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27年前、歌声に込められた“暗闇と希望” “不穏なバラード”で1位を獲ったワケ

  • 2025.12.21

「27年前、あの冬の街には、どんな音が響いていたっけ?」

乾いた風がビルの谷間を抜け、夕暮れの色がやけに灰色に見えた1998年の初め。景気の回復は遠く、人々の胸の奥には言葉にならないざわつきがあった。そんな“止まった時間”のような空気の中で、ある曲が静寂を裂いた。

THE YELLOW MONKEY『球根』(作詞:吉井和哉・作曲:吉井和哉)――1998年2月4日発売

その音は穏やかなバラードでも、華やかなポップスでもなかった。どこか荒んだギターのうねりが、冬の空気とやけに相性が良かったのを覚えている。

揺らぎの時代に生まれた、ロックバラードの金字塔

『球根』は、THE YELLOW MONKEYにとって初のシングルチャート1位を獲得した記念すべき一曲で、クォーターミリオンを超えるセールスを記録した。

90年代後半という時代の空気をまといながら、吉井和哉の歌声は、派手な主張よりも“何かを抱えている静けさ”を帯びていた。その静けさが、当時の日本の空気に妙にフィットしていたのは、偶然ではないように思える。

Aメロからささやくように沈み込み、Bメロ冒頭の爆ぜるスネア音から徐々に熱を帯びていき、サビで解放されていく。この構成が、曲のドラマ性を際立たせている。歪んだギターは決して前に出すぎず、どこか不穏に揺れながら、曲そのものの鼓動をかき立てていく。

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1997年、西武球場で行われたTHE YELLOW MONKEYのライブより(C)SANKEI

不安と痛みを抱えた“声”が持つ吸引力

『球根』の最大の魅力は、吉井の声が持つ“言葉の温度”にある。低音の震え、水面をなぞるような語り、そしてサビで一気に天井へ駆け上がる歌い回し。どの瞬間にも、聴く側の心に触れてくるような繊細な質感がある。

バンド全体のアンサンブルも鮮烈だ。ギターの不穏なコードワーク、リズム隊の引きずるようなグルーヴ。どれもが派手に主張しすぎず、しかし確実に胸の奥を揺らしてくる。だからこそ、“暗闇の中で、光に手を伸ばすような感覚”が、何度聴いても自然と立ち上がるのだ。

曲に漂うグランジ・オルタナ特有の湿った質感。世界的ムーブメントを吸収しながら、日本の状況や情感に落とし込んだ稀有な一曲だったといえる。

THE YELLOW MONKEYの“転がり始めた瞬間”

『球根』は、バンドが次のフェーズへ踏み出す転換点のような役割も果たした。

爆発的な派手さではなく、深みや陰影のあるロックバラードで1位を獲得したことは、当時の日本の音楽シーンにとっても象徴的だった。

のちに数々の名曲を残すバンドの中で、『球根』が今なお強く記憶に残る理由。それは、この曲が放つ“揺れながら前に進むエネルギー”が、時代を越えてもなお聴き手の胸に刺さり続けるからだ。冬の街で立ち止まった瞬間にふいに蘇る、あのざらついた質感と静かな希望。

27年経った今でも、『球根』は変わらずに私たちの心に芽を出し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。