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19年前、時代より先に鳴っていた“未確認フューチャー” 3人の少女が紡いだ“ブレイク前の核心”

  • 2025.12.21

「19年前の冬、あの街角にはどんな音が流れていたんだろう?」

2006年の始まり。雑踏に混じる着メロの電子音、携帯を開くと漏れる微かなバックライトの青。街の空気には、どこかザラついたデジタルの匂いが漂っていた。けれど、人々はまだ気づいていなかった。未来のJ-POPを大きく塗り替える“新しい電子の鼓動”が、ひっそりと鳴り始めていたことに。

Perfume『コンピューターシティ』(作詞・作曲:中田ヤスタカ)――2006年1月11日発売

まだ誰も「Perfume」という名前の本当の価値を知らなかった頃。彼女たちの“未来”は、このシングルから動き出していた。

デジタルの街で、まだ無名だった3人が走り出した

『コンピューターシティ』は、前作『リニアモーターガール』、次作『エレクトロ・ワールド』と並ぶ、いわゆる近未来3部作の第2弾。

今でこそPerfumeはJ-POPを象徴する存在として語られるけれど、このころはまだ“売れていないテクノポップの女の子たち”という扱いだった。メディア露出も少なく、街で気づかれることなんてほとんどない。

それでも、その頃からすべてがずば抜けて鋭かった。中田ヤスタカが描く電子音は、当時の邦楽シーンの主流から大きく逸れていて、ポップスにテクノの冷たさと温度差を持ち込む“挑戦”そのものだった。それが、のちに日本の音楽の常識を変えていくなんて、誰が想像しただろう。

研ぎ澄まされた機械音に潜む、ひとのぬくもり

『コンピューターシティ』が放つ最大の魅力は、都会的な冷たさをまといながらも、どこか“人間らしい鼓動”が感じられる点にある。

無機質なシンセが規則的に刻むビート。その中で、3人の声がひとつの旋律として流れていく。電子と人間の境界が曖昧になるような、当時としては異例の音像。聴けば聴くほど、その“距離感の不思議さ”がクセになる。

中田ヤスタカ特有の重心のあるキック、硬質なリフレイン、シャープなメロディ構成。“歌”としての強さより、音楽全体の立体感が前に出てくる構造は、この時点ですでに現在のPerfume像を予感させている。

カップリングに込められた“これがPerfumeです”という宣言

シングルのカップリング『Perfume』(作詞:木の子・作曲:中田ヤスタカ)は、その名の通り“Perfumeのテーマソング”的な曲だ。ライブではラストに歌われることも多く、掛け声とともに非常に盛り上がる。この曲には、デビュー間もない3人の素直さや、夢に向かう真っ直ぐさがそのまま音に乗っている。

無名のアイドル的な立ち位置だった彼女たちが、テクノポップという特異なスタイルで勝負し続けるには大きな覚悟が必要だったはずだ。それでも彼女たちは、自分たち自身を信じて歌っていた。だからこそ、このカップリングはひときわまっすぐな光を放つ。

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2024年、「第53回ベストドレッサー賞発表・授賞式」に登場したPerfume(C)SANKEI

“ブレイク前”だからこそ残せた音の純度

テクノが主流ではなかった時代に、アイドルの文脈に電子音を混ぜ合わせるという挑戦は、決して安全な選択ではなかった。それでも、適性と感性が恐ろしいほどにマッチしていた。後年の大ブレイクを知る私たちから見れば、この時期の彼女たちはまるで“時代に飛び出したフライングの天才”のようだ。

実際、『コンピューターシティ』はランキング上位に駆け上がったわけでも、爆発的に売れたわけでもない。けれど、のちに語られるようになるPerfumeの物語に欠かせない“始まりの核心”が、確かにここにある。

未来の輪郭が、ぼんやり光り始めた瞬間

この曲から続く「近未来3部作」は、Perfumeが“電子音のグループ”としての道筋を示した重要なターニングポイントだった。

後に彼女たちは『ポリリズム』で大ブレイクしていくが、その下地はすでに『コンピューターシティ』の中で静かに鳴っていたと言っていい。時代が追いつく前に、未来を先取りしたサウンド。無名の3人が、ただ真っ直ぐに、ただ硬質に鳴らした電子の光。

19年前、街のどこかでかすかに響いたこの音こそ、Perfumeという“未確認フューチャー”の信号だったのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。