも関西らしいジョークを交えた面白トークで、建設時の逸話や豆知識などを教えてくれるので、十二分に楽しめること間違いなしです。

【びわ湖疏水船】
2025年秋季 運航期間:12月7日(日)まで ※運休日あり
料金:片道2,500円〜14,000円(完全予約制)※小人も同一料金
公式サイト:https://biwakososui.kyoto.travel/
時期によって運航ダイヤやルートが異なるため、詳細は公式サイトでご確認ください

乗船前後に立ち寄りたい周辺の見どころ

蹴上乗下船場がある岡崎・蹴上エリアにも、豊かな水を活用した日本初の事業用水力発電所や、疏水から引き入れた水の流れが美しい庭園を持つ無鄰菴など、琵琶湖疏水に関連する施設がたくさん点在しています。なかでも南禅寺水路閣やインクラインは、紅葉の名所としても知られるスポット。疏水船の乗船前後に立ち寄ってみてはいかがでしょう。

南禅寺水路閣

レンガ造りのアーチが連なる南禅寺水路閣
レンガ造りのアーチが連なる南禅寺水路閣。橋の裏手にある坂道から橋の上部に登れば、今もなお琵琶湖の水を京都に運ぶ様子が見られる。

南禅寺の境内を横切る「南禅寺水路閣」は、疏水の一部として明治時代に建設されたレンガ造りの水路橋。琵琶湖疏水の第一、第二、第三隧道とともに国宝に指定されました。

古代ローマを思わせるアーチ型デザインは、言わずと知れた美しさ。紅葉シーズンには、真っ赤に色づいたモミジに彩られ、よりいっそうの情緒を増した景色が楽しめます。

【南禅寺水路閣】
住所:京都市左京区南禅寺福地町86

蹴上インクライン

線路の上を自由に歩ける蹴上インクライン
現在は、線路の上を自由に歩けるようになっている。春の桜、初夏の新緑など、四季折々の景色が美しい。

こちらも国宝に指定された貴重な遺構。かつて疏水上流と下流の高低差を克服するため、疏水船を台車に乗せ、船ごと坂を上下させていた傾斜鉄道跡で、建設当時世界最長といわれる約582mのレールが形態保存されています。

桜の名所として知られていますが、実は秋の紅葉もキレイなんですよ。紅葉する木々の数は少ないものの、色鮮やかなモミジと廃線跡が織りなすノスタルジックな風景が印象的です。

【蹴上インクライン】
住所:京都市東山区東小物座町339

ねじりまんぽ

蹴上インクラインの下を通るねじりまんぽの入口
1888(明治21)年に竣工したねじりまんぽ。入口には、琵琶湖疏水事業を主導した当時の府知事・北垣国道の揮毫による扁額が。

蹴上インクラインの下を通る歩行者用のトンネル「ねじりまんぽ」。このユニークな名前は、古い言葉でトンネルを“まんぽ”と言うこと、そしてらせん状に積まれたレンガがねじれたように見えることに由来しています。

ねじれた構造の理由は、トンネルがインクラインに対して斜めに貫通しているから。強度を確保するために、レンガをらせん状に積む工法が採用されました。このようなトンネルはほかでも見られますが、現在も残っているのは全国でも20数カ所ほどだとか。

【ねじりまんぽ】
住所:京都市東山区東小物座町

びわ湖疏水船の魅力は、ただ景色を眺めるだけではありません。
先人たちの高い志と情熱によって成し遂げられた、明治の偉業。そこに息づく歴史ロマンにふれる船旅をぜひ満喫してくださいね。

Text by Erina Nomura

 

野村枝里奈
京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。

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