1. トップ
  2. 14年前、資生堂CMで響いた“余白の美” 何度聴いても飽きないワケ

14年前、資生堂CMで響いた“余白の美” 何度聴いても飽きないワケ

  • 2025.12.15

「14年前の冬、どんな音があなたの毎日を包んでいたんだろう?」

白い息がふわりとほどける朝、電車の窓に映る街並みは少しだけ落ち着いていて、その静けさの中にそっと寄り添うように流れてきた曲があった。決して強く主張しないのに、耳に触れた瞬間、空気がやわらかくなるような一曲。

土岐麻子『Gift 〜あなたはマドンナ〜』(作詞:小野健、EPO・作曲:EPO)――2011年1月19日発売

ゆっくりと温度を上げる“やわらかな存在感”

土岐麻子の2枚目のシングルとして発表された『Gift 〜あなたはマドンナ〜』は、資生堂『ELIXIR SUPERIEUR』のCMソングとして放送され、ふと耳に入るたびに季節の空気ごと印象を変えるような役割を果たしていた。

この楽曲の最大の特徴は、“押しつけないまま気持ちを高めてくれる”その軽さだ。都会的で洗練されているのに、どこか日常の手触りがあって、聴いているだけで心の温度がほんの少し上がるような、不思議な心地よさがある。

作曲を手がけたのはEPO。彼女が長年培ってきたポップスの美学が、土岐麻子の透明度の高い声と結びつき、都会的でありながら温かく、そよ風のように軽やかな仕上がりになっている。

undefined
2012年、アルバム『カセットフル デイズ』を発表で取材を受ける土岐麻子(C)SANKEI

“声の質感”が作り出す柔らかい光

この曲を語る上で欠かせないのは、やはり土岐麻子のボーカルだ。伸びやかで澄んだ声は、主張するというより“そこに存在しているだけで景色を変える”タイプ。メロディの抑揚も大きすぎず、ささやくような軽さで心に届く。

編曲には、都会的な香りが漂いながらも余計な装飾をそぎ落としたアンサンブルが採用されており、楽曲全体に“ちょうどよい余白”が保たれている。

忙しない日々の中で、ほんの短い時間でも呼吸を整えてくれるような、そんな光の差し込み方をする曲。派手なサビや大げさなドラマ性ではなく、音の隙間や柔らかなリズムが、聴き手の心をそっと撫でてくれる。

背景にあるEPOの表現力とCMの世界観

EPOといえば、80年代からJ-POPの礎を支えてきたアーティストのひとり。彼女の書くメロディラインは、軽やかでスムーズな流れの中に確かな芯があり、『Gift 〜あなたはマドンナ〜』でもその魅力が丁寧に息づいている。

また、資生堂『ELIXIR SUPERIEUR』のCMは大人の女性のナチュラルな美しさを描く映像で、土岐麻子の声はその“余白ある美しさ”と驚くほど相性がよかった。

CMで流れるたび、「あ、この声、好き」と思わせるタイプの存在感。何度聴いても飽きない曲は、こうして生活の中に自然と溶け込んでいくものだ。

日常にそっと寄り添う、変わらない魅力

リリースから14年が経った今でも、この曲が放つやわらかな光は色あせない。“気持ちを押し上げる”のではなく、“整えてくれる”音楽。そこには、誰にとっても必要な優しさが確かに宿っている。

日々の中でふと立ち止まった瞬間、この曲がそばにあるだけで景色が少し違って見える。そんな、静かで確かな力を持った一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。