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27年前、“シタールの音”で仕掛けた60万ヒット 心を一瞬で連れ去った“蒼い衝動”の正体

  • 2025.12.21

「27年前、あの春の街に吹いていた“青い風”を覚えてる?」

桜が散り始め、夕方の空気に少しだけ湿った匂いが混じる頃。通学路でも仕事帰りの駅前でも、どこからともなく流れてきたのは、聞き慣れたはずのロックなのに、どこか遠い国の熱気をまとった不思議なサウンドだった。

B’z『さまよえる蒼い弾丸』(作詞:稲葉浩志・作曲:松本孝弘)――1998年4月8日発売

一聴しただけで胸の奥がざわつくような、見知らぬ場所へ連れ去られる感覚。春の柔らかい空気とはまるで違う、鋭く跳ねるビートが、当時の日本の街に新しい色を落としていった。

異国の温度をまとったB’zの“挑戦の春”

『さまよえる蒼い弾丸』は、B’zにとって24枚目のシングル。大塚製薬「ポカリスエット」のCMソングとして放たれ、ランキング初登場1位、60万枚以上のセールスを記録した。

当時の彼らは、すでに国民的ロックユニットとして圧倒的な人気を誇っていた。それでも、松本孝弘が鳴らすギターは常に“次の音”を探し続け、稲葉浩志の歌声もまた、作品ごとにまったく違う姿を見せていた。この曲に宿ったエスニックな響きは、その姿勢を象徴するものだった。

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B'z(C)SANKEI

“蒼さ”が疾走する、唯一無二のサウンド

この曲の最大の魅力は、なんといってもそのアレンジにある。エレクトリックシタールの独特の響き、ガムラン風のパーカッションに、松本の激しいギターサウンド。それらが複雑に重なりながらも決して散らばらず、異国の熱気と日本的な疾走感が同時に押し寄せる、稀有なバランスを成立させている

松本のギターはときに鋭く、ときに跳ね、まるで風の流れが急に変わるようなスリリングさを生む。稲葉のボーカルはそこに真っ直ぐ乗り、曲の持つスピードをさらに加速させていく。

歌詞に触れずとも、その声の温度と勢いだけで、聴く側の心拍数が一段上がるようだった。

ポップスでもロックでもない“ジャンル外の魅力”

1998年といえば、J-POP全体が華やかさと勢いに満ちていた時代。そんな中で『さまよえる蒼い弾丸』は、単なるタイアップ曲という枠をあっさり飛び越えた。

ロックの骨格を持ちながら、明確に異国のサウンドを意識した構造。だけど決して世界音楽的な寄り道ではなく、B’zの持つエッジをさらに研ぎ澄ませる方向に作用している

ポカリスエットのCMで流れた瞬間の“何だこの音は”という衝撃。そしてその印象は、実際にフルで聴いた時にはっきりと確信に変わった。“これはヒット曲というより、冒険そのものだ”と。

90年代末に刻まれた、蒼い記憶の残響

『さまよえる蒼い弾丸』は、B’zの歴史の中で特に“挑戦の色”が濃い一曲だ。その挑戦は、単に音楽的な要素にとどまらず、作品全体の空気にまで影響している。

異国の匂いがするのに、懐かしい。疾走感に満ちているのに、どこか湿り気がある。その“相反する質感”が、1998年という時代の空気と不思議なほど呼応していた。

あの年の春の空気を思い出す時、ふと脳裏に響いてくるイントロの“蒼さ”。記憶のどこかに、いつまでも残り続ける理由は、きっとその温度にある。

そして今聴いても、あの頃と同じように胸を奮わせる。音楽が時代を超えて心に宿るとは、こういうことなのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。