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27年前、発売当初は売れなかった“青春の夏ウタ” ゆっくり国民的ソングになったワケ

  • 2025.12.21

「27年前、あの夏の始まりを知らせた“音”って何だった?」

夕方の商店街に響くアコギの音色、冷たくなりきれない風、制服姿で自転車を押す学生の笑い声。1990年代後半の日本には、そんな“小さな夏の気配”があちこちで揺れていた。その空気をすくい上げるように生まれ、気づけば全国へ静かに広がっていった一曲がある。

ゆず『夏色』(作詞・作曲:北川悠仁)――1998年6月3日発売

ここから、ゆずというふたりの物語は大きく動き出した。

ゆっくり、ゆっくり広がった“ストリートの風”

『夏色』はゆずのデビューシングル。だが、最初から爆発的に売れたわけではない。発売当初はランキングで上位に食い込むタイプではなく、まさに“じわじわ広がる曲”だった。

横浜・伊勢佐木町の路上で観客と向き合ってきたふたりの音は、短期的なインパクトよりも“人づてに広がる強さ”を持っていた。アコースティックギターの真っ直ぐな響き、ふたりの声の鮮度、肩の力が抜けたテンション。どこか「自分の夏にもこんな瞬間があった」と思わせる素朴さが、静かに浸透していった。

その積み重ねが効き、リリース後しばらくしてから徐々に売れ行きが加速。ラジオでのオンエアや口コミが後押しし、いつしか“夏の定番曲”として認知されるようになっていく。

軽やかで、眩しくて、少し切ない“ゆずの原点”

『夏色』は、ゆず初期の魅力がそのまま閉じ込められたような音だ。アコギのストロークは軽快なのに、地面を蹴るような力強さもある。北川悠仁のまっすぐな声と、岩沢厚治の澄んだ高音が交差するたびに、空気が一段明るくなるような感覚を覚える。

メロディはシンプルでキャッチー。だがその裏に、ふたりが路上で重ねてきた時間の体温がしっかり息づいている。だからこそ、聴く人の心の奥に“自分の夏の記憶”をふっと呼び起こす力がある。

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2017年、デビュー20周年プロジェクト会見をおこなったゆず(C)SANKEI

ライブでの“名物”が、曲を永遠のものにした

『夏色』が国民的な夏ソングとして定着したもうひとつの理由が、ライブでの名物演出だ。

サビ前の「もう1回!」。これは、ライブで必ず盛り上がる名シーンとして知られている。観客の「もう1回!」の声を受けて、何度も同じフレーズを繰り返す。北川がニヤッと笑いながら煽り、会場が一体となって跳ねる。もはや“お約束”を超えて、ゆずのライブ文化そのものになった。

CDで何度も聴いた曲が、ライブで“今ここだけの夏”として蘇る。その体験をした人がまた口にし、さらにファン以外の層にまで広まっていく。

こうして『夏色』は、リリースから20年以上経った今でも、世代を問わず愛される“永遠の初夏の合図”になった。

あの夏の気配は、今も変わらない

『夏色』は、特定の年や出来事を歌った曲ではない。なのに、聴くたびに“あの頃の自分”を呼び起こしてくる。

夕方の空気の温度。風の匂い。好きだった人の横顔。

人は、夏にまつわる記憶を無意識のうちに持っている。この曲は、その記憶にそっと触れてくる。

だからこそ、リリースから27年経っても、毎年夏が来るたびに誰かの心で鳴り始める。ゆずというデュオの始まりを告げた“最初の風”。それが『夏色』だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。